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【伊藤真一のロングラン研究所】新旧ホンダ製250ccスーパースポーツを比較!ゲストは須貝義行さん&太田安治さん

ベテランレーサーである須貝義行さんと月刊『オートバイ』のベテランテスター太田安治さんをゲストにお迎えした今回のロングラン研究所。

新旧のホンダ製250スーパースポーツを比較試乗し、今後の同ジャンルのあり方などを語っていただきました。

 

(左)伊藤真一(いとうしんいち): 1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。現在は監督として「Astemo Pro Honda SI Racing」を率いてJSB1000クラス、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。
(中央)太田安治(おおたやすはる):東京都出身。元ロードレース国際A級ライダー。1976年から月刊『オートバイ』の試乗テスターなどを担当し、今まで試乗した車両は5000台を超える!
(右)須貝義行(すがいよしゆき) :1966年、宮城県生まれ。1985年にロードレースデビュー。1989年国際ライセンスを取得し、全日本選手権、鈴鹿8耐などで長年活躍。1995年は世界GP(現在MotoGP)125㏄クラス参戦。1998年には米デイトナで日本人初優勝を記録。

残念無念 ? 晴れ舞台の取材日は、MVXの後方1気筒が不調に……

伊藤:このMVX250Fは結構前にネットオークションで入手していたのですが、2年前くらいにレストアをしました。レストア前、車両に大きな問題があったわけではありませんが、たまにエンジンが燃えないことがあり、ちゃんとした状態にしたかったのでレストアしたわけです。

クランクシャフトには問題がなかったのですが、クランクシールが駄目になっていたので困りました。そこで内燃機屋さんに依頼したのですが、最初はできないと断られました。でも最終的には代替のオイルシールと、それに組み合わせるパーツをワンオフで作ることで何とかしていただけたので、本当に助かりました。

車体の方はフレームの塗り直しなど、なんだかんだで結構なお金をこのMVXに費やしてしまいましたが、自分がロードレースを始めた頃に乗ったバイクなので、それなりに思い入れがありました。今回の取材で太田さんと須貝さんに試乗していただくので前後タイヤも新品にしたのですが、始終、後方1気筒の調子が悪くて申し訳なかったです。後日プラグを交換したらあっさり不調が直ったので、なおのことガッカリしました。取材当日にはちゃんとスペアプラグを工具箱に入れておくのが、この時代の2ストロークを走らせるときの鉄則ですね……。

MVX時代の伊藤さんの走りを太田さんは目撃していた!

太田:伊藤さんがMVX250FでレースをしているのをスポーツランドSUGOで見ているんだよね。当時は気の毒なくらい遅かった(笑)。

伊藤:MVXで84年にレースをしてました。いつもコーナーで先行車をごぼう抜きにしていましたが、直線で抜かれるので結果的には5位とか6位が多かったですね。コーナーではみんな止まっているように見えたので、楽に抜くことができましたが。

太田:当時のF3クラスはヤマハRZ250RやFZ400R、そしてスズキGSX-R400が速くて人気だったけど、なんで彼は1人だけMVXでレースやっているんだろう? と不思議に思っていたよ。

伊藤:先輩の借り物のバイクで、まんまノーマル車でした。エアクリーナーボックスが無くてサイレンサーも抜いていたので、低速はスカスカでした。今思えば、何でそんな仕様だったんだろう?

須貝:レースを始めたのは85年からなので、伊藤さんがMVXで走っていたのは見てないな。ただMVXの後の、NS250Rで走っていた伊藤さんは印象に残っています。当時オフィシャルのバイトでSUGOの5コーナーやシケインのポストに入ることが多かったけど、銀色のNSで速いヤツがいるなぁ、と思ったのが伊藤さんでした。その後、シーズン最終戦でNSの色が銀からトリコロールになって、優勝したのを覚えています。

伊藤:あれ当時のワークスNSR500の真似をして、缶スプレーでトリコロールに塗ったんだよね(笑)。須貝さんよく覚えてるね!

須貝:あの頃から伊藤真一ファンだから、ちゃんと覚えてますよ(笑)。

太田:自分もそうだったけど、当時ロードレースをやっている人はみんな、ノービスやジュニアの頃が一番楽しいんだよね。楽しかったから、その頃のことはよく覚えている。国際A級になってからはいろいろ苦労して辛い印象もあるから、記憶から消し去りたいみたいな?

伊藤:この歳になって、わざわざ若い頃に乗ったMVXを探して入手して、それなりにお金かけて直したりするのは、やっぱり当時の思い出のバイクだからですかね。

16インチフロントタイヤは、意外なほど好フィーリング?

伊藤:新旧250スーパースポーツの乗り比べ……という趣旨だったら、CBR250RRとMVX250Fではなくて、キッチリ整備されたNSR250Rの方が良かったかもしれませんね。今回MVXの調子がイマイチで、お二人には申し訳ありませんでした。

太田:まぁ完調ではなかったけど、当時MVXを走らせたときの記憶は今回走らせて、ちゃんとよみがえったよ。当時、新宿のホテルでMVXの発表会があって、そのまま裏口からMVXを運び出して富士スピードウェイに運んで、最高速テストをやったことを思い出した。一緒に走らせたライバル車の方が、MVXより最高速は速かったけど。

伊藤:今回は3気筒のうち1気筒が燃えていなかったから、1速か2速で9,000回転くらいまで引っ張らないと走れなかったですね(苦笑)。

須貝:車体の印象はとても良かった。インボードディスクブレーキも、程良く勝手に食い込んでくれるようなフィーリングで、とても使いやすかったです。なんというか、味のある効き方とでもいうのかな?

伊藤:当時流行したフロント16インチタイヤですけど、MVXに関しては悪い印象はまったくなかったですね。

須貝:確かに16インチタイヤに悪い印象はまったくない。履いているブリヂストンのBT46の性格が、MVXにマッチしているのかも?

太田:前のBT45もフィーリングがすごく素直で高評価なタイヤだったけど、モデルチェンジ版のBT46もとても良い。特性としては後ろからスルッと寝ていく感じがあって、乗っていて懐かしいなぁ~て思った。

伊藤:当時はめっちゃ腰を引いて乗っていた感じでしたよね。リア荷重重視でフロント側に力をかけないように意識してたな。

太田:当時のフロント16インチは、みんなそんな感じで走らせていたよね。

エキサイティング感の出し方には、みんなの意見が分かれました

伊藤:MVXから現行のCBR250RRに乗り換えると、同じ250ccでも別物ですね。蔵王の峠道は荒れた路面が一部ありますが、CBRで走るとギャップがないみたいに思えてびっくりした。サーキットでCBRがとても速いことは多くの人に知られていますけど、峠道での適正もちゃんとありますね。

太田:前期型CBRのフロントフォークは、SFF-BPではなかったよね? 前の型は峠の下りのブレーキングで、フロント側がガコーンと底付きしちゃう感じがあったけど。

須貝:現行CBRのフロントフォークはとても良いね。下りでブレーキをカーンと強くかけてギャップをドーンと踏んでしまっても、ハンドルがカクンと取られるようなことはまったくなかった。とても素晴らしいサスペンションだと思います。

伊藤:SFF-BPは量産車に採用され始めた頃に比べると、性能がかなり向上している印象がありますね。

太田:近年、急速に良くなってる感じ。

須貝:エンジンは非常に力強いけど、正直フィーリングに関しては自分の好みではなかったですね。スロットルを操作していて、パーシャルがないような感じだった。昔の2スト250は、ブーン、パラパラ……という感じで扱いやすさやフィーリングの良さがあったけど、今のCBRはブーン、パッ!という感じ……。パーシャルがないから、良い感じでバイクのピッピングが出しにくいし、ツーリング走行での安定感も出にくいと感じました。

伊藤:思うに、いまCBRを作っている人たちは昔のバイクに乗ったことがない人が多いのかもね。これが普通で、スロットルもツキ過ぎなくらいが良いと思っていたりとか。250ccとか排気量がそんなに大きくないバイクの場合、どうしてもパンチ感が欲しくなるから、CBRのようにパーシャルがあまりない感じになるのかもしれない。

太田:250ccの4スト2気筒はエンジンフィーリングの力強さは出せても、エキサイティング感を出すのは難しい。スロットルバイワイヤのスロットルレスポンスの良さで、CBRはそのエキサイティング感を演出している感じだね。ただ大排気量車の場合、ドンツキ気味のスロットルは濡れた路面とかでとても怖く感じるけど、250ccくらいの排気量なら馬力的にも怖くはないので、CBRのツキの良さは十分許容範囲にあるかな?

須貝:自分はスロットルを開け始める時のフィーリングにかなりこだわるタイプなので、そこが気になってしまった。数値的な性能の良さには何の文句もないので、公道を楽しめるフィーリングをもっと向上させてほしいな。

スポーツバイクならではの魅力を満喫できるのがCBRの美徳

伊藤:低速域で、低いギアでCBRを走らせているときは、須貝さんが言うようにスロットルのツキが気になることがあったけど、高めのギアで走っているときはあまり気にならなかったです。

太田:週末にツーリングしているバイクを見てると、若い人たちはCBRみたいな250スーパースポーツで普通にツーリングを楽しんでいる。だから須貝さんがエンジンに関して気になるようなことは、彼らは気にしていないのかもね。自分が所有することを考えると、もうこの歳で峠道をCBRで一生懸命に走り込む気は起きないけど。車格的にCBRは意外とドシッとしていて、それなりに重く感じる。今回はMVXと乗り比べたから、余計にそう感じてしまったのかもしれない……。好みとしては250なら、単気筒でもっとヒラヒラと軽い印象のモデルを選ぶね。家の近所にサーキットがあって、すぐ走りに行けるならCBRを選ぶのもアリだけど。

須貝:サーキット走行も楽しみたいという人にとっては、CBRは最高の選択肢だと思いますよ。600ccや1000ccのスーパースポーツでやるような、非常にレベルの高い煮詰まったセッティングを施すことができるし、大排気量車よりも比較的安全にライディングを突き詰めることができますから。

伊藤:10代で免許取り立ての頃は、250ccを選ぶということは考えなかったな。あんなに速いのは無理! 自分には速すぎると思っていたので、だから125ccを選びました。今は初心者もこのCBRみたいな250ccのスーパースポーツを普通に選ぶわけだから、当時の自分の感覚は昔の人の感覚でしたね(笑)。

太田:スポーツバイク好きとしては、免許取り立ての若い人がこういうスーパースポーツを選んでくれることは嬉しいかな。スポーツバイクならではの楽しさを、ぜひ知ってもらいたいからね。

上級・高級仕様の250ccは、アリ? それともナシ?

太田:CBRは、グランプリレッド以外のカラーリングのモデルは89万9000円で、MVXが当時42万8000円だから倍くらいの価格差なんだよね。物価の変化もあるけど、CBRの内容的には、むしろCBRの価格は安いくらいに感じる。あとCBRの車体とエンジンを使った、ストリートファイター風のネイキッドモデルがあっても良いかな、と思った。価格設定が難しいと思うけど……。

須貝:CBRの上級仕様があっても良いかなと思いました。マグネシウム合金のホイールとか、アルミ合金製燃料タンクとか採用していて、質感の高い250ccモデルを求める人もいるんじゃないかな?

伊藤:250ccモデルは価格競争がシビアだから、実際にはそういうモデルを販売するのは難しいでしょうね。

太田:今後インドなどのアジア市場で、スポーツバイクのビジネスは拡大するだろうから、高級路線の250ccモデルというのもアリなんじゃないかな? 誰でも買える、誰でも乗れるものということでしきい値を決めるとしても、それを下げれば下げるほど、ありふれたものしか作れなくなる。

須貝:80年代、欧州のコンストラクターが作っていたスペシャルバイクみたいな、これはすごい! とハッとさせられるような250ccモデルがあったら面白いよね。

太田:近年は中国メーカーも、中型スーパースポーツを作っているけど、スペックを見てみると興味深いモデルもある。彼らの工業技術レベルも上がっているので、将来的には日本のメーカーはそういうライバルたちと世界市場で戦うことになるのかも? ただ最後に差が出るのは、ハンドリングを仕上げる技術だと思う。その部分では日本のアドバンテージは、とても大きいだろうね。

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2025年3月号)の内容を編集・再構成したものです。

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