HondaGO BIKE LAB

伊藤真一のロングラン研究所 CRF1100Lアフリカツイン〈s〉 編

Honda オフロードのフラッグシップモデルである、大型アドベンチャーのアフリカツイン系は、長年、伊藤真一さんのお気に入りです。2024年3月に発売されたその最新モデルを、果たして伊藤さんはどのように評価したのでしょうか?

新型で走り出してすぐに覚えた気になる違和感の正体は……

伊藤真一(いとうしんいち): 1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2024年も監督として「Astemo HondaDreamSIRacing」を率いてJSB1000クラス、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

 

新しくなったアフリカツインシリーズは、アドベンチャースポーツにフロント19インチが採用されたことが話題になっています。今回の試乗ではそれに乗れると期待していたのですが、取り上げたのはスタンダードの方でした。アドベンチャースポーツの試乗は、近い将来の楽しみにとっておきます(笑)。

新型のホイールはフロント21インチ、リア18インチとサイズは不変ですが、アドベンチャースポーツが装着していたチューブレスを新たに採用しています。過去にアドベンチャースポーツを試乗して感じたことと一緒ですが、チューブレスになったことでオンロード走行時のフロント21インチの頼りなさみたいなものは、全く感じませんでした。自分はオフロードの専門家ではないので、アフリカツインのオンロードでの性能に注目してしまいますが、その観点からするとチューブレスの採用はとても好ましいです。

前後ブレーキの効きや使いやすさも、これまでのアドベンチャースポーツ同様にとても良く、非常に気に入りました。一方で気になったのは、サスペンションに関してのことでした。乗り出してから最初のうちは妙にリア側が下がっていて、フロント側が上がっていて違和感を覚えてしまいました。とても気になったのでサスペンションの調整を休憩中に確認してみたら、リア側のプリロードが最弱になっていました。

おそらく我々の前に試乗した人が、足つきを良くするためにそうしたのかもしれません。正しい情報を読者のみなさんにお伝えするために、試乗後は広報車を標準設定に戻し、試乗前は標準設定であることを確認する。当たり前のことの大事さを、改めて認識しましたね。

マニュアル調整式サスは積極的に調整すべき

ただリアのプリロードを標準に戻してからも、フロントフォークは気になりました。突っ張り気味で、どんどん荷重がリア寄りになるためフロントが沈まず、舵が入らない印象でした。フロントの硬さゆえにリアが下がると、キャスターが寝ていくのでタイヤの後ろ側で走るようになります。すると旋回中に荷重が抜けた瞬間、フロントが切れてしまいます。もっとキャスターアクションがつくようにして、接地点もタイヤの前側に移動するようになっていた方が良いです。

走行モードに合わせて設定をアジャストする電子制御サスペンションを採用する、アドベンチャースポーツESにはその必要はありませんが、マニュアル調整式のアフリカツインでは、使い方や状況に応じた設定をすることが、走りを楽しむために重要だと思います。

アフリカツインにはマニュアル調整式サスペンション装着モデルを対象にした「サスペンションセッティングガイド」がウェブ上に公開されています。示されているのは『標準』、『コンフォート』、『スポーツ』、『オフロード』、『荷物積載』、『2人乗り』、そして『2人乗り+荷物積載』というケースそれぞれの、参考としての推奨セッティングですが、いずれも前後サスペンションのプリロード、伸び側減衰力、縮み側減衰力が明記されています。

例として紹介するとマニュアルミッション車の『コンフォート』では、フロントがプリロード最小から+1回転、減衰力は伸び側が最大から-3回転、縮み側が最大から-12クリック。リアはプリロード最小から+3クリック、減衰力は伸び側が最大から-13クリック、縮み側は最大から-17クリックとなっています。

『サスペンションセッティングガイド』を大いに活用すべし!!

対してスポーツの場合は、フロントがプリロード最小から+3回転、減衰力は伸び側が最大から-1と1/2回転、縮み側が最大から-4クリック。リアはプリロード最小から+12クリック、減衰力は伸び側が最大から-4クリック、縮み側は最大から-8クリックとなっています。リア下がり気味なのが気になって、試乗中にリアのプリロードを標準の+7クリックから+8に変更したのですが、ガイドによるとスポーツの推奨は+12クリックなのですね。リア側+12にすると相当上がることになりますから、大分走りの印象は変わると思います。

ガイドに示された推奨値は、いずれも理にかなったものですね。コンフォートの推奨値もリア側をうまく抜く感じで、乗り心地が良くなって快適さが増すイメージがわきます。マニュアル設定のサスペンションを採用するアフリカツインのオーナーになる方は、このガイドを活用すべきだと思いますね。アフリカツイン本来の操安を楽しむために、このガイドは欠かせないものだと思いました。

サスペンション調整の基本がじつはわからないという初心者の方も多いかもしれませんが、フロント側が硬いからフロント側を柔らかくする……ではダメです。サスペンションは前後のバランスが重要なので、片方がどうこうという話ではありません。そしてスクォート力とか、乗り方によって最適は人それぞれなので、このガイドを参考にしながら前後のバランスを考慮して、色々試してください。

エンジンは最大トルクがアップ、一方そのフィーリングは

〈s〉タイプのアフリカツインに試乗するのは久しぶりでしたが、シート座面の高さを意識することはそんなにありませんでした。シート高を下げたLDタイプのアフリカツインは、ギャップ通過時に下からの突き上げを強く感じることがあり、そのことが数少ない欠点だと思っていましたが、今回試乗した〈s〉タイプはそのようなことがなくとても快適でしたね。スタイリング的にも脚がスラリと長い方がやはり様になりますから、自分の好みに合っています。

新型の1,100cc並列2気筒エンジンは、圧縮比やバルブタイミングを変更することで、最高出力は従来型と同じながらも低中速域の出力とトルクを向上させているのが特徴です。スペック上では、最大トルク発生回転が750rpm下がり、トルク値が10.7から11.4にアップしています。近年ライバルのアドベンチャーモデルたちがエンジンのパフォーマンスアップをしているので、その流れにアフリカツインも乗ったということなのかもしれません。

従来型のエンジンは2気筒でありながら、スムーズに吹け上がるフィーリングがとても好ましかったです。一方新型は圧縮比を10.1から10.5にして、バルブタイミングを変えることでパンチ感は増しましたが、エンジンフィールはちょっと悪くなったと思いました。エンジンのパフォーマンスを上げるなら、1,200ccとか排気量を上げる方が良いかも、とも考えてしまいました。

早く19インチ版を試したい! という想いが加速しました

もっともアフリカツイン系並列2気筒エンジンが、どれくらい排気量を上げることができるのかはわかりませんが……。140PS以上の最高出力を持つライバルモデルたちにエンジンパフォーマンスで対抗するには、エンジンを一から新設計する必要があるのかもしれません。

アフリカツイン系は、大型アドベンチャーモデルとしてはオフロード志向が強いタイプのモデルですが、今回のエンジン諸元の変更からすると、オンロードでの性能アップを狙っているのかもしれません。冒頭でお話したように、新型アドベンチャースポーツはフロントに19インチホイールを採用していますが、このエンジンも新型アドベンチャースポーツで試してみると、印象が変わるかもしれないと思いました。新型アドベンチャースポーツのフロントタイヤは110サイズですが、このエンジンの走りを受け止めるにはそれくらいがちょうど良い気もします。

〈s〉タイプのライディングポジションは従来型を踏襲しており、とてもリラックスして長距離を走れる設定になっています。オンロードでもオフロードでも、どちらの使い方でも不満を感じることはないですね。一方アドベンチャースポーツはハンドルとステップ位置は同じですが、フロント19インチ化によってジオメトリーが変わっているのが興味深いです。

新型アフリカツインはマイナーチェンジではありますが、従来型とは走らせてみて受ける印象が大きく変わっていました。繰り返しになりますが、オフロードの専門家ではないので、オンロードバイクとしていつもアフリカツインを評価しているのですが、今回〈s〉タイプを試乗したことによって、改めてフロント19インチの新型アドベンチャースポーツに早く乗ってみたい! という想いが強くなりました。今年中に実現すると思いますが、その時を楽しみに待ちたいです。

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2024年8月号)の内容を編集・再構成したものです。

関連記事

最近チェックした記事