HondaがEVスクーターの普及に本気になった。そう感じさせる完成度の『CUV e: 』は、長くスクーターを乗り継いできた人でもスムーズにEVに移行できるほどに違和感がありません。だけどそこには「開発者の知られざる努力」があることをご存じでしょうか。
ずっと『原付二種スクーター』に乗ってきた人にこそ

CUV e: 開発責任者(LPL) 後藤香織さん
2025年6月に発売された原付二種クラス相当の新型EVスクーター『CUV e: 』は、これまでのEVスクーターとは一線を画すると言ってもいいほどの完成度をもって登場。滑らかなパワーフィーリングや快適な乗り心地、ハンドリングなどトータルバランスは既存のガソリンエンジンのスクーターに乗り慣れたライダーをも納得させる仕上がりになっています。
開発責任者(LPL)を務めた後藤さんが言うには、実のところ『CUV e: 』というEVスクーターには開発初期段階から『いまガソリンエンジンの原付二種スクーターに乗っている人にこそ体感してほしい』という想いがあったとのこと。そのために既存モデルに乗り慣れた人が『CUV e: 』を運転をした際に違和感を感じないよう徹底的にこだわって開発を進めてきたそうです。
その熱意もあって『CUV e: 』はガソリンエンジンの既存モデルから乗り換えても本当に違和感ゼロ。先に行われた試乗会では素直に『EVスクーターもここまで来たか……』と驚嘆するほどでした。既存モデルとはまるで違う『EV』をここまでに仕上げる努力は並大抵のものではなかったはず……。
これは、そう感じた『CUV e: 』の試乗を終えた後のこと。偶然の立ち話で聞いた小さな開発エピソードのひとつに過ぎません。
でもそれに対して私(北岡)は「それって地味にスゴくないか……?」と感じたので、今回はすこしお話させて頂こうと思います。
走り始める前から『違和感』を感じては本末転倒
それは「ライディングポジション」と「足つき性」についてのお話でした。
『CUV e: 』のライディングポジションは先に言ったとおり『既存の原付二種スクーター』から乗り換えても違和感を感じさせないことを第一義としていたため「ハンドル位置」「着座位置」「足を置く位置」は既存モデルで培ったデータの蓄積をベースに「この位置関係でいこう」と決められたそうです。もちろんそこには足つき性も含まれます。
けれど車体設計を担当する開発スタッフにとっては、それはいきなりの『困難』でした。
なぜなら『CUV e: 』は前提条件としてバッテリーとなる『Honda Mobile Power Pack e: 』を2個搭載しなければいけません。
だけどバッテリー1個でもそのサイズは高さ29.8cm×幅17.73cm×奥行15.63cm(最大外寸)という大きさ……それを格納するためのスペースはどう考えてもシート下以外に存在しません。だからと言って何も考えないままにバッテリー2個をシート下に入れたらシート高が高くなることが避けられない。
このままではライディングポジションも足つき性も『既存モデルに乗り慣れた人』が走り出す前の時点で違和感を感じる要因になりかねない!?
それを経験から直感したのでしょう……『CUV e: 』の開発が始める超初期の段階で『バッテリーは絶対に角度をつけて搭載させてほしい』とお願いしたそうです。
その理由はすこしでもバッテリーを搭載した状態での「シートの高さ」を抑えるため。走り出す前段階、ライダーが跨ったその時点でライディングポジションに対し『なんだか変だな? やっぱりEVだからか……』という先入観によるネガティブな印象を与えてしまっては本末転倒です。どれだけ『CUV e: 』全体の完成度が高くとも、乗ってもらえなくなってしまう可能性だってあります。
長く原付二種スクーターに乗ってきた人にも違和感を感じさせない……実はそこには「走り出す前」のことも含まれていたんです。

CUV e:車体設計担当:佐々木 望さん
この話を聞かせてくれたのは車体設計に携わった佐々木 望さん。まだ若いエンジニアだけれども『実はけっこう苦労してるんですよー?』なんて笑いながらこのエピソードを話してくれました。
それが事実に『CUV e: 』の試乗会で私(北岡)が気にしていたことを言えば「モーターのパワーは?」「 変にフラついたりしないか?」「航続距離は?」といった走り出してから後のことばかり。車体設計に関わるエンジニアとしてはもうその時点で『してやったり』と思っていたかもしれません。
ベテランのライダーにも違和感を感じさせない。そのために「ベテランだからこそ感じるであろう違和感」をも想定して乗り越えている。
新型EVスクーター『CUV e: 』は発売以来「走りがいい!」「ガソリンエンジン車のスクーターと比較しても違和感がない!」と走行性能に対しても高い評価を得ています。だけど実際には、そういった評価に至る『前の段階』から狙いすまして作り込まれていた。
走り出す前から『Hondaの本気』が注入されている……それが新型『CUV e: 』というEVスクーターの真実なんです!
【文/北岡博樹(外部ライター)】