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伊藤真一のロングラン研究所(フォルツァ 編)

2018年にフルモデルチェンジ、2021年にマイナーチェンジを受けたビッグスクーターのロングセラーであるフォルツァが、2022年末に仕様と外観の一部変更を受けた。
2018年モデル以来の試乗となる伊藤さんですが、その走りやクオリティには感激を覚えたとのこと。

新型のフォルツァはどこが変わって、どのように良くなったのか、今回も徹底的に深堀りしてみました!

【伊藤真一】1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2023年も監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

 

走りのクオリティの高さに誰もが感激すると思います

2018年にフルモデルチェンジされたフォルツァは、2019年の連載で取り上げましたが、フォルツァに乗ることは今回がそれ以来となります。2021年型からの変更点は、外観でわかるところはヘッドライトとテールランプまわりのデザインが新しくなったこと、そしてメーターまわりのデザインが変わったことですが、エンジンも最新の排出ガス規制に対応したものになっています。

今回の試乗コースは都内の編集部からアクアラインを経由して、千葉県を中心に走り回るものでしたが、思いの外スクリーン内側、自分の体の前で風が巻いているのを感じました。スクリーンの高さを上げ下げして、どのように変化するか試してみましたが、いずれの位置でも巻き込み感は変わりませんでしたね。ただその日は、アクアラインが通行止めになるギリギリくらいの強い風が吹いていたので、新型フォルツァの可動式スクリーンを公正に評価するには相応しい場ではなかったのかもしれません。それくらい横風がすごくて、正直怖かったです(苦笑)。

新型フォルツァに乗って、最初に感心したのはエンジンと駆動系の出来の良さでした。あれ、単気筒だったよな? と思ってしまうくらいフリクション感がない。そしてパワー感も非常にあります。スペックを2021年型と比較してみると、数値的には最高出力も最大トルクも変わりなく、2018年型との比較では最高出力の発生回転数が、わずか250rpm上がっているだけです。

でも2018年型と新型は、まったくの別物というくらいエンジンが良くなっていました。一般に無段変速オートマチックのスクーターは、スロットル操作と速度の上がり下りにラグを感じがちですけど、新型フォルツァにはその感じはなく操作に対してリニアに加速と減速ができます。エンジンの出力特性と、駆動系のセッティングが非常に合っている印象を受けました。今回は赤城ありささんに参加していただき、多くの場面でタンデム走行をしましたが、どの場面でもパワー不足を感じることはありませんでした。

スーパースポーツに採用されているようなモード変更はフォルツァにはありませんから、エンジンの「素」の状態でのパワー感というわけですが、改正するごとに厳しくなる排出ガス規制に適合しながら、ちゃんとパワー感を上げているというのは素晴らしいことだと思いました。そして単気筒? と思ってしまうほど、フィーリングが滑らかで上質感がある。あと、どれだけ走っても燃料ゲージが減らないと思うほど、燃費が良いのもフォルツァのエンジンの良いところですね。燃費表示では常に、リッターあたり37~38kmという感じでした。

自分も過去にフォルツァやシルバーウイングなどの大型スクーターを所有していたことはあるのですが、ひと昔前の大型スクーターの感覚とはまったく違います。「スクーターってこんなもんでしょ?」みたいに見くびっている人にこそ、新型フォルツァのエンジンの出来の良さと、走りっぷりの良さを体験していただきたいですね。走りのクオリティの高さに、きっと感激すると思います。

テールヘビーさが少ない絶妙な車体セッティング

新型フォルツァは、ハンドリングなどの走行フィールも大幅に向上しています。フレーム、前後サスペンションなどの設計とバランスが、とても良い印象を受けました。スイングアーム一体の、ユニットスイング構造の一般的なスクーターは、どうしても前後重量配分でテールヘビーになりがちです。フォルツァはマスの集中化とコンパクト化を図ることで、スクーターとしてはかなりテールヘビー感を減少させています。フロントに適度に荷重がかかるような設定ですが、4輪でいうところのブレーキ角(編集注:前後最低地上高の差による傾斜角)がついているような感じがありますね。

キャスター角を適度に寝かせてあり、リア2本ショックの作動がとても良いこともあって、低重心のオートバイを走らせているようなハンドリング感覚を楽しめます。フロント15、リア14インチのタイヤはスクーターとしては大径ですが、一般的なオートバイに比べると小径といえます。しかし前後のタイヤの接地感も、十分に得られていることに感心しました。

前後ブレーキのABSは、スポーツバイクのそれと比べるとちょっと介入が早いですね。通常の舗装路面で、強めにブレーキをグッとかけると、すぐにABSが作動します。250cc以下のモデルは初心者が選ぶことも多いですから、早めの介入の方が安全という設定なのかもしれません。新型フォルツァの場合、リア側が特に介入が早い感じでした。ABSといえば、所有していた旧型ADV150を譲った友人が、ABS介入が早くて怖い! と言ってましたね。強めにブレーキかけるベテランライダーのなかには、ABSが早く介入することに違和感を覚えたりする人もいるのでしょう。もっともこの話は、あくまで感覚的な問題ではありますが。

ABSのほかのライダーエイド的装備として、フォルツァは後続車に急ブレーキ状態であることを伝えるエマージェンシーストップシグナルと、セレクタブルトルクコントロールを採用しています。トルコンに関しては路面状態が悪いところを走らなかったこともあり、今回の試乗中に作動することはありませんでした。一般的なオートバイよりタイヤが小径な例が多く、運転技術が未熟な初心者が選ぶことも多いスクーターに、後輪のスリップを抑制してくれるトラコンのような機能を採用するのは、とても良いことだと思います。

 

長年の販売競争の場で、磨き上げられた高品質

あえて気になった点をあげるとライディングポジションに関しては、上体はリラックスした状態を保てますが、足元はちょっと窮屈に感じました。フロアの前側に足を置く出っ張りがありますが、あれがないほうが足をより伸ばせて良いのに、と思いましたね。

あと前左側のインナーボックスは、深さがあって容量が大きいのが魅力ですが、高速道路料金支払いのとき入れておいたETCカードを取り出すのに、その深さから底部を焦りながら指で探らないといけないのが大変でした(苦笑)。ここはオプションのETC車載器設置する場所でもあるので、ETC車載器を取り付ければカードを探る必要はありませんが…。左に深くて大きなインナーボックス1つより、容量が減っても左右に2つあったほうが便利かなとも思いましたが、内部パーツのレイアウトとの兼ね合いなどで、この仕様になっているのでしょうね。

初代フォルツァの登場が2000年ですから、すでに20年以上が経過しているロングセラーということになります。新型フォルツァの仕上がりのクオリティの高さには、その間の技術の蓄積と研鑽を感じました。ひと昔前のスクーターは「プラスチッキー」な印象があり、高級感には乏しいモデルが多かったですが、新型フォルツァにはそのような印象をまったく覚えることはありませんでした。

現在日本国内は、かつてのビッグスクーターブームほどの盛り上がりはありませんが、欧州市場では多くのメーカーがこぞってこのジャンルのモデルを開発して、販売競争を繰り広げていると聞きます。競争の厳しいジャンルだから、ライバルメーカーよりも魅力ある製品を作らないといけない。激戦区を長年戦ってきたという経緯も、フォルツァの仕上がりの良さに影響を与えているのかもしれないです。

Photo:松川 忍、まとめ:宮﨑 健太郎、モデル:赤城ありさ

*当記事は月刊『オートバイ』(2023年7月号)の内容を編集・再構成したものです。

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