地球温暖化による影響などでますます暑さが厳しくなっている近年の日本の夏は、熱中症になってしまうリスクも年々増えています。
今回は熱中症になる前の初期症状とも言える「隠れ脱水症」と「熱中症予防」について解説します。
ライダーはヘルメットや長袖ウェアのフル装備で“隠れ脱水症”になりやすい⁉︎
自分の好きな時間に一人でも気軽に出かけられるツーリングは、バイクを趣味とするライダーにとって特別な時間ですよね。
しかしながら、外気温が35℃を超えるような猛暑日が続く近年の日本の暑さは、バイクライディングに限らず「熱中症」の予防が常に欠かせません。
それにバイクにはクルマのようなエアコンもありませんし、ヘルメットやプロテクターの装備された長袖のライディングギアを着ていますので、一般的な夏のレジャーよりも暑さによる身体の疲労をより意識してツーリングを楽しむ必要があります。
特に高速道路を使って長距離を走るようなバイクツーリングは、次のSA・PAまではすぐに停まれませんし、郊外の一般道では日差しを遮れる屋根があるような休憩ポイントがあるとも限りません。
また、バイクはエンジンの熱や路面の照り返しなど、外気温以外の暑さも加わるので、真夏のツーリングは実はかなり過酷な環境下だと言えます。
「バイクは走行風を浴びているから、走っている時は涼しいんじゃないの⁉︎」と思われるかもしれませんが、熱風に近い走行風を浴びていてもライダーの身体にこもった熱はあまり外部へ排出されていないことが多く、汗をかき続けていることに気がつきにくいのです。
これらの要因で大量に汗をかき続けていると、そんなに具合が悪くなかったとしても熱中症の初期症状とも言える「隠れ脱水症」になっている場合があります。
脱水症状になると身体の熱を逃がす働きが鈍くなる
“隠れ脱水症”とは、身体に必要な水分の1〜2%が失われているにもかかわらず、喉が乾いたり、明確な脱水症状がすぐには現れず、あまり自覚のない状態になっていることを指します。
つまり、汗はかいているものの身体的にはあまり不調を感じていない状態のことですが、実はこの段階で既に身体の熱を逃がす働きが鈍くなりはじめているのです。
この隠れ脱水症に気がつかずに更に汗をかき続けると、身体の水分量が理想値よりもだいぶ足りていない“本格的な脱水症状”になります。
まず、脱水症状になると全身に十分血液が巡らなくなり、腎臓などの臓器の機能が低下します。
軽度な脱水症では“めまい”や“ふらつき”が起こり、ようやくこの時点でライダーは「ちょっと休んだほうがいいかな……」と気がつきますが、このタイミングで休憩ポイントを探すのはちょっと遅いと言えるでしょう。
先述したように、すぐに適切な休憩スポットが見つからない場合も多く、都合よく飲み物が買えるコンビニや自販機などがあるとも限りません。
そのまま走り続けていると、脱水症が更に深刻化して、中等度の脱水症状では“頭痛”や“胃のむかつき感”などの恐れがあり、そして高度の脱水症状になると“意識障害”や“痙攣”などが現れるようになり、本格的な「熱中症」に繋がります。
汗が引かなくなったら要注意!段階別にみる熱中症の症状とは?
熱中症が起きてしまう背景には脱水症が潜んでおり、「喉が乾いたなぁ……」と思う自覚症状が出る前に、ある程度の脱水症状が進行してしまっているのです。
脱水症と熱中症は身体に現れる症状が似ているので混同されやすいですが、どちらも水分不足や塩分不足が関係する健康障害です。
そんな熱中症の症状を、3つの段階に分けると下記のような症状が現れると言われています。
軽度の熱中症状:●発汗 ●めまい ●立ちくらみ ●筋肉痛 など
軽度の症状に分類されるものでも、めまいや立ちくらみ、筋肉痛に似た症状などが現れます。
ですが、過酷な環境下で走るライダーにおいては、できればこれらの症状を感じる前に『そうならないよう』に対処していきたいというのが『ライダーの熱中症対策』とも言えます。
そこで気にしたいのは発汗量。
自分の感覚で良いのですが『なんだか今日はいつもより汗がスゴいな』と感じたら、めまいや立ちくらみのような症状が出ていなくとも、一度休憩して軽く休む。そして、喉が渇いていなくても水分を補給する。それを『真夏特有のバイクでの走り方』として、心掛けておくことが重要なんです。
もちろん上記の初期症状を含め、身体に何らかの異変を感じたらすぐに『一度停まって休憩しつつ様子見する』ことが大事です。
中度の熱中症状:●集中力&判断力の低下 ●頭痛 ●吐き気 ●倦怠感 ●虚脱感 など
中度の症状になると、集中力の低下や判断力の低下、頭痛や倦怠感などが現れると言われています。
このような症状を感じた場合は、すみやかに一度停まって、症状が治まるまでバイクに乗らないようにしましょう。
私は過去、高速道路を走行中に突如としてズキーンッ!と耳の奥に激痛が走ったことがあります。その時はすぐさまサービスエリアで休憩し、身体を休めて体温を下げるよう努力したところ、30分くらいで回復しました。それでもその30分間は、かなり身体的な不調を感じていたのを覚えています。みなさんもお気をつけください。
重度の熱中症状:●体温の急上昇 ●歩行困難 ●言動不明 ●意識の喪失や痙攣 など
体温が上ったまま一向に下がらず、歩行が困難になるほど症状が進んだ場合は、重度の熱中症と言えます。
最悪の場合、意識の喪失や痙攣などが起こってしまう場合もあります。万が一、このような重度の症状が現れた場合は、非常に危険な状態と言えます。到底バイクを運転できる状態ではありません。場合によっては、直ちにツーリングを終了する決断をしましょう。
水分を頻繁に摂ったら“トイレが近くなる”のは気のせい?
真夏の炎天下の中をバイクで長時間走るライダーは、熱中症はもちろんのこと、隠れ脱水症になる前に定期的な休憩&水分補給が肝心です。
それほど喉の乾きを感じていなくても、真夏のツーリングでは普段よりも意識的に水分補給を心掛けたいですが、多めの水分を摂ると気になるのが、トイレが近くなること、ではないでしょうか?
現に筆者の私も、頻繁にトイレに行きたくなるのを嫌い、過去に夏ツーリングでもあまり水分を摂るのを控えめにしていた時期があります。
しかし、真夏のバイクツーリングで水分補給を控えていると、少しずつ頭がボーッとしはじめて集中力や判断力が低下し、汗を大量にかいていることや、自分が疲れていることすら気がついていない状態になっていたことがありました。
その経験をしてから、真夏の時期に限らず喉が乾いたと思う前に定期的な水分補給と休憩をとるようにしたら、このような症状はピタッと起きなくなりました。
また、水分摂取を増やしたらトイレに頻繁に行くようになるのでは?と思っていましたが、摂取した水分は汗として排出されることが多くなり、意外にもトイレの回数はさほど増えず、脱水の症状も抑えられていると言う結果になりました。
ちなみに、水分を摂取してから尿として排泄されるまでには一般的に約3時間程度かかると言われ、カフェインなどの利尿作用がある飲み物などを除き、飲んだ水分がすぐに排出されるわけではないといわれています。ですから水分を摂ったら頻繁にトイレに行きたくなるように感じるのは、意外にも“気の持ちよう”なのかもしれません。
もちろん、トイレの近さは人それぞれ違いますし、その日の体調や摂取した水分の成分や量などでも全く変わってきますので一概には言えませんが、真夏のツーリングはむしろトイレのタイミングも上手に活用して、定期的な休憩を心掛けるようにしたいですね。
地球温暖化の影響などで、真夏の最高気温が35℃を超えるような猛暑日が増えて来ていることもあり、バイクツーリングに限らず、熱中症対策は無視できない社会問題になっています。
ですから「自分は大丈夫でしょ!」と安易に判断せず、脱水症や熱中症の症状が現れる前に対処するのが何より大事!
夏のツーリングは少し多めなくらいの休憩が正解。むしろ、休憩の回数がいちばん多くなるのが夏だと思っていてください。
暑さ対策と適度な休憩&水分補給をしっかり行って、夏もバイクを思いっきり楽しんでくださいね!
【文:岩瀬孝昌(外部ライター)】
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