オフロード遊びにも夢中とはいえ、アドベンチャーモデルとの接点は少なめな岡崎静夏さん。
XL750トランザルプのデカさに、乗る前は身構えていたようですが、いざ走ってみたら想像をはるかに超える扱いやすさに驚かされることに……。
手強そうなルックスだけど実はだいぶフレンドリー
今号が発売される頃には正式に体制発表されているはずですが、今季も全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラスにフル参戦します。所属チームは昨年までと同じ「日本郵便ホンダドリームTP」。タイヤは新たにブリヂストンを使用します。
まだ真冬のモビリティリゾートもてぎで一度テストしただけの状態ですが、BSタイヤとの相性はかなり良好。参戦する以上は“優勝”を一番の目標に掲げながら、今季も全力で挑んでいきます!
「挑む」ということでは、今月の相棒に選んだXL750トランザルプにも、乗る前は同じく挑戦する感覚でした。車格やパワーやシート高など、すべてにおいて私にはオーバースペックすぎて、正直なところかなり気を遣うんじゃないかと……。
ところが、いざツーリングに出発してみると、158cmという私の身長でも、意外なほど普通に扱えてしまいました。まず、片足のつま先だけとはいえ足が着きます。本格的なアドベンチャーパッケージですから、シートが高めになるのは当然ですし、それにより210mmの最低地上高や高いアイポイントなどのメリットも生まれるので、シートが高いことそのものにネガティブな印象はありません。とはいえ、もっと高いと本当に運転が厳しくなると思うので、トランザルプのシート高設定にはありがたさすら感じます。
また、車体はかなり大柄ですが、走行中や押し引きでは、ルックスから想像していたほどの“重量感”はありません。例えばちょっとした砂利道に踏み込むときも、「いざとなれば降りてからUターンすれば引き返せるか……」なんて思えるから、それだけで安心感が違います。
高速道路からダートまで自在に駆け抜けたい!
そしてエンジンも、高速道路やワインディングや市街地、ウェット路面やフラットダートなど、さまざまなシーンを走ることを考えたときに適度なパワーと扱いやすい出力特性。これよりもトルクフルだと、私のオフロードスキルでは持て余してしまいそうですが、トランザルプならむしろ積極的にフラットダートを走りたくなります。
ライディングモード変更により、走行シーンや好みに合う特性に切り替えられる点も魅力。例えばグラベルモードだと、トルクそのものはあるけどスロットル開け始めが穏やかになり、路面を一瞬搔いてしまうことが減るので、より安心して操縦することができます。
とはいえ、電子制御が担うのはサポートあるいは味つけの役割であり、やはり注目するべきは、素の状態での出力特性。全域で扱いやすく、だからこそ幅広いレベルのライダーが多彩な道で楽しめると思います。
高速巡航で驚いたのは、防風性能の素晴らしさと振動の少なさ。それなりに排気量があるため、日本の高速道路では低めのエンジン回転数で巡航できるというのも疲労低減につながる要素だと思いますが、立ったスクリーンと大きなカウルのおかげで上半身や足に当たる走行風はとても少なく、長めの前後サスが路面のギャップを吸収してくれて、快適な乗り心地です。車格が大きいこともあり全体的に余裕が感じられ、「これならどこまでも走っていける!」とさえ思えます。
舗装路でのコーナリングは、いかにも大径フロントホイール&ロングホイールベースという感じ。スポーティに楽しもうとするとバンク角は深めになりがちですが、逆に旋回中も安定性は素晴らしく、フロントタイヤのグリップが抜けないよう気をつけつつ、意外と楽しく操れます。そしてこの車体バランスだからこそ、フラットダートも余裕でした。
これまで、いわゆるビッグアドベンチャーに乗る機会はあまりなく、体格的にもリッタークラスだと厳しいと思ってきましたが、トランザルプのサイズ感と走りなら、峠道やフラット林道が含まれるツーリングを頻繁に楽しむ気になるし、長距離巡航系のロングツーリングにも行きたくなるし、それどころか普段使いすらしたくなります。「きっと仲良くなれないだろうなあ……」と思っていたけど、いざ触れてみたらトランザルプのほうから私を受け入れてくれた感覚。だからこそ、バイク遊びの夢がどんどん膨らみます。
私の体格とオフロードスキルを考えたら、XL750トランザルプこそがしっかり使いこなせるアドベンチャーモデルの頂点。新しい扉を開いてくれたバイクでした。
XL750 TRANSALP:SHIZUKAの評価
1)私の印象としてはかなりオフ車寄り。でも、じつはオンロードもかなり楽しく快適に走れるので、見た目に騙されちゃダメです!
2)オンロードでもダートでも、冒険やツーリングの中でスポーティな雰囲気を楽しめますが、当然ながらガチのスポーツ系とは違います。
3)ロングもショートも、オンもオフも守備範囲。もはやツーリングではなく冒険に出発したくなるほどの、本格的な走りと装備です。
4)確かに車体は大柄ですが、左右各42度もあるハンドル切れ角のおかげで意外と小回りも得意。普通に街乗りできると感じました。
5)カラーメーターやETC 車載器やUSB電源ポートを標準装備し、電子制御も充実。自分の旅スタイルに合う人にとってはお買い得!
SHIZUKAのお気に入りポイント
【抜群の防風性能で長距離巡航も余裕】
コンパクトでありながら縦に伸びたスクリーンと、ボリュームのあるミドルカウルの相乗効果で、抜群のウインドプロテクション性能。私の身長だと上半身に感じる走行風は本当に少なく、高速道路の120㎞/h区間も余裕です。
【全域で扱いやすく力強いエンジン】
低中回転域がフレンドリーで、高回転域は十分にパワフル。トルクがありすぎるとかピーキーなんて雰囲気が皆無で、どんな路面状況でも扱いやすく、だからこそ楽しめるエンジン特性です。モードごとの違いも明確にあります。
●まとめ:田宮 徹 ●写真:楠堂亜希
※当記事は(株)内外出版社ヤングマシン掲載記事(2024年4月号)の内容を編集・再構成したものです。