2025年4月より、Hondaの純正エンジンオイルが「ULTRA」シリーズから「Pro Honda(プロホンダ)」シリーズへと生まれ変わりました。その背景には、“Hondaのエンジンを知り尽くした者が、エンジンオイルも造る”という、Pro Hondaの強い開発哲学がありました。
エンジン性能の進化に合わせて、エンジンオイルにも新たな性能が求められる今、Honda純正エンジンオイルはどのようにリニューアルされたのでしょうか?今回はPro Honda開発陣に直接話を聞き、その強みと開発の裏側について深掘りしていきます。
「Honda純正だからこそ、ここまでやります」

「Hondaのエンジンオイルはこれまでも世界中に供給されていましたが、ブランドとして統一されていたわけではありませんでした。そのため、“Hondaが自らのエンジン用に開発した純正オイル”であることが伝わりにくい状況があったんです。そこで、安心して信頼性や性能を象徴できる世界共通ブランドとして“Pro Honda”を立ち上げました」
今回のブランド刷新について尋ねると、開発者の方々はこう答えてくれました。
これまでのHonda純正オイルは、日本ではULTRA、海外では地域によって異なる名称で販売されていたことから、分散していた純正オイルの名称を「Pro Honda」に改め、世界で統一したオリジナルブランドとして誕生させるところからはじめたと言います。
そして、このリニューアルにはエンジンオイル性能のさらなる向上を目指すだけでなく「Hondaがオイル製品も責任を持って世界にお届けする」というメッセージが込められています。

そこまで自信を持って世界中のユーザーにお届けできるのは、エンジン製造を知り尽くしているHondaのエンジニアが、エンジンオイルそのものも開発しているからにほかなりません。
そして、その想いは「Pro Honda」という名称にも、次の3つの意味が込められているといいます。
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Professional of Honda(Hondaのプロフェッショナルが開発)
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Proved by Honda(Hondaが性能を証明)
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Promised by Honda(Hondaが品質を約束)
この「Pro Honda」という旗印のもと、すべての製品は単に国際的な規格(JASO MA/MB、API SLなど)をクリアするだけでなく、Hondaが独自に設けた極めて厳しい性能基準をクリアすることを命題に開発されました。
この独自基準は、エンジンのフリクション低減、高回転・高負荷時における油膜の保持力の向上、そしてメタルベアリング等に対する耐久性の強化といった、Hondaのエンジン開発者が追求する厳しい品質基準を網羅しています。
そして、世界中のどこで製造されたPro Hondaオイルであっても、同レベルのパフォーマンスを保証できるように、この厳格な「Honda基準」が全製品に適用されているのです。
エンジンの進化に、エンジンオイルも追従する必要があった

飯嶌智司さん/本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産統括部 パワーユニット開発部先行・開発技術課 チーフエンジニア
今回のリニューアルでは、ブランド名だけでなくエンジンオイルそのものの性能も全面的に見直されました。その背景には、最新バイクのエンジン性能が飛躍的に向上しているという事情があります。Pro Hondaのエンジンオイル開発でリーダーシップを取った飯嶌さんは、この点を強調します。
「たとえばCBR1000RR-Rのようなスーパースポーツモデルでは、超高回転・高出力という特性上、従来の基準では追いつかないレベルの潤滑性能や耐熱性能が求められます。開発当初は従来の純正オイルでテストを行いましたが、“エンジンの進化に対して、もっと上の性能を持つ純正オイルが必要だ”と判断し、新たなオイル性能の検討が始まりました」
Pro Hondaの開発では、ベースオイルに使用される鉱物油を完全に廃止し、100%化学合成油または部分科学合成油に統一しています。これはコストよりも「性能と信頼性」を優先する決断でした。
「温度変化に強く、油膜の安定性も高い化学合成油は、エンジン保護やレスポンス向上に大きく寄与します。環境性能や燃費にも直結しますので、Hondaのエンジンに最適な選択だと考えました」
低粘度化のトレンドと高温時でも粘れる添加剤の進化

金山琳子さん/本田技研工業株式会社 四輪事業本部 カスタマーファースト統括部 アフターセールス部 アフターセールス&マーケティング課 チーフ
エンジンの性能が上がるほど、エンジンオイルにも高度な性能が求められる──それはエンジンを製造するメーカーだからこそ一番理解していることなのでしょう。従来、エンジンオイルは主に粘度の高さで油膜を確保し、潤滑性能を担保してきました。しかし近年では、エンジンの高性能化に加えて、燃費性能やレスポンス向上のために低粘度化が進んでいるといいます。
昔ながらのバイクやエンジンオイルを知る人は「粘度が低くなると油膜が薄くなってしまうのでは?」と感じる人も多いかもしれません。しかし、現代のエンジン性能に適合させられるオイルの品質や適用粘度も変わってきているようです。
「現在のHondaのエンジンでは、10W-30が標準となっていますが、確かに昔は“粘度で性能を担保していた時代”もありました。しかし現代では、添加剤技術が進化し、低粘度でも必要な油膜を保持できるようになっています。Hondaのエンジン開発基準を満たすべく、添加剤のブレンドもHonda独自の厳しい要求に合わせて作り込んでいます」

例えば、高回転エンジン向けの20W-40のような高粘度オイルでは、当然ながら低中速域ではフリクションが増えてしまい、燃費も低下し、スロットルレスポンスも悪くなるなど、エンジンパフォーマンスを阻害する要素が多くなってしまうケースもありました。
フリクション(摩擦)を減らしつつ、燃費やレスポンスを向上させるためには、オイルは低粘度のほうが理想的ではありますが、高温時でも充分な油膜を維持しながら最適な潤滑性能を実現させられたのは、Honda独自の添加剤技術のおかげだと語ります。
「現在は添加剤も進歩しているので、RACINGグレードの0W-30のような低粘度オイルでも総合性能をフォローできています」
以前のULTRAシリーズと比較して、剪断摩擦(せんだんまさつ)などに対する耐久性も充分アップグレードされ、駆動系の機能も向上。低粘度でもしっかりエンジンを守れる理由は、添加剤技術の進化と度重なる品質テストによって生み出されているのです。
「クラッチのつながり」にまでこだわる──フィーリング評価の重要性

竹内和浩さん/本田技研工業株式会社 二輪・パワープロダクツ事業本部 二輪・パワープロダクツ開発生産続括部 パワーユニット開発部 動力研究2課 アシスタントチーフエンジニア
そして、“バイクの血液”とも言われるエンジンオイルは「エンジン内部の潤滑と性能維持」だけではありません。ライダーが感じる「走りのフィーリング」に大きな影響を与える要素でもあります。
パワーユニット開発部で動力研究を担当した竹内さんは、開発テストの厳しさについて語ります。
「クラッチのテストでは、専用のクラッチテスターを使用して摩擦係数や熱ダレを確認します。そこで問題がなければ実車でのフィーリングチェックに移るのですが、ここで“クラッチのつながり方”や“シフトの入りやすさ”といった、ライダーが感じる部分を優先的に評価します。もしこの段階でNGが出れば、その開発オイルはすべてやり直しです」
メーカーがオイルを開発する際、実は“走りのフィーリングの確認”をここまで重視する例はあまり多くありません。しかしHondaは“走りの気持ちよさ”まで含めて、純正オイルとして定義しています。

「クラッチの接続が自然で、シフトが気持ちよく入る」これもエンジンオイルの大切な性能。Honda純正オイルの開発では、1スペックのオイルに対して実に数カ月ものテスト期間が必要になることもあるといいます 。しかし、その厳しい評価に合格しない限り採用されることはありません。
「ベンチテストでNGが出てしまうと、そのスペックは廃棄となります。オイルメーカー様と相談・検討して、再び異なるスペックのオイルを製作いただき、また最初からテストをやり直し、徹底して性能を追求しています。そこに妥協はありません」
そして「ある意味、エンジンオイル開発は通常の機種開発に近い内容で行っています」と語る通り、Pro Hondaの開発は、単なる消耗品の開発ではなく、バイク本体の開発思想と並行して進められているのです。
70年の歴史と「トラブルを起こさない商品」としてのHondaの信念
世界中で同一レベルのクオリティで提供されなければならないHonda純正オイルの開発テストは、日本のラボ内だけに留まりません。Pro Hondaは、例えばインドの45℃を超えるような気温下や、極寒冷地でのテストも実施し、世界中のあらゆる気候に対応できる品質を追求しています。
「どの地域であろうが、どのモデルであろうが、トラブルを起こしてはならないということが、私たちのエンジンオイル開発のポリシーです。Pro Hondaは二輪の世界トップメーカーの純正オイルであるからこそ、ここまでやります」

山本 稔さん/株式会社ホンダモーターサイクルジャパン 商品企画部 部洋品企画課 チーフ
Hondaが純正オイルを作り続けてきた歴史は長く、1950年代後半から実に70年近くに及びます。そしてこの姿勢は、創業者の哲学にまで遡ります。
「創業者である本田宗一郎氏が“Honda車のためのオイルを作る”と70年前に取り組みはじめてから、『お客様に迷惑をかけない商品を作る』というコンセプトは今でも変わっていません。歴史的な積み上げがあるからこそ、それを私たちは厳格に守り続けています」
その歴史と経験を背景としたノウハウを活かし、開発を一緒におこなうオイルメーカーや添加剤メーカーにも「こういう環境で、こういう条件や諸元で」と、堅実に性能やスペックの要求をすることで「昔の古いHonda車から最新モデルのエンジンまでカバーできる製品」に仕上がっていると言います。
高性能なうえに壊れにくいと言われるHonda車の信頼性の高さは、こうした厳格な基準に基づくテストが繰り返されて私たちの手に届いているのです。

ちなみに「Pro Honda」のオイル缶には、Hondaロゴの入ったオイル品質保証マークが表示されています 。これにはオイルごとに異なる製造番号が記されており、その番号から開発時期、オイル処方、各試験結果、組成などをチェックできると言います。
これは「人間で言ったら指紋のようなもの」であり、万が一ユーザーに迷惑をかけた場合に、正確な裏取りをして真摯に対応するという証しです。この細部にわたる徹底した品質管理こそが、「Pro Honda」の信頼性の根拠となっています。
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エンジン開発者が自ら「レシピ」を決め、評価を行う。
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世界中のあらゆる気候、あらゆるクラッチ形式で性能を保証する。
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創業者の時代から続く「お客様に迷惑をかけない」という哲学を体現する。
「Hondaのエンジンには、Hondaが認めたオイルを──」その言葉に、開発陣の揺るぎない信念と、70年の歴史に裏打ちされた技術への自信が凝縮されています。Pro Hondaは、これからもHonda製エンジンとともに、さらなる進化を続けていくことでしょう。
▶広報リリースはこちら
※ SAE(米国自動車技術者協会)によるオイル粘度分類
※ API(アメリカ石油協会)が定めた品質規格
※ JASO(日本自動車規格)が定めたエンジンオイル規格
※ DOT(アメリカ交通省)が定めたブレーキフルード規格[アメリカ連邦自動車安全基準(FMVSS) ]
※車種ごとにJASO規格の指定があります。必ず取扱説明書やサービスマニュアルをご確認ください。
※価格はすべて1リットルあたりです。価格はメーカー希望小売価格(消費税10%込み)で参考価格です。販売価格は販売店が独自に定めております。
※価格には、交換工賃は含まれておりません。詳しくは販売店にお問い合わせください。
※Pro Hondaは本田技研工業株式会社の登録商標です。
【文:岩瀬孝昌(外部ライター)】



















