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伊藤真一のロングラン研究所(XL750 トランザルプ 後編)

前号に引き続きブランニューのトランザルプを取り上げますが、今回はホンダ製アドベンチャーのフラッグシップモデル、アフリカツインのアドベンチャースポーツESも登場させ、比較試乗を展開します。

アフリカツインは伊藤さんの大のお気に入りのモデルですが、実際に乗り比べてみて改めて思うことが、いろいろあったみたいです…。

同じアドベンチャーでもその生い立ちは異なる

【伊藤真一】1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2023年も監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

比較試乗を行った取材日当日は、一日の大半で強い雨風に晒されるというコンディションでした。もちろん悪天候のなかを走ること自体は嫌なことではありますが、アフリカツインに乗りながら「やっぱりこれは最高だなぁ」と思っていました。この走りを皆さんにぜひ味わっていただきたい…なんて考えながら、雨の中アフリカツインを走らせていましたよ。

バイクの走りを楽しむには不向きな天候でしたが、どんな状況でもアフリカツインの安心感は万全…ということを確認するには、最適なシチュエーションでした。スクリーンの作りも、中速度域あたりまでは風が適度に巻いて入ってくる感じですが、高速度域に入るとしっかりプロテクションが効いてくる。トランザルプのスクリーンも、高速度域でプロテクションがしっかり効いてきますが、高さを調整できることもあって、やはりアフリカツインの方が装備としてのグレードは高いですね。

取材前日に両車のスペックをじっくり見比べたのですが、アフリカツインは最高出力102PSで最大トルクが10.7N・m。トランザルプはそれぞれ91PSと7.6N・mで、アフリカツインより11馬力低いですが、トランザルプのエンジンは750ccであることを忘れさせるくらい元気が良くて、非常にパワフルに感じます。オンロードの走りのみで評価した場合、自分的にはトランザルプのエンジンの方が好みかなぁ、とも思いました。同じ750ccのNC系2気筒よりも断然パワフルで、高回転域までの吹け上がりの感じがとても気持ち良いです。大型アドベンチャーユーザーの多くが、主に走らせるのは舗装路の上だと思いますが、オンロードで活き活きするトランザルプのエンジンは、このモデルの大きな魅力のひとつといえますね。

前号のトランザルプのインプレッションでも触れましたが、トランザルプはステアリングのヘッドパイプとエンジンの距離が近いので、フロント側に荷重がかなりかかります。そのことがオンロードでの圧倒的なフロントのしっかり感につながり、ワインディングを走らせての楽しさや安心感を生み出しています。一方その性質が、オフロードを走らせたときにはちょっとネガに感じることもありました。アフリカツインは元々、兄弟機種がないアドベンチャーモデルとして企画されたモデルなので、ホーネットという兄弟車が最初から存在しているトランザルプとは生い立ちが違います。この連載で何度も取り上げて、自分が乗り慣れているということもあると思いますが、オフロードの走りはアフリカツインの方が上ですね。2016年デビューの1000cc時代から熟成され正常進化した現行のアフリカツインですが、初期のモデルのころからその走りは最高だと思っていました。

とはいえ、頭ごなしにアフリカツインの方が上! と決めつけるわけではないですよ(苦笑)。長年開発の仕事でもバイクに乗っていることもあり、ついつい粗探しばかりしてしまう癖がついていますが、皆さん趣味のバイクに求めるものは千差万別だから、正解はこれ! というものはないです。自分の中での「正解」はありますが、自分のバイクに対する判断基準は本当に正しいのか…なんてことを、アフリカツインとトランザルプを走らせている間、考えてしまいました。

フロント21インチタイヤの大型アドベンチャーモデルは、舗装路でのハンドリングでオフロード車特有のレスポンスの遅れを感じたりしますが、フロントにしっかり荷重が乗っているトランザルプにはそれがありません。変なヒラヒラ感や軽さがないハンドリングで、常にしっかりフロントの接地感が得られるので、そのことを高く評価する人にとっては、アフリカツインよりトランザルプの方が好みに合うと思います。あと排気量のクラスが違うので当たり前の話かもしれませんが、アフリカツインよりもかなり車重が軽いのは、トランザルプの大きなアドバンテージといえるでしょう。

Rurikoさんはその「軽さ」を高く評価

今回の取材に参加していただいた、Rurikoさんにアフリカツインとトランザルプ、どちらが良い? と単刀直入に聞いたのですが、ズバリ即答でトランザルプの名をあげましたね。アフリカツインより軽くて、これなら扱えそう…と思えるところが、彼女がトランザルプを選んだ理由でした。

Rurikoさんは整備重量で240kg越えのスズキハヤブサに普段は乗っているのだから、ハヤブサよりもハンドル位置が高くて、取り回しも楽そうなアフリカツインなら十分扱えるのでは? と思ったのですが、走っているときは快適でも、停まったり、取り回しをするときはその重さから、ちょっと苦労してしまうみたいです。またハヤブサは低重心だけど、アフリカツインは重心がハヤブサより高いため、テコ的により重さを感じるそうです。

足つき性に関しては、トランザルプよりアフリカツインの方がかなり良いです。アフリカツインに跨ったとき、Rurikoさんも足がめっちゃ着く、おお~! とは思ったそうですが、サイドスタンド停車で車体が傾いた状態から、走り出すために車体を成立させようとしたとき、アフリカツインの重さを強く感じたそうです。そこまでの重さを感じることがないのも、Rurikoさんがトランザルプを選んだ大きな理由のひとつでしょう。このあたりの両モデルの使用感については、一般の方々にとっては自分よりも彼女のインプレッションの方が、参考になるかもしれませんね。

ライディングポジションにも関連する話ですが、アフリカツイン系はシート高の高いSタイプは国内では現在は廃盤で、ローダウンされたモデルのみ販売されています。ローダウンになっているため、大きいギャップに乗り上げるとドーンと突き上げを感じてしまうことがあります。一方シート高850mmのトランザルプは、そういうことがありませんでしたね。

かつて国内でも販売されていたアフリカツインのSタイプは、シート高が870mm(ローポジション850mm)でした。トランザルプの850mmが国内市場でもOKという判断なら、アフリカツインもローダウンじゃないモデルを改めて販売してくれたら良いのに…なんて思ってしまいました。見た目もローダウンじゃない方が格好良くて好みですし、何より本来の走りを楽しめるのはSタイプの方ですから。もっともこれは、自分の中の「正解」の話ですけどね(笑)。

 

PHOTO:松川 忍 まとめ:宮﨑 健太郎 モデル:Ruriko
*当記事は月刊『オートバイ』(2023年10月号)の内容を編集・再構成したものです。

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