オンロードも、フラットダートも楽しめるクロスオーバーモデルとして人気だった400Xが、NX400という新しい名前と、新しい外観を得て2024年春にモデルチェンジ! スタイリッシュさに磨きをかけたこの一台を、伊藤さんはどう評価したのでしょうか?

伊藤真一(いとうしんいち) 1966年、宮城県生まれ。1988年、国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、世界ロードレースGP(MotoGP)、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2025年は監督として「Astemo Pro Honda SI Racing」を率いて、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐などに参戦する。
竹川由華(たけかわゆうか) 1999年滋賀県出身。バイク一家で育った竹川さんは、バイクがあるのが自然という環境で成長した生粋のライダー。グラビアモデルとしても活躍中で、現在は愛車としてホンダCBR250RR(2020年型)などを所有。
カッコ良さは「正義」! 新たな装いをまとうNX400
NX400の先代モデルである400Xは、2019年から19インチフロントタイヤを採用し、2022年からはフロントダブルディスクブレーキと、倒立のSFF-BPフォークを採用していました。2024年にモデルチェンジされて、車名もNX400に変更されたんですが、まずその見た目がカッコ良くなったのが良いですね! 400Xは同じクロスオーバーモデルのNC750Xに似た外観でしたが、NX400はラリーレイド車的というか、クロスオーバーよりもオフ寄りのアドベンチャー的なスタイリングになっています。バイクは見た目ではなく中身が一番大事……ですが、所有欲がわくような魅力的な見た目もやっぱり大事です。その点で、NX400のスタイリング変更はとても好ましい改良だと思いました。
もちろん、NX400の新しいフロントまわりのデザインは、単に見た目が良いというだけではありません。ヘッドライトと面一のスクリーンは、しっかり機能して乗り手を風から守ってくれます。ダクトの工夫などエアマネージメントにも優れており、嫌な風の巻き込みなどなく快適なライディング環境を提供してくれます。NX400のカッコ良さは、ちゃんと機能美という裏付けがあります。
欲を言えば、1万4300円のオプションであるナックルガードは、標準装備にして欲しかったですね。アドベンチャー的なモデルには、ぜひ標準採用して欲しいパーツなので……。オプションのナックルガードの色は黒ですが、個人的な感想ではありますが試乗車の車体色(パールグレアホワイト)には、白いナックルガードの方が似合うと思いましたね。あくまで個人の感想ですが……。
乗り味はスポーティさより「穏やかさ」を優先?
フロント19インチタイヤにダブルディスク、リアはウエーブディスク、そしてサスペンションはSFF-BPフォークに、リンク無しの分離加圧式ショックと、NX400の足まわりは基本的に先代の400Xと同構成です。過去に連載で400Xに試乗したときは、これら足まわりのパーツの性能に不満を覚えることはなかったのですが、なぜか今回は妙に柔らかいというか、ダンピングが足りていないような印象を覚えてしまいました。これは視覚が影響したための錯覚と言いますか……NX400は全体の質感やスタイリングのスポーティさが400Xより上なので、NX400に400Xより足まわりの上質感を求めてしまったゆえの印象なのでしょう。
フラットダートでも躊躇せず走れるクロスオーバーモデルということで、NX400の重心は高めですが、高いところに重いものをぶら下げている構造の割には、乗っていて重心の高さを強く意識することはありませんでした。ハンドリングも非常にニュートラルというか、ナチュラルな感触で好印象を受けました。今回の試乗では残念ながらフラットダートを試すことができませんでしたが、先代400X同様にNX400もフラットダートでしっかり走りを楽しむことができるだろうと想像しました。
ブレーキはフロントもリアも、強烈な効きを感じさせるタイプではありません。特にフロントブレーキは、ダブルディスクだったよね? と思ってしまうくらい緩やかでした。モトクロスをやる方やオフ専門の方は、フロントブレーキレバーは指1本で操作する人が多いですが、NX400のフロントブレーキの制動力をしっかり引き出すには、2本以上の指である程度握り込む必要があります。
ただ、この設定は制動力が不足しているとか、使い勝手が悪いというわけではないです。もしNX400のブレーキが、初期からガツンと効くようなタイプだったら、極端に前にダイブしたり激しくピッチングしたりすることになるでしょう。普段の街乗りや、長距離ツーリングですと、乗っていて疲れてしまうようなブレーキになってしまうと思います。激しくスポーツ走行を楽しむというモデルではないので、NX400のブレーキの設定は強く効きすぎないことが正解なのだと思いました。
穏やかさといえば、それはエンジンの性格についても感じました。NX400の2気筒エンジンのカタログスペック値は、同系統エンジンを搭載するロードスポーツ車であるCBR400R用の値と一緒です。ただ記憶の中のCBR400Rと、NX400のエンジンフィールを比べてみると、NX400の方がマイルドな印象です。ガッツ感やパンチ感はCBR400Rの方が上ですが、NX400を買う方はCBR以上に街乗りやツーリングでの快適さを求めるでしょうから、マイルドなエンジンフィールの方が設定としては好ましいでしょう。
強烈な刺激を欲する人にはNX400は不向き!?
当たり前の話ですが、大型車に比べるとNX400は排気量が小さい分トルクが低いので、発進などに気を遣います。ただ400ccモデルとして必要十分なパワーとトルクはありますので、エンジンのパフォーマンスに不満を覚える方はいないでしょう。750ccクラスやリッタークラスのアドベンチャーに乗りたいけど、車格的、車重的にあのサイズでは無理と考える人にとっては、NX400はちょうど良いサイズ感に思えるのではないでしょうか。
NX400のフロントタイヤは、オフロードでの走破性に優れる21インチではなく、近年のアドベンチャーモデルに採用例の多い19インチですが、ハンドリングのまとまりとしてはホンダのオフ車のフラッグシップモデルである、アフリカツインのアドベンチャースポーツの19インチよりも上だと感じました。NX400でハードな林道を攻める気にはなりませんけれど、フラットダートであれば臆することなく走ることができます。
刺激的なスポーツ性はNX400にはありませんので、強烈な走りを楽しみたいという方にはNX400は向いていないかもしれません。でも快適なツーリングの移動の足を求めるとか、週末のツーリングだけでなく平日の街中での移動にも積極的に使いたいという方にとっては、NX400は大型アドベンチャーのようなモデルよりも、好ましい相棒になってくれると思います。自分もトランザルプとNX400のどちらか1台を選ぶかと問われたら、お手軽さからNX400を選びますね。
細かいところですが、NX400はメーターまわりに丸パイプのバーが備え付けられていますが、アフターマーケットのホルダーをつけてスマホを使いたいという方にとって、このバーはホルダー装着用としてありがたいでしょうね。自分はやらないですが、近年はメーターまわりにスマホなどのデジタル機器を、クリスマスツリーの飾りみたいにたくさんつける人が多い印象があります。今回ゲストとして参加していただいた竹川由華さんも、愛車のCBR250RRにスマホとかいろんなものをモリモリ装着していましたけど(笑)。
質感も性能も過不足無し、愛車候補にちょうど良い?
NX400で新たに採用された装備としては、スマホ連携機能のHonda RoadSyncとトルコン(HSTC)の2つがあげられますが、これらの新機能を採用して400Xから3万円ちょっとの値上げというのは、多くの人が納得すると思います。オンロードのみだった今回の試乗ではHSTCが作動したことを意識するような場面はありませんでしたが、舗装路はもちろんオフロードなどスリップしやすい路面で、乗り手に安心感を与えるHSTCの採用は歓迎されるでしょう。
NX400はタンデムシートと、グラブバーの作りも良いですね。グラブバーはかなりしっかりした作りで、タンデムシートに荷物を積むときにコードやネットを使うのに適した構造になっていると思いました。オプションでサイドバッグやトップボックスを選ぶことももちろんできますが、そこまで用意しなくても良いという人にとっては、標準で積載能力が十分あるというのはありがたいことでしょう。
もし自分がNX400を入手したとしたら……オプションのナックルガード(1万4300円)と、センタースタンド(2万2110円)は装着したいです。日常的なメンテナンスの際に、センタースタンドがあると何かと便利ですから。400Xから装備が充実して、外観がスタイリッシュになって、そして全体の質感もアップしている……。良い意味でNX400は、必要十分な1台に仕上がっていると思いました。大型自動二輪免許を持っている人も、愛車候補に入れてみてはいかがでしょう。
ひとクラス上のXL750 TRANSALPってどんなオートバイでしたっけ?
振り返ってみましょう!
トランザルプはオンロード向けのプラットフォームですが、フレームのステアリングヘッドパイプ部が高めの位置にあります。そしてエンジン重心も高めなので、フロント側に常に荷重がかかっているようなフィーリングが特徴です。
一方でステップは、かなり低めにセットされています。ステップも上げると重心が上に寄ってしまうので、低い位置にしているのでしょう。このような工夫で、オフロードもしっかり走破できるようにまとめ上げられています。2気筒754㏄のエンジンは、より排気量が大きいと錯覚するくらいパワー感があります。近年のエンジンの中でも、出色の出来栄えですね。
PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2025年5月号)の内容を編集・再構成したものです。