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伊藤真一のロングラン研究所(CRF1100L AFRICA TWIN ADVENTURE SPORTS ES DUAL CLUTCH TRANSMISSION編)

*当記事は月刊オートバイ(2022年8月号)の内容を編集・再構成したものです。

熟成の深化により快適度が大きくアップした新型アドベンチャースポーツ!

1000㏄時代からアフリカツインはこの連載で取り上げてきましたが、モデルチェンジを受ける度に改良されているので、今回の新型CRF1100L AFRICA TWIN ADVENTURE SPORTS ES DUAL CLUTCH TRANSMISSIONに乗れることを楽しみにしていました。

まず最初に試したのは1時間半くらいの高速道路走行でしたが、4000回転で120㎞/hくらい。100〜120㎞/hまでの感覚は、今までのモデルよりも穏やかに感じました。もうちょっとローギアードでも良いかな…と最初思ったのですが、4000回
転を超え始めるとレスポンスがすごく良くなって活発な感じになります。
欧州などでは150㎞/hの高速巡航性能が問われるので、高速域で活きるこのギア比とエンジン設定で正解なのだろう、と思いました。贅沢な希望ですが、DCTにもうひとつ上の7速があればすごく良いなぁとも思いました。

昔はバイクでもクルマでも、速度調整を車両に委ねるクルーズコントロールには否定派だったのですが、最近はすごく便利!と思うようになりました。このアドベンチャースポーツにも採用されていますが、もちろんすごく良いと思います(笑)。
前のモデルでは、気にならない程度でスクリーンと体の間に風の巻き込みを感じたのですが、新型ではこの点も改善されていますね。
前のモデルでも不満は覚えませんでしたが、細かい部分まで快適性を高める熟成が図られていて、とても好ましいモデルチェンジの仕方だと思いました。

2気筒エンジンは相変わらず素晴らしいです! 新型は最新の排ガス規制に対応させつつ、低速時のスロットル小開度でのセッティング最適化や、DCTの変速タイミングが熟成されています。

試してみて、DCTの何が良くなったかを具体的に言いますと、クラッチのつながり始めのフィーリングが非常に良いですね。1000時代のDCT車に乗ったときは、Uターン時に速度コントロールのためにリアブレーキを左ブレーキレバーで操作できれば良いな…と思いましたが、1100ではその必要はないくらい、Uターンがやりやすくなったのに驚きました。
新型では、Uターン時に人間がクラッチレバーを握って操作しているみたいな進み方をするので、さらにすごくなったと思いました。
スクーターのように、左手でリアブレーキ操作したいということは、もうまったくないですね。

DCTの変速プログラムも、自分がMT(マニュアルトランスミッション)で操作する際の変速タイミングと全く一緒というわけではないのですが、何と言いますか…実に「納得できる」タイミングで常に変速してくれます。
新型のDCTはエンジンがノッキングしない領域で、適切に高いギアを選択しています。
かつてのホンダのDCT採用車では、ちょっと上げるの早いな…とか、ここで下げるのか? という意識とのズレを感じたりすることがありましたが、この新型のDCTではそういうことを感じることは一切なくなりましたね。
変速時の音も、かつてはガチャコン、ガチャコンといっていましたが、新型のDCTでは、作動音も大分小さくなっていました。

アフリカツインに用意された、2つの指定タイヤの違いによる走りのキャラクターの変化ぶりに興味津々?

今回の試乗車は、アフリカツインシリーズに用意された2つの指定タイヤのひとつ、メッツラー製品が装着されていました。
2年前に1100を試乗したとき、試乗車に装着されていたブリヂストン製品では気にならなかったのですが、このメッツラーは高速道路などでのロードノイズが結構大きめです。
そして舗装路では、縦方向のブレーキのグリップ力がそんなに強くないので、強くブレーキをかけると早めにABSが作動します。

試乗当初はブリヂストンとメッツラーの特性の違いを意識していなかったので、前後ブレーキの制動力立ち上がりのレシオを寝かせて、よりオフロードで使いやすい設定にしたのかな? と思ってしまいました。
不整地を走ったとき、ブリヂストン装着時は頻繁にABSが作動したり、ABSオフ時にリアをロックさせることができたのですが、今回メッツラーで不整地の走りを試したときは、そういう気配がなかったです。

そもそもこれら2つの指定タイヤは、ブリヂストンがどちらかといえばオンロード寄りで、メッツラーの方はオフロード寄りというキャラクターなのですが、タイヤの違いでかなりアフリカツインの走りのキャラクターも変化しますね。
自分の場合、アフリカツインはオンロードバイク的な走らせ方をするので、舗装路でのブレーキング時のグリップが強いブリヂストンの方が、使い方には合っていますね。舗装路のコーナリングも、自信を持って楽しめますので。
一方メッツラーは、オフロード走行も積極的に楽しみたい方には適したタイヤだと思います。
アフリカツインのオーナーになる方は、自分の使い方に合ったタイヤを選ぶと良いと思います。

大型アドベンチャーを基本的にオンロードでしか使わないなら、フロント21インチよりオンロード寄りのタイヤを選びやすい、フロント19インチのモデルの方が良いのでは? という声が聞こえてきそうですが、個人的にはアフリカツインのハンドリングは好きなので、このモデルは21インチのままでいて欲しいです。
スタイリング的にも21インチの方が迫力があって、自分の好みに合っていますから。

他メーカーのフラッグシップモデルと並んでも引けを取らないアドベンチャースポーツの完成度の高さ

前のモデルでも絶賛しましたが、アドベンチャースポーツの電子制御サスペンションは改めて良いと思いました。
Sタイプよりも前後ストローク長が短いためか、リア側がボトム近辺で少し固く感じますが、乗り心地も作動感もともに優れています。
機会あればSタイプにも試乗してみたいですが…。

スタイリングは従来型を踏襲しているので、新鮮味はフルモデルチェンジした車みたいにはないですが、フレームの白塗装などの質感は高いですし、ホンダオフロードの旗艦モデルとしてふさわしい仕上がりだと思います。オンロードのCBR1000RR︱R、ツアラーのゴールドウイング、そしてアフリカツインのアドベンチャースポーツ…この3台は3つのジャンルの旗艦モデルであり、ひとつの基準になるクオリティと走りの内容を持っているなと、今回改めて思いました。

この連載で試乗するときは、いつも自分が購入したらどう楽しむか、自分に問いかけながら考えているんです。このアドベンチャースポーツを購入したら…北海道に行ったり、タンデムツーリングを楽しんだりするだろうな、と想像しました。
ただ最近は、全日本やアジアのロードレース選手権、そして鈴鹿8耐と、おかげさまで非常に忙しくさせていただいているので、今自分が所有しているバイクにもロクに乗れていないのが現実なんです。
時間的な余裕がない今は、宝の持ち腐れになってしまう気がしますね…。

それはさておき、新型アドベンチャースポーツは、皆さまに自信を持っておすすめできる1台ですね。同ジャンルの旗艦モデル的アドベンチャーの、ライバルたちを相手にしても全然引けを取らない、品質と完成度の高さが魅力のモデルと断言できます。

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