8月1日~3日に三重県・鈴鹿サーキットで開催された「2025 FIM世界耐久選手権”コカ・コーラ” 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第46回大会(以下、鈴鹿8耐)」で、Hondaのファクトリーチーム「Honda HRC(#30)」が勝利し、昨年に引き続き4連覇という快挙を達成!
急きょ2名体制で挑むこととなった決勝レースでも並み居る競合チームを抑えて総合優勝を勝ち取りました!
2人体制でも完璧なレース運びで勝利を掴んだチームHRC

左:ヨハン・ザルコ 選手、右:高橋巧 選手
8月1〜3日の日程で開催された「鈴鹿8時間耐久ロードレース 第46回大会」は、Honda HRCチームにとって波乱の幕開けとなりました。
Honda HRCのライダーは、昨年に引き続き、通算6回の鈴鹿8耐優勝を誇る「高橋巧(タカハシ・タクミ)」選手と、HondaのMotoGPライダー「ヨハン・ザルコ」選手という強力なライダーに加え、WSBKから「イケル・レクオナ」選手の3名体制で挑む予定でした。
しかし、レクオナ選手が鈴鹿8耐前週のWSBKハンガリー戦で他車のクラッシュに巻き込まれ、左手首を骨折する大怪我を負ってしまいます。Honda HRCは急遽、代役となるチームメイトの「チャビ・ビエルゲ」選手を起用すると発表しましたが、手続き上の理由によって今大会に参加することが叶いませんでした。
レースウィークも目前に迫り、あまりにも直前の出来事に困惑するも、高橋巧 選手とヨハン・ザルコ選手は「もうやるしかない」と決断。近年の鈴鹿8耐の上位チームでは数少ない2名体制での参戦をチームとして決定しました。
8月1日の予選では、2名の平均で決めるトップタイムを記録したHonda HRCは、決勝前日の8月2日に上位10チームで争われる「トップ10トライアル」に進出。
2名のライダーが1人一周ずつ走るトップ10トライアルでヨハン・ザルコ選手が大会レコードタイムの2分4秒290を記録し、Honda HRCは見事、ポールポジションを獲得します。
しかも、このタイムは46年間続く鈴鹿8耐のコースレコードを更新するという大記録!2名体制での懸念を払拭してくれる絶好のグリッドスタートで決勝に挑むこととなりました。
Honda HRC 絶好のポールポジションを獲得して決勝スタート
そして2025年8月3日、第46回大会となる鈴鹿8時間耐久ロードレースの決勝が11時30分に幕を開けました。
スタートはコースサイドから55名のライダーが一斉に走ってマシンにまたがる鈴鹿8耐名物のル・マン式。#30 Honda HRC(高橋巧 選手)はポールポジションからの滑らかなスタートでホールショットを奪います。
しかし、NIPPOコーナーで#73 SDG Team HARC‑PRO. Hondaの(國井勇輝 選手)が勢いよく仕掛けてオープニングラップを奪取。最序盤こそHARC‑PROにリードを譲るものの、14周目にトラフィックに掛かったSDG Team HARC‑PRO. Hondaが徐々にペースを落としたところを、Honda HRCがトップを奪い返しました。
スタート直後から厳しい日差しと気温34℃、路面温度64℃の猛暑が続く中、高橋巧 選手は冷静にラップを刻み、2分7秒台前半をキープし続けて序盤のポジション固めに徹しました。
1回目のピットストップを前にし、焦らずに燃費とタイヤマネジメントを重視した戦略が奏功し、競合チームとの差を徐々に広げていきました。
そして約1時間で高橋選手からザルコ選手へと交代。各1時間のインターバルのみで交互に走らなければならない2人体制ながらも無理のない継走で、Hondaとしては通算31勝目、ライダーとしても高橋巧 選手の鈴鹿最多7勝目を見据えた盤石な滑り出しとなりました。
その後も2時間を過ぎた時点でHonda HRCは首位を堅守し続け、6年ぶりに復活参戦したヤマハワークス(#21 YAMAHA RACING TEAM)とのトップ争いが徐々に形成されていくというオーダーに。しかしその後もHonda HRCは安定したレースを展開し2番手YAMAHA RACING TEAMに対し、既に40秒以上のリードを築いていました。
3回目のスティントを終えた高橋巧 選手は引き続き安定したペースで周回し、再びヨハン・ザルコ選手へ交代。ここまで無転倒・未トラブルで、燃費とピット作業のムダを最小限に抑えたチームワークが功を奏します。
レース中盤になると路面温度や気温の暑さなどの影響もあり、他チームでの転倒やマシントラブルが相次ぎ、やや荒れたレース展開になっていました。
そして、レース開始から6時間を経過する頃、SSTクラスのマシンクラッシュが発端でセーフティーカー(SC)導入の局面が訪れます。
Honda HRCがトップを独走し続けていたところでHonda HRCの前にセーフティカーが入ることとなりイエローフラッグが振られると、追い越しが禁止となる低速走行となり、2番手を走っていたYAMAHA RACING TEAMと1分以上あった差は2.5秒ほどにタイムが急速に縮まりました。
しかし、この時点で残すルーティンピットインが1回のHonda HRCは、2回のピットインを残しているYAMAHA RACING TEAMに対しては依然有利なのは確か。
また、セーフティカーが導入されているスロー走行時は、ライダーは集中力と休力を取り戻したり、チームはピット戦略を立て直すチャンスでもあります。Honda HRCはイエローフラッグ解除後も落ち着いて対応し、再び2位以降の後続チームに1分以上の差をつける展開となりました。
再びのイエローフラッグで今大会2度目のセーフティカーが導入
決勝レースも終盤に近づいた鈴鹿サーキットは、西日の眩しさもなくなりヘッドライトが輝きはじめるナイトセッションへ突入。
グランドスタンドの観客席は、赤、青、緑などのサイリウム(ペンライト)が揺れはじめ、観覧車も光輝く、鈴鹿8耐ならではの感動的な景色に彩られました。
しかし、ゴールまでの残り1時間を切った終盤で、レースは再び波乱の展開を迎えます。
他チームの転倒クラッシュでコース脇のエアクッションが壊れ、今大会2度目のセーフティカー導入。ラストに向けて猛プッシュを続けていた上位集団も一時的にペースダウンを迫られるレース展開に。
幸い10分程でイエローブラッグは解除されレースが再スタートされると、このタイミングで高橋巧 選手がピットインし、最終スティントをヨハン・ザルコ選手に託します。
セーフティーカー解除後は、一時的にYAMAHA RACING TEAMが首位に浮上しますが、レギュレーション上、YAMAHAはもう一度ピットインを要するため、最終スティントを迎えたHonda HRCが首位に返り咲く展開へ。
最終ライダーのザルコ選手は残りわずかとなったナイトレースでも、冷静かつ安定的なラップで2番手とのタイム差を守り続けながら、MotoGPライダーらしいアグレッシブな走りを続けました。
そして、スタートから8時間を迎える19時30分、217周を走りきったHonda HRCは、ザルコ選手が最終チェッカーを受け、4年連続の鈴鹿8耐勝利を達成!
最終的に2番手とのタイム差を約40秒つけて総合優勝を達成し、高橋巧選手は自身通算7勝目、Hondaとしても鈴鹿8耐通算31勝目を飾るという快挙を果たしました!
Honda HRCはチーム全体による燃料戦略、タイヤ消耗管理、ピット作業の素早さ、そしてライダー同士の連携が見事にかみ合い、結果として4連覇を2人体制で成し遂げ、鈴鹿8耐第46回大会で有終の美を飾りました。
表彰台を目指して戦ったHonda上位チームの活躍

SDG Team HARC‑PRO. Honda(#73)
#73 SDG Team HARC‑PRO. Hondaは、名越哲平(ナゴエ・テッペイ)選手、阿部恵斗(アベ・ケイト)選手、國井勇輝(クニイ・ユウキ)選手の3名体制で挑み、トップ10トライアルにも進出。
決勝スタート直後は高橋巧選手(Honda HRC)に続いて國井選手が果敢に首位に立ち、序盤からチームの存在感を示し一時トップに立つほどの大健闘を見せます。
その後、阿部選手、名越選手へと継続的なライダー交代を重ねながら、Honda HRCとのトップ争いを展開。特に序盤から中盤にかけて、安定したペースとミスのないピット作業で、上位の順位維持に成功。YAMAHA勢とも僅差のバトルが続きました。
しかし、中盤以降にSC(セーフティーカー)導入が次いだことで、リードが縮まり一時は集団の中に巻き込まれました。それでもチームは冷静に対応し、持ち直して順位を保つ展開に。レース終盤、Honda HRCの安定した戦略には叶わなかったものの、最終的には4位フィニッシュを果す大活躍をみせてくれました。

Team ATJ with docomo Business(#40)
#40 Team ATJ with docomo Businessは、岩田悟(イワタ・サトル)選手、鈴木光来(スズキ・コウキ)選手、國峰啄磨(クニミネ・タクマ)選手の3名で参戦し、最終予選のトップ10トライアルにも進出。岩田選手が2分06秒331を記録し、決勝レースは9番グリッドから挑みました。
Team ATJは決勝スタートから着実に順位を上げる展開で、岩田選手や他ライダーが交代を重ねつつ着実なラップタイムを維持。序盤は大きなトラブルなく進行し、Honda勢として堅実な走りを見せ、YAMAHA勢や他のHondaチームとの中団争いで存在感を発揮しました。
中盤ではSCが導入が次いだことでタイム差が詰まりましたが、ピット戦略を見直して再浮上に努めました。その後も安定感あるペース配分と的確なライダー交代で健闘し、シングルフィニッシュとなる7位を獲得しました。

Astemo Pro Honda SI Racing(#17)
ゼッケン17のAstemo Pro Honda SI Racingは、野左根航太(ノザネ・コウタ)選手、荒川晃大(アラカワ・コウタ)選手に加えてMoto3でも活躍する山中琉聖(ヤマナカ・リュウセイ)選手の3名で挑みました。公式予選では6位に入り、トップ10トライアルにも進出。10番スタートからの決勝レースとなりました。
決勝スタート後は着実に順位を維持し、序盤から中盤にかけては上位陣について行く展開に。3名体制の利点を活かしながら、ライダー交代によるリフレッシュを活かした走行で順位を堅持しつつ、チームとしても充分に表彰台圏内を狙える実力を備えており、Honda勢の中でも注目のレース展開を見せていました。
しかし、レース開始から約2時間が経過した中盤、山中から荒川へ交代し上位陣に迫る位置につけるも、急遽マシンがピットへ戻されクルーが迅速に対応にあたるも、メカニカルトラブルの深刻度が高く、復旧には長時間を要することが判明しました。
結果としてチームはレース続行を断念し、64周で無念のリタイアを決断。Astemo Pro Honda SI Racingにとっては厳しい結果となりましたが、来年のリベンジに向けてチームの再起に注目が集まります。

F.C.C. TSR Honda France(#5)
#5 F.C.C. TSR Honda Franceは、フランスの誇るHondaチームとして、EWCにフル参戦する耐久レースの強豪チーム。アラン・テシェ選手、コランタン・ペロラリ選手、羽田大河(ハダ・タイガ)選手の3名体制で出場し、決勝は14番グリッドからのスタートに。レース展開ではアラン・テシェが慎重かつ着実な走りで順位を上げ、19周目にはトップ10圏内に入り好調な滑り出しを見せていました。
しかし、レース開始から約1時間10分後、テシェ選手から羽田選手へライダー交代が行われた直後、マシンに「異音とパワーダウン」という兆候が発生。安全を優先してピットへ戻したものの、技術スタッフによる検査の結果、状況の深刻さからレース続行は困難と判断され、残念ながら正式にリタイアを決断しました。
エンジン故障もしくは電子制御系のトラブルが関係していた可能性もあり、今回の鈴鹿8耐は早期リタイヤとなってしまいましたが、次のEWC 2025最終戦であるボル・ドール大会に向けて原因究明とチーム体制の立て直しを図ります。
Honda HRCが見事4連覇を果たした2025年の鈴鹿8耐。チームHRCの完璧なレース運びと安定した速さ、そしてピット作業の精度が、勝利への決定打となりました。しかし、その勢いを追い詰めた他チームの奮闘もまた、今大会のハイレベルさを物語っています。
真夏の炎天下の中で8時間という過酷な戦いの中には、勝敗だけでは語れない数々のドラマが詰まっていました。転倒やマシントラブルに見舞われながらも、最後まで諦めずに走り切った全てのライダーとチームスタッフに拍手を送りたい。そして、すでに戦いは次なる鈴鹿へと動き出しています。
2026年、Honda HRCは前人未到の5連覇を成し遂げるのか。来年の鈴鹿8耐が今から待ち遠しくなります。
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▼Honda鈴鹿8耐サイトはこちら
https://www.honda.co.jp/hmj-event/8hours/
【文:岩瀬孝昌(外部ライター)】