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伊藤真一のロングラン研究所 CBR400R 編

400ccクラスのロードスポーツモデルで人気のあるCBR400Rが、Hondaセレクタブルコントロール(HSTC)や新形状の外装などを与えられてモデルチェンジ!

この新型の走りを、伊藤真一さんはどう評価したのでしょう?

単なるデザインの変更ではない、新型CBR400Rのカウルの機能的ブラッシュアップに注目!

伊藤真一(いとうしんいち):1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2024年も監督として「Astemo HondaDreamSIRacing」を率いてJSB1000クラス、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

この連載でCBR400Rを取り上げるのは、フロントブレーキがダブルディスクになるなどのモデルチェンジを受けた前モデル(2022年型)以来ですね。レブに当てるまで気持ちよく吹け上がる並列2気筒エンジン、そして自由自在にラインを選べる軽快なコーナリング特性などCBR400Rは気に入ってるモデルでしたので、今回の新型の試乗を楽しみにしていました。

まず最初に試したのは、高速道路走行でした。フロントとテールのカウルのデザインが変更された新型は、見た目的にとてもスタイリッシュになっています。ただ見た目の変化よりも、注目すべきは機能的な効果ですね。高速道路を走っていると、100km/hあたりの速度では安定感が増して大きなバイクに乗っているように感じます。両膝のまわりにダクトから抜けた空気が、層を作っているのが感じられます。

通常はあそこに空気入れるとCd値(空気抵抗を表す係数)が上がって良くないのですが、2020年のCBR1000RR-Rでは旧型よりもかなり空気抵抗が少なくなっていました。おそらく新型CBR400Rのカウルには、そのあたりのノウハウが使われているのかもしれません。空力の技術を速さのためではなく、公道用量産車の快適性を上げるために使っていると言えるでしょう。旧型と新型を乗り比べる機会がある人は少ないかもしれませんが、乗り比べればその違いは誰にでもすぐわかるくらいでした。

ダンロップとミシュラン、装着されるOEMタイヤの違いがCBR400Rの走りの印象を大きく左右する?

CBR400Rは過去連載で幾度も取り上げていますが、いずれの機会も装着しているOEMタイヤはダンロップ製でした。前モデルの試乗車に装着されていたダンロップD222はタイヤにそれほど熱が入っていない走り出し状態でも、それなりにグリップを発揮するタイプでした。今回の新型には、最近ホンダ車にOEM採用されることが多いミシュランのROAD6が装着されていましたが、このタイヤには硬さを感じました。

ダンロップ装着時は、タイヤ自体が衝撃などを吸収していた気がしましたが、ミシュランは吸収が少ない分、反発がサスペンションやブレーキの作動に影響を与えている感じでした。SFF-BPフロントフォークはダイレクトにポンっと入るフィーリングになっていて、リアのスイングアームはビョンビョンと動く感じになっていますね。

フロントブレーキもタイヤの影響なのか、効きがかなり強烈になっている印象です。通常ブレーキレバーは人差し指と中指で操作していますが、かなり制動力の立ち上がりが強烈で、ABSがすぐ作動するので指一本で操作していました。そもそもCBR400Rのフロントブレーキはシングルディスクでしたが、前のモデル(2022年型)でダブルディスクになり、制動力が1.25倍になった感じでした。それに比べると、新型は2倍になっているようなフィーリングです。

免許を取ったばかりの初心者が、最初の1台に選ぶケースも多いモデルだと思いますので、握り込んでも穏やかな制動力の方がCBR400Rというモデルには合っているのではと思います。

一方リア側のブレーキはABSとのマッチングも良くて、ロックすることなくとても扱いやすかったです。ハンドリングは全体に扱いやすさが際立っていた前モデルよりもスーパースポーツ的になった印象ですが、レーサーレプリカでのツーリングのような疲労感を覚えることはないですね。

パワー感は新型が上だけど、フィーリングについては……

新型はHondaセレクタブルトルクコントロール(HSTC)を採用したのが特徴のひとつですが、今回走らせていてそのことを意識する機会はありませんでした。

エンジンに関して気になったのは、エンブレがかなり効くようになったことですね。取材時は走行シーン撮影のために何度もUターンをするのですが、久々にエンストをしてしまいました(苦笑)。前モデルのCBR400Rは低速域からスムーズで、トップの6速に入れても粘ってドコドコと走った印象でした。出発時の走り出しから感じていましたが、新型はトルク感が乏しくて燃調もちょっと薄いフィーリングがありましたね。燃費のために、燃料カットが多いのかもしれません。

ただパワー感としては、新型の方が上でした。前モデルは新型よりも高回転域まで、どこまでも回せるような感じで、レブに当てて走らせるような高回転を多用する走りでも、400cc以下の排気量のモデルにありがちなストレスもないフィーリングでした。新型はパンチがあるけれど、前モデルのようにダラ~っと走らせるのには向いていない感じでした。モデルチェンジする度に、こういう感じに変わることが最近は多い気がしますね。

250~400ccの、大排気量に比べトルクがないモデルでやりがちですが、「ガッツがない」と言われるとパンチを出したセッティングにしてしまう。「早開き」のセッティングにすると元気があるエンジンになったようなフィーリングにはなりますが、スロットルを開けられなくなってしまいます。

スポーツバイクは嗜好品ゆえ、好き嫌いはあるけれど……

上質さを求めてフリクションを減らしたエンジンにすると、ガッツがないとか、つまらないエンジンとか言われがちですが、そうではないと思います。

スロットルを開けて走れない人は、早開きな感じのセッティングの方がパンチあって良いエンジンと感じるのかもしれません。ただ、このような特性はエンジン本来の実力を引き出すことができません。スポーツバイクは嗜好品ですから、特性に対する好き嫌いはあると思いますが……。ガッツとかパンチとかは、ちゃんとスロットル開度に応じたトルクを作れば良いので、過剰な演出は控えるべきだと自分は思いますね。

過去に開発を担当した機種の話になりますが、早開きさせているセッティングについては、これではダメですと何回も蹴っ飛ばしています(苦笑)。複数のパワーモードを選べる、電子制御スロットル採用車であれば、ひとつくらい早開き気味のモードがあってもイイかなとは思いますが、やりすぎなのはダメですね。最近そういうフィーリングのモデルが増えている印象がありますが、自分の感覚がおかしいのかなと不安になることもあります(苦笑)。でも、そこは自分としては譲れないですね。

新装備をふんだんに採用しつつ、価格を抑えたのは大きな魅力

新型CBR400Rのフィーリングに対する感想は、一般の方が前モデルと乗り比べた場合気付かないことがほとんどかもしれません。わかりやすく、新型が前モデルより優れていることといえば、5インチフルカラーTFTメーターの視認性の良さや表示情報の豊富さ、そしてスマートフォン連携機能のHonda RoadSyncを新採用したという点でしょう。

特に新しいメーターは良いです。メーター上側にバイザーが付いていて、陽が高い時間帯でも非常に表示が見やすくなっているなど、細かいところまで工夫されています。メーターはライダーが見ている時間が多い装備ですから、品質向上ぶりがわかりやすいでしょう。あとメーターなどの操作に使う、左スイッチボックスのボタン類がコンパクトになったにも関わらず扱いやすくなっているのも、とても良いと思いました。このスイッチボックスの仕様は、他のモデルにも採用してもらいたいと思いましたね。

新型CBR400Rと前モデルの価格差は、2万円ちょっとに抑えられています。Hondaセレクタブルコントロール、5インチフルカラーTFTメーター、Honda RoadSync、そして空力特性に優れたカウルを含む新しいデザインの外装などを採用して、これだけの価格上昇に抑えたことにはかなりの企業努力を感じましたね。

また400ccモデルでありながら、ひとクラス下のモデルである250ccのCBR250RRよりもわずかに安価というのも、新型CBR400Rの大きなセールスポイントになると思います。

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2024年7月号)の内容を編集・再構成したものです。

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