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伊藤真一のロングラン研究所(XL750 トランザルプ 前編)

*当記事は月刊『オートバイ』(2023年9月号)の内容を編集・再構成したものです。

ユニカムバルブトレイン、270度クランク、渦ダクト(Vortex Air Flow Duct)などを採用した新型754cc並列ツインを搭載するアドベンチャー、トランザルプがいよいよデビュー。当連載では、この注目のモデルを2回に分けて紹介しますが、今回はトランザルプを2日間あらゆるシチュエーションで走り込み、伊藤さんの深堀りインプレッションを皆様にお届けいたします!

フロントサスペンションの未だかつてない強烈な印象

ホンダ車のなかで、アフリカツインのアドベンチャースポーツはとてもお気に入りの1台なので、今回新型トランザルプを試せることはとても楽しみにしていました。まず最初に試したのは高速道路でしたが、トランザルプの操安はとても特徴があるもので、フロントサスペンションの動き方に驚かせられました。

変な表現になりますが、フォークが動いていないみたいに思えるのです。動いていないというと、まるで仕事をしていない駄目なサスのように聞こえるかもしれないですが、そういうことではありません。逆にとても細かく動いているので、ショックをあまり感じないのです。もし追従性が悪かったとすると、すごくゴツゴツした乗り味になり、前輪の接地点がわかり難くて気になってしまうでしょう。

前輪の接地は常に安定しており、常に荷重がかかっている感じです。高速域の直進安定性や操安は非常に良く、このあたりはトランザルプの主な市場となる欧州での使い方を、意識してのハンドリングの作り込みなのでしょう。ウインドスクリーンについても、高速域でより効果を発揮するデザインだと思いました。

自分はそちら方面の専門家ではありませんが、オフロードの走りっぷりも林道でチェックしてみました。トランザルプはハンドルがかなり高く、一方でステップはかなり低くセットされています。ライディングポジション自体は非常に快適ですが、なんでこのハンドルとステップの位置にしたのかが、オフロードを走ってわかったような気がしました。

オンロードのホーネットとメインフレームの基本が一緒ですが、トランザルプのステアリングヘッドパイプは高めの位置にあります。そしてエンジンの重心も高めなので、フロント側に常に荷重がかかっているようなフィーリングになります。

そのためオフロードでは、スロットルを戻すとフロントが切れて、ヒヤリとすることもありました。多分ですが、ハンドルを下げるともっとフロントが重く感じると思います。上げることで、操作の軽さを出しているのだと思いますね。ステップも上げると重心が上に寄ってしまうので、低い位置にしたのだと思いました。ホーネットとの共用という制約がありますが、トランザルプはこのような工夫で、オフロードをしっかり走破できるようにまとめ上げられているのでしょう。

近年のエンジンの中でも出色の出来栄えの良さ!


前後ブレーキは、リッタークラスのアドベンチャーモデルと比較すると制動力自体は低く、握り込んでから効くタイプですが、オフロード走行を想定すると扱いやすい設定といえるでしょう。オフロードであまりABSが入らない印象でしたが、それも荷重が乗りやすいトランザルプのジオメトリーに由来しているのだと思います。

オンロードもオフロードも走れるモデルとして、750ccクラスにはNC750Xをホンダはラインアップしていますが、トランザルプとNC750Xは全く異なるモデルですね。

まずエンジンのキャラクターが、トランザルプとNC750Xは異なります。トランザルプは1万回転まで、吹け上がり良く一気に回ります。一方、NC750Xは最高出力発生回転数が6750rpmですから、同じ2気筒でもまったくの別物です。トランザルプは、これが754ccの2気筒なのか! と驚くくらいパワー感があります。力感が非常にあるので、オンロードの走りがとても光るのがトランザルプの大きな魅力ですね。

先ほども触れましたがヨーロッパの使い方を考慮し、高速域に設定を合わせているのがトランザルプの特徴です。1万回転までカーンと回るエンジンのキャラクターも、そういう狙いに沿ったものなのでしょう。本題から逸れますが、トランザルプのオンロードでの走りっぷりの良さから、これから市場に投入されるであろう新型ホーネットのポテンシャルを試す日が、待ち遠しくなりましたね。前後17インチタイヤのネイキッドモデルに、この出来の良いエンジンが載っているわけですから、すごく楽しいモデルになっているのではないかと期待しています。この連載で試乗するのが楽しみです。

どんなシチュエーションもそつなくこなす万能選手!?

細かいところでは、シートが良くできているところが気に入りました。幅が適度に広くて、お尻が痛くなることはまったくありません。ロングツーリングに使われることが多いアドベンチャーモデルに、相応しいシートだと思いました。なおオプションで約30mm低い、ローシート(3万3,660円)も用意されているそうです。

オプションといえば、エンジンガードとスキッドプレートも用意されていますが、ダイヤモンドフレームのトランザルプはエキゾーストパイプやクランクケースが、フレームのクレードル部に守られているわけではないので、転倒やグラウンドヒットに対するダメージが心配になりました。オフロードを積極的に走る人には、これらはぜひ欲しいオプションだと思いますが、結構価格設定が高めですね。

トランザルプは車両価格を抑えめにすることも、重要な開発テーマになっていると思うので、これらのパーツは必要に応じて購入するオプションとして設定されているのでしょう。自分のように、アドベンチャーでもオンロードをメインに走る人にとっては、問題にならないことかと思います。

乗ってみると、見た目から思うよりは大柄に感じるトランザルプですが、安定性が低下する低速域でもフライバイワイヤの設定の良さもあって扱いやすく、街乗りの用途にも適しています。ハンドル切れ角も十分なので、とてもUターンがやりやすかったですね。DCTモデルの設定はありませんが、クラッチの操作感は軽く、つながりのフィーリングも良いので、DCTモデルがないことに不満を感じる人はいないのではないでしょうか? ツーリング用途がメインになりがちなリッタークラスのアドベンチャーモデルに対し、トランザルプは日常の足としての用途にも適していると思いました。

公道でそれを試すことはできませんが、200km/h以上のスピードを出せるポテンシャルを持つ、非常にパワフルなエンジンを搭載しながら、街乗りやオフロード走行もそつなくこなせるトランザルプは、公道量産車としてとてもよくできたモデルです。後編ではアフリカツインとトランザルプを比較試乗して、それぞれの良さを探ってみる予定です。アフリカツインは自分には大きすぎると思うけど、トランザルプならちょうど良いかも…と考える方は多いと思いますが、次回はゲストライダーを招いてそのあたりを検証してみたいと思います。

Photo:柴田直行 まとめ:宮﨑 健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2023年9月号)の内容を編集・再構成したものです。

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