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既存のMTやオートマとは『別種』と考えるべきかも? E-Clutchの本質は『バイク楽しい!』の増幅装置だと思う!【Hondaの道は1日にしてならず/Honda E-Clutch 後編】

はじめてHondaのE-Clutchを体感してみた正直な感想。思っていたとおり「ラクできる」のは間違いないことでしたが……どうもこれ「それだけのため」じゃない気がする……?

バイクで『走る楽しさ』をひとりでも多くの人に

全面的に『ラクするための機構』だと思っていたHondaのE-Clutchですが、HondaGO BIKE RENTALでちょい乗りしたRebel 250 S E-Clutchでちょっとした疑問が湧きました。

なんとなくだけどE-Clutchってラクをするための機構なだけじゃない気がする。もちろんラクもできるし、バイク初心者の人のとっては運転に対する負担やストレスが減るのも事実なのですが、これって本当は「スポーティさを楽しむ時」にこそ威力を発揮するものでは?

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あくまで直感ですが、そう感じたので新たにCBR650RのE-Clutch仕様車を乗ってみました。ワインディングを走ってみたところ……やっぱり!?

予想が大当たり!

まず、ワインディングをCBR650R E-Clutchで走るにあたって最も『いい!』と思ったこと。

それは先の【前編】でも言いましたが『人の感性に近いところ』です。

すごく端的に言うと、E-Clutchは人の代わりにモーターが自動でクラッチ操作をしてくれる機構で、半クラッチの状態をシステムが制御してくれます。しかも、その半クラッチのフィーリングがとても自然! そして、ここで重要なのが、そもそもの話なのですが『半クラッチの状態がある』ということ。

既存技術として、クラッチ操作をしなくてもギアチェンジができる「クイックシフター」というものがありますが、クイックシフターは電子制御で点火や燃料噴射をカットした瞬間に、ギアのかみ合いが緩むタイミングが発生するのを利用して素早いシフトチェンジを可能とするものです。実はクイックシフターでのシフトチェンジの際にはクラッチは一切動いていません。

そのためか、人の感覚として言うと「ギアチェンジの操作をする」というより「ギアチェンジのためのスイッチを押している」みたいな感覚が残ります。スポーツライディングで効率的かつ素早い変速をするだけならばこれで問題ありません。ですがバイクに乗り慣れた人ほど、慣れ親しんだ「半クラッチの感覚」がないため、多少違和感があるかもしれません。

スポーティな走りの際にも『感性』に寄り添うE-Clutch

だけどE-Clutchにはクイックシフターでギアチェンジする際の「スイッチっぽい感じ」がないんです。

ただ単純に「手でのクラッチ操作が無くなっただけ」という感覚。人の感覚というのは時として恐ろしく鋭いものですが、頭ではなく身体に刷り込まれた『半クラッチ感』を機械が見事に再現しています。こういうのは数値化できない部分だと思うのですが……このフィーリングのためにHondaはどれだけテストを行ったのか。考えるだけでゾッとします。

そして、感覚的に違和感がないことに加え「走行中の操作がひとつ減ること」は絶大な威力でした。

例えばコーナー進入でのブレーキング。

通常のMT車の場合はライダーは減速Gに耐えながら、シフトダウンのためにハンドルグリップから一時的に左手の指を離してクラッチを操作します。でもE-Clutchでは「そのままハンドルをしっかり握っていられる」んです。これはけっこう大きな差で『クラッチ操作が無い』ことにより、ブレーキのリリースポイントに集中できるし、コーナーの先を読みとる脳のメモリに余裕が生まれます。

それでいてシフトレバーを足で操作すると「知っている半クラの感覚」と共にシフトチェンジができる。しかも、緻密な半クラッチ制御により不安になるようなシフトショックも無し。魔法か?

さらに言うとコーナー前からハンドルをしっかり握って、事前に態勢をきっちり整えられることからバンク中も不安が少なくなります。スポーティな走りが好きな人はおわかりだと思いますが、コーナリングは「進入前の前準備」がとても重要ですので!

さらにコーナー脱出で加速する際も、アクセルを開けた状態から遠慮なくシフトアップOK。最初はおっかなびっくりだったけど、1回やってみるとクイックシフターに感じるような唐突感がないので、自信をもってギアを一段上に叩きこめるようになります。そしてこれを体感すると、そこからめちゃくちゃE-Clucthへの信頼感が上がると思います。

Hondaが『E-Clutch』で目指したものは?

走り終えて思ったのは、本質的な部分でのE-Cluchは「スポーティに走る楽しさ」をスキルを問わず楽しませてくれる機構なのだろうな、ということでした。ツーリングシーンや渋滞などでの快適性は、このシステムにとって副次的なものなのかもしれません。

スポーティな走りのシーンにおいて、E-Clutchは大型バイク初心者の人に絶対的な安心感をくれるだろうし、私のようなとりあえずバイクに長く乗っている自称・中級ライダーにとっては「操作がひとつ減ること」で走りに集中できる。それがとてつもなく大きなアドバンテージになります。だってそのぶん生まれた余裕で「乗りこなすこと」へのトライ&エラーができるから。なんならE-Clutchのほうが運転の上達が早いかもしれない、と思ったほどです。

あとはUターンの時に「いつもどおり」にクラッチを使ってUターンができるのは本当に良かった!

E-Clutch車を購入して、その感覚が身体に沁み込めばUターンでもクラッチを使わない「E-Clutchマイスター」になれるかもしれませんが、最初のとっつきやすさとして、ここぞという時はクラッチが使えるという自由度は助かります。

ちなみに、CBR650R/CB650RのE-Cluchシステムは全面的なキャンセルが可能です。でもこれはサーキットなどで走りを楽しみたい人向けかな? なんて思いました。

その理由はE-Clutchをキャンセルしても、エンジンのOFF→ONでバイクが自動的に「E-Clutch状態でのスタンバイ」に復帰するから。このバイクは前提としてE-Clutchで走ることが基本スタンスになっていると思う。それにツーリングで休憩して、再び走り出す時にいちいちE-Clutchをキャンセルするとか……3日も乗れば面倒になってやらなくなるはず(笑) 先に「副次的なものかも?」なんて言ったばかりですが、それくらいツーリングシーンでもE-Clutchは快適です。

何と言えばいいのか……実際に乗ってみて思うのですが、HondaのE-ClutchってMTとかオートマとかの「既存の枠組み」に無理に押し込まないほうがいい気がする。比較はできるけど、しっかり乗ってみると「MTでもATでもない」というのが正直な感想です。

たぶん、いったん頭を空にして「これはE-Clutchっていうもの」とシンプルに受け止めると見え方が変わってくると思う。

MTでもATでもない新機構。そこにあるのは極めてシンプルに『バイクで走る楽しさ』と『操る楽しみ』をひとりでも多くの人に味わってほしいというHondaの願いなのかもしれません。

だから「そんなシステム無くてもいいよ~」なんて思ってる人ほど乗ってみて!

たぶんだけど……いちバイク乗りとして『こういう在り方もあるのか!?』という“新しい気づき”を得ることができると思いますよ!?

【文/北岡博樹(外部ライター)】

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