HondaGO BIKE LAB

「コーヒー・ブラックバード」で元ホンダビックバイク開発エンジニアが淹れる究極のコーヒー

浜松市にライダーが集まるカフェがあります。
コーヒー・ブラックバード」というこのお店、実はCBR1100XXスーパーブラックバードのLPL(開発責任者)を担当された山中勲さんが退職後にオープンさせました
浜松近辺はもとより、県外からも多くのライダーが訪れるというこのカフェにどんな魅力があるのか。
そしてマスターの山中さんが、どんな方なのかを紹介することにしましょう。

マスターはホンダ・ビックバイク開発のエンジニア

山中勲さんは1945年浜松市に生まれました。
高校卒業した1963年、本田技研 鈴鹿製作所に入社し、1974年に本田技術研究所の朝霞研究所に異動し、ここで様々なバイクの開発に携わることになりました。
70年代後半、世界耐久ロードレース選手権で不沈艦の異名を持つほどの強さを誇ったレーシングマシンRCBやCB900F、CB750F、CB1100Rなどの車体設計を担当し、V4エンジンを搭載したVF750FでLPLを務めました。

1980年代からホンダのV4エンジンを搭載したバイクは世界中で大人気となりました。
これらのV4マシンの開発には、ほぼすべて山中さんが関わっています。

こちらは1気筒あたり8バルブ、楕円ピストンという革新的なメカニズムで世界を驚愕させたNRの海外発表会の様子。
その後はゴールドウイングGL1500
なども手がけ、世界最速を狙ったフラッグシップモデルCBR1100XXスーパーブラックバードのLPLとなりました。

CBR1100XXスーパーブラックバードは、世界最高の動力性能を発揮して、高速でも安心して走れる車体と軽快なハンドリング、上質な走行フィーリング、長距離ツーリングでの快適性など、世界最高レベルのトータルバランスを目指して設計されました。

つまり、当時のホンダの技術力の粋を結集した究極のスポーツバイクです。

(photo/U.S.Air Force)
ちなみにこのバイクの名前でもあり、現在のお店にも使われているブラックバードというのは、アメリカのロッキード社が作った世界最速の偵察機、SR-71のこと。
高空を高速で飛行することから、従来の防空システムでは撃墜することが不可能だとまで言われた超高性能機です。

「最初からSR71ブラックバードのようなバイクがコンセプトだったわけではないんですよ。ただ、最高のエンジンと最高の車体を追求していったら、考え方がとても似たバイクになっていったんです。そこでロッキード社に連絡をして、バイクの名前にさせてもらいました
山中さんは、このCBR1100XXスーパーブラックバードを最後に設計の現場を離れ、2005年に退職します。

2年かけ、独力でカフェを建築

浜松に戻った山中さんは、「バイク好きが集まって語り合える場所が欲しい」という思いから、自宅の庭に2年かけて自分で建物を作ります。
コーヒーのことも勉強してコーヒーマイスターの資格も取得しました。
実は山中さん、ホンダで設計をしていた頃からコーヒーが大好き。
「ホンダはコーヒーを飲みながら仕事をすることが許されていたからありがたかったですよ。いつも図面を引きながら、コーヒーを飲んでいました」

エンジニアの探究心で、最高のコーヒーを追求した結果、通常のドリップ式ではなく、フレンチプレスというスタイルを採用
淹れ方などの条件によって味が変化しないので、常に同じ味を再現することができます。
また、紙のフィルターを使用しないので、大事な味の要素の一つであるカフェオイルが吸収されることなく、しっかりと抽出できるのです。
山中さんは「熱き心で夢を創らん」という手記で、開発にあたっていた時の想いを伝え、多くの人たちに感銘を与えました。
ブラックバードで提供されるコーヒーは、正しく山中さんの熱き心が創り上げた一杯なのです。

バイクの開発と変わらぬ熱量をコーヒーに注ぐ

今回、コーヒー・ブラックバードを訪れたタケルさんは22歳。
バイクに乗りはじめて間もないのでヒストリーに関しての知識はありませんが、それでも山中さんの愛車を見せていただき、当時のお話を興味深そうに聞いていました。
デザイナーや広告の仕事をしているタケルさんにとって、山中さんのモノづくりに対するスピリットは、深く感じるところがあったようで、自宅に戻ったら山中さんの著書「ホンダ・フラッグシップ開発物語」を購入して読んでみたいと話していました。

コーヒー・ブラックバードに来たら、もちろん山中さんのコーヒーを飲まないわけにはいきません。
使っているのは、店をスタートした当初から使い続けているスペシャリティコーヒー豆のみ。
信頼のおけるコーヒー豆業者に依頼しているものです。

メニューは上側がマイルドなコーヒー。
下に行くに従って、少しずつストロングな味わいになっていきます。

コーヒー・ブラックバードのために作られたスペシャルブレンドもありました。

コーヒーは好きだけれど、詳しくないというタケルさん、山中さんの説明を聞いてブラックバードブレンドをオーダー。
注文を受けたら豆をひくところからスタートします。

お湯を注いだら砂時計が置かれます。
4分間コーヒーを蒸らしたら、自分でプレスしてカップにコーヒーを注ぐのです。
ドリップに比べると時間はかかりますが、コーヒー好きならその違いがきっと分かるはず。

今回取材で訪れたタケルさんは、コーヒーに対しての知識がそれほどあったわけではありませんが、それでも今まで飲んでいたコーヒーとは違ったそうです。
コーヒー特有の苦味が少なくて優しい感じがすると共に、奥深い味わいと香りがあったと言います。

本当のバイク好きとコーヒー好きのための空間

コーヒー・ブラックバードは、東名高速舘山寺スマートICから5分
奥まった場所にあるので、道路からそれらしい建物は見えません。
初めて訪れる人は、この看板を良く見ていないと通り過ぎてしまうかもしれません。
でもこの隠れ家感がまたコーヒー・プラックバードの良いところ。
本当にバイクやコーヒーが好きで、コーヒー・ブラックバードを探してやってくる人達だけの場所になっているからです。

民家に入り込んでいくような感じなので、最初は「ホントにここで良いの?」と思いますが、パーキングサインに従って迷わずに進むと奥がバイク用のパーキングスペースになっています。

写真では真ん中にバイクを入れていますが、休日は多くの人達が訪れるので、他の人達のバイクが止められるスペースを確保しておくようにしてください。

駐輪スペース横の棚にヘルメットを置いたら目の前にコーヒー・ブラックバードの建物が見えます。

建物の中に入ると山中さんが手作りした空間が広がります。

壁や棚には、山中さんが手がけられたバイク関係の写真や資料がたくさん飾られていました。
ホンダ車好きにはたまりません。

もしもコーヒー・ブラックバードに行くのであれば、是非山中さんの著書である「ホンダ・フラッグシップ開発物語」をご一読しておくことをオススメします。
山中さんと濃密な時間が過ごせることは確実です。
ちなみに中部地方でライダーに人気の奥浜名オレンジロードからもコーヒー・ブラックバードは便利な場所にあります。
オレンジロードの麓にある気賀の町からバイクで15分くらいの距離。
天気の良い日にオレンジロードや奥浜名湖のツーリングを楽しんだら、コーヒーブラックバードに立ち寄ってから東名高速で帰宅するなんていうツーリングプラン、楽しそうだと思いませんか?

【コーヒー・ブラックバード】
 住所:〒431-1201 静岡県浜松市西区深萩町304-2225
 電話番号:090-7733-0807/053-486-0365
 営業時間:土/日10:00〜18:00 月/火 12:00~19:00
 定休日:水木金
 Webサイト:コーヒー・ブックバード

【文/後藤武(外部ライター)】

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