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【真相】なぜ『CB1300』シリーズのファイナルエディションは「シンプル」なのか?開発責任者が語ったその理由とは……【CB1300 Series Final Edition インタビュー】

ついに発表されたCB1300シリーズの集大成となるファイナルエディション 4モデル。

けれど、そのバイクを見て『思ったよりシンプルだな』とは思わなかっただろうか? 最後のCB1300がそうなった理由とは……

頂点のバイクに今さら『付け足すもの』などない

CB1300 SUPER FOUR SP Final Edition

CB1300 SUPER FOUR Final Edition

1992年に『PROJECT BIG-1』が発動されセンセーショナルに登場したCB1000 SUPER FOURに端を発し、今日までHonda大型スポーツバイクの頂点の一角として君臨しつづけたCB1300シリーズ。
その歴史に幕を引く、あるいは集大成としてのファイナルエディション4モデルが発表されました。

しかしここで正直に言ってしまうと、そのバイクの実車を見た私(北岡)は第一印象として『思ったよりもシンプルだな』という感想を抱いてしまいました……その理由として一番大きなものは2022年に限定発売されたCB1300シリーズの30周年記念モデルが記憶に新しかったからです。

CB1300 SUPER FOUR SP 30th Anniversary(2022)

CB1300シリーズの30周年記念モデルは強烈な印象の赤フレームにゴールドパーツが眩しく、そのインパクトは絶大。まさしく30周年記念モデルに相応しい仕様だったと言っていいと思います。

上の2枚の写真を見比べてみれば、私の感想にも少なからずは、共感してもらえるかもしれません。そして、個人的に『なぜ集大成となるファイナルをこうしたのか?』がどうしても気になったので、Hondaにその理由を尋ねてみたところ……

……大物が出てきた。

なんとファイナルエディションの開発総責任者となるLPL(Large Project Leader)の小松昭浩さんにその疑問を直接聞いていいとのこと……予想していたよりもはるかに大事に発展したけれど、この機を逃す手はありません。なので、不躾にも思っていたことをそのまま聞いてみました。

『CB1300シリーズのファイナルエディションって、けっこう普通っぽくないですか?』

今にして思うと、極めて失礼な質問をしたものだと思う。けれど小松さんは柔らかく笑って答えてくれた。

小松さん『実はね、このプロジェクトのLPLを務めることが決まった時、私も正直「ヤバいなぁ」と思ったんですよ(笑)。私はHondaに勤めて40年以上ですから「PROJECT BIG-1」に関わるものはすべて見てきました。このシリーズは歴代の開発者やスタッフ、そしてお客さんも含めて、強い思い入れのある人ばかりでして。その最後のモデルを自分がやるなんて……これは半端なことは許されないぞ……と緊張しました』

そんな小松さんはファイナルエディションの開発にあたって、まずは自らの記憶と共に現存する資料を掘り起こして、初代から歴代モデルの開発者・スタッフの想いを紐解いていくことからはじめたという。

小松さん『まず(ゼロの部分として)どうするか? です。CB1300シリーズっていうのはHondaロードスポーツの頂点のひとつですからね……時代に合わせて常に進化を続けて頂点にいたバイク。もちろん現行モデルにも実際に乗ってみたりもして……そこで感じたのは「完成度の高さ」でした。バイクとしてめちゃくちゃ完成度が高い。もうこれには何も付加するものなんてない、と思ったんです。そこで「もともとのBIG-1って何だったんだろう?」と原点に立ち返りました』

実は小松さん、1992年当時にHonda社内でPROJECT BIG-1が華々しく進行する傍らで、CB750の開発に携わっていたという。

小松さん『CB750はね、CB1000 SUPER FOURと同じ1992年生まれのバイクなんですよ。いま振り返ってみればCB750は色々と制約の多いバイクでした……幅広いユーザーに乗ってもらえるようにって。そんな中で1991年のモーターショーにBIG-1のプロトタイプが展示されたんですが……あんな景色は初めて見ました。会場でプロトタイプを眺めるお客さんが、そこから動かない。幸せそうな顔でバイクをずっと見ているんです。そこで「ああ、バイクってこれなんだな」と思ったのを覚えています』

1991年 第29回東京モーターショーのHondaブースにて

すこし昔を懐かしむように当時のことを語る小松さんは限定解除世代(大型二輪免許が教習所では取得できなかった世代)なので、大型バイクへの憧れはやっぱり強かったのだろう。そこで『大型バイクへの憧れそのもの』をストレートに表現したプロトタイプは特に眩しく映ったに違いない。

小松さん『このバイクをやりたい、という気持ちはずっとありました。まさか最後のモデルを担当することになるとは思いませんでしたが……その中で原点の「PROJECT BIG-1」を語るには外せないと思ったのが燃料タンクの「HONDAロゴ」です。今のHondaのスポーツバイクは基本方針としてタンクにウイングマークのエンブレムを採用します。だけど今回、このHONDAロゴだけは絶対に譲らない、と思っていました。それがダメだと言われたら全部やりなおしで別のことを考えるしかない。別のバイクになっていたかもしれません』

幸いにしてその提案は受け入れられた。このこだわりには小松さん自身も強い想い入れがあるようで、口調が熱を帯びてくる。

小松さん『BIG-1ってね、デカいエンジンにデカくて強そうなタンク! これだと私は思っているんです。私がいちばん気に入っているのはこのバイクに跨った時に見える景色でして、ライダー目線でタンクを見下ろすと、そこにHONDAロゴが誇らしげにあって。もちろんバイクは初代と同じものではないです。だけど「これがBIG-1だ!」という魅力は表現できていると思う。だからトップブリッジも素材を味わうためにシルバーにしました。あとはCB1300シリーズって鉄のガソリンタンクでしょう? 塗装や質感を手でも触れてみてほしいと思っています』

同時に、初代BIG-1に採用されていたゴールドチェーンも外せない要素として追加。トップブリッジと同じくシルバーのスイングアームとすることによってCB1300シリーズが持つ『力』を表現しているという。

ところで塗装と言えば、私(北岡)には気になっていたことがひとつあった。なぜそれほどまで『BIG-1の原点』にこだわっているのに、カラーを初代モデルと「完全に同色にしなかったのか?」という部分だ。

小松さん『塗装もね、大きく進化しているんです。たとえば白ひとつ取ってもそう。このシリーズに採用されている白は太陽の下ではパールがキラキラと煌めいて、日陰では純粋な白に見える。何でも昔のままにすればいいという考えはありませんでした。今、使える最高の色だと思っています。それに劣化に対する耐久性がまるで違いますから。より長い間、新車のような美しさを維持できます』

これは「言われてみれば納得」としか言いようがなかった。私のような一般ユーザーはエンジンのメカニズムの進化や最高出力などには敏感に反応するけれど、塗装の進化にまでは思いが至らない。仮に、初代モデルを単純に再現したカラーが採用されていたら、実車を見た段階で物足りなさを感じていたかもしれない……と反省した。

 

小松さん『もちろんですが、このバイクは幅広い人たちに乗ってほしいと思っています。車体は大きいけれど、走れ出せば驚くほどに軽快。恐れずに一度は乗ってみて欲しい。(LPLとして)そう思っていますが、「私個人の想い」としては……』

ひと呼吸おいて、小松さんは言った。

小松さん『1992年の、あの時の衝撃を知っている人、だけどあの時は事情があって買えなかった人に乗って欲しい。そして、このシリーズをかつて愛してくれた人にもういちど乗ってほしい。そのうえで、永く乗ってもらえれば……なんて思っているんです』

晴れやかな顔でそう語る小松さんにとって「PROJECT BIG-1」に関わるシリーズのバイクは、すべからくHondaの、そして大型バイクの『象徴』なのだという。自分で担当しながらも「本当にこのバイク、無くなっちゃうの? いまだに現実味がないですよ」なんて笑っていたが……

時代を駆け抜けた、その象徴はここで幕を引くことになる。

泣いても笑っても。

このバイクのオーナーになるチャンスは、これが最後だ。

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【文/北岡博樹(外部ライター)】

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