MT(マニュアルトランスミッション)のバイクは、ラフなクラッチ操作やエンジン回転数に合わないギアの選択などをするとエンジンが止まってしまう「エンスト(エンジンストール)」を起こしてしまう場合があります。今回は突然のエンストを起こさないためにクラッチの仕組みや発進時&低速走行時などに必要になる「半クラッチ」の正しい使い方を解説します。
『エンスト(エンジンストール)』するのはラフなクラッチ操作が原因?
バイクのエンジンが突然停止してしまう「エンスト(エンジンストール)」には、いくつかのケースがありますが、そのほとんどが『発進時のクラッチ操作』によるものが原因と考えられます。
これからバイクの免許を取得する人も、しばらくバイクに乗っていなかった人も、MT(マニュアルトランスミッション)バイクのクラッチ操作はバイクを走らせるうえで“最初の難関”とも言えるかもしれません。
しかし、MTバイクのクラッチ操作がスムーズにできるようになれば、安定して発進できるようになったり、渋滞時などの低速走行でもエンストすることなく走らせることができるようになります。
「第二のアクセル(スロットル)」とも言われる『クラッチ』は、エンジンとトランスミッションを繋いだり切り離したりする「動力伝達装置」の役割を担っています。
アイドリング時の停止した状態からバイクをゆっくりと発進させるためには、高速で回転するエンジンのパワーをスムーズにトランスミッションやギアに伝達させる必要があるため、徐々にクラッチをつないでいく操作が必要になります。
これが「半クラッチ」と呼ばれる操作です。
そんな発進時や低速時走行のエンストをおこさないようにするために、まずはMTバイクのクラッチ機構がどのような仕組みになっているのかを理解しておきましょう。
『クラッチ』とは何か?まずはその仕組みを理解しよう!
一般的なMTバイクのハンドルの左側に備わっているレバーが「クラッチレバー」です。
MT仕様のバイクはこのクラッチレバーを引く(握る)ことで、クラッチ操作を行います。
左手でクラッチレバーを動かすことで、クラッチケーブル(クラッチワイヤー)とクラッチレリーズで繋がったクランクケースの内部に備わっているクラッチユニットを操作しています。
ちなみに、今回のバイクは「ワイヤー式のクラッチケーブル」が採用されていますが、油圧の力を利用した「油圧式クラッチ」を採用しているバイクもあります。
クラッチケーブルで繋がったクランクケースの中には、このような歯車形をした「クラッチユニット」が格納されています。
この丸い形をしたユニットがクラッチ本体です。
ここから少し機械的な話になりますが、このクラッチユニットを構成している機構部品には、複数のクラッチプレートやフリクションディスク、クラッチスプリング、フライホイールなどのパーツで構成されています。
ライダーがクラッチレバーを操作することで、これらのクラッチプレートやフリクションディスクが繋がったり離れたりし、駆動力をトランスミッションやギアへ伝えたり切り離したりする役割を担っています。
ちなみに、これらのクラッチプレートなどはバイクを走らせることで少しずつ磨り減っていく消耗品でもあります。
クラッチの機械的な構造では少しイメージしづらいので、ご自身の手でできるクラッチの仕組みを確認してみましょう。
掌が“クラッチ部分”、腕がエンジンやトランスミッションに繋がっている“シャフト部分”と仮定します。
掌が完全にくっ付いた状態が“クラッチが繋がっている”状態、掌を完全に切り離した状態が“クラッチが切れている”状態です。
その中間となるのが「半クラッチ」状態で、エンジンで発生した動力を少しずつトランスミッションやギアに伝えている状態になります。
半クラッチは、エンジンのパワーをいきなりすべて伝達せず、エンジンの回転数とトランスミッションの動きを、うまく『帳尻合わせ』しながらスムーズにギアへと繋いでくれる重要な操作なんです。
バイクのエンジンはガソリンと空気の混合気をシリンダー内で爆発させ、その爆発力を利用してピストンが押し出し、クランクシャフトを高速で回転させる力に変換することで動力を得ています。
バイクの発進は、エンジンを始動させたらギアをN(ニュートラル)から1速にシフトチェンジしてゆっくり発進させていきますよね?
この時、アイドリング状態で停止しているバイクに対して不用意なクラッチ操作を行うと、エンジンがバイクを発進・加速させるために必要となる動力を十分に発生していない状態のまま、いきなりトランスミッションやギアにつながってしまい、その結果、エンジンがスムーズに回転運動を続けることが阻害され、急にエンジンがストップしてしまうんです。
そのエンストを防ぐために必要になってくるのが『半クラッチ』の操作になります。
「半クラッチ」は感覚と反復練習でコツを掴もう!
なんとなくでも構いませんので、機械的なクラッチ構造のイメージが把握できたら、実際にクラッチレバーの操作を理解していきましょう。
クラッチレバーの操作を感覚でイメージするために、まずはこちらの写真をご覧ください。
❶はクラッチが完全に繋がった状態。走行中は常にこの位置になります。
❷〜❸は半クラッチが効いている区間。“半クラ”が効き始める位置やコツを掴むのも重要です。
❹はクラッチが完全に切れている(動力が伝達されない)状態です。ギアチェンジの際や信号などで停まる時に切ります。
クラッチレバーの操作は、レバーを全く引いていない状態から、少しレバーを引くと「アソビ」区間があり、この区間内でのレバー操作ではクラッチは完全に繋がったままです。そこから「半クラッチ」になりはじめるポイント(クラッチのミートポイント)を経由し、さらに握り込むことで「クラッチを完全に切る」ことができます。
バイクそれぞれによって、アソビの感覚や、半クラッチが効いている区間、クラッチが完全に切れる位置が異なることもあるので、あくまでもイメージにはなりますが、クラッチ操作は主にこの3つの状態で構成されています。
アイドリング状態からバイクを発進させるときは、「クラッチ切」の位置までレバーを握り、ギアを1速に入れます。
そこからゆっくりとレバーを離していくと「半クラッチ」が効き始める位置になり、エンジンのパワーが徐々にトランスミッションやギアへ伝わり、車体が少しずつ前進しはじめます。
ここで焦ってクラッチを完全に離してしまうと、エンジンの回転とギアが噛み合わずに「エンスト」してしまうので、この半クラッチの状態を暫くキープしながら走る必要があるのです。
車種や排気量によって程度が異なりますが、半クラッチ操作と同タイミングくらいでアクセルを少しずつ開けていくと安定して発進しやすいでしょう。
半クラッチでの走行は最初はなかなか難しいかもしれませんが、いずれにしてもMTバイクを運転するには、まずはこの半クラッチのコツを掴むことが最重要になります。
教習所によっては、この半クラッチの細かい解説や操作の練習を行っていないところもあったりするので、これから免許を取得する人は、クラッチの仕組みやレバー操作のイメージトレーニングを行っておくとスムーズに運転できるかもしれません。
クラッチ操作に慣れるまでは反復練習が効果的です。万が一、エンストしてしまっても焦らずに半クラッチのコツを覚えていきましょう。
煩わしいクラッチ操作を不要にしたホンダ独自のバイク用オートマチック機構「DCT」とは?
ホンダのバイクの中には、これらの煩わしいクラッチ操作を不要にした、バイク用オートマチック機構「DCT(Dual Clutch Transmission)」を搭載したモデルも多くラインアップされています。
バイクのクラッチ操作が難しい方や、オートマ車のクルマのようにクラッチ操作不要で走りたい方は、このDCTモデルがオススメなんです。
“デュアル・クラッチ・トランスミッション”と呼ばれるこの機構は、MT車における1速-3速-5速用のクラッチと、2速-4速-6速用のクラッチという、2つのクラッチ機構を備え、それらが自動で、瞬間的に切り替わることでエンストすることなくオートメーションで走ることができる自動クラッチシステム。本来はMT車のままなのですが、クラッチ操作だけを『機械が代行』することでオートマチック車同様に走ることができるようになっています。
半クラッチ操作はもちろん、発進加速や減速時などでもプロレベルのクラッチワークを機械が自動で行ってくれる画期的なシステムです。
しかも、このDCTが搭載されたモデルは、AT限定免許でも乗ることができるのが大きな特徴。バイクのクラッチ操作が苦手、あるいは面倒だと感じる人には、DCTモデルは特におすすめしたいラインアップになっています。
【文:岩瀬孝昌(外部ライター)】