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伊藤真一のロングラン研究所(レブル1100T DCT 編)

2023年2月に発売されたレブル1100Tは、人気の大型クルーザーに大型フロントカウルとサドルバッグを与えたバリエーションモデル。ロングツーリングにどれだけ適しているかという視点で、伊藤さんがしっかり乗り込んでチェックしました。

風防効果に優れる、個性的デザインの大型カウル

伊藤真一(いとうしんいち)
1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2023年も監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

レブル1100をこの連載で取り上げるのは、2021年の初期モデル以来です。個人的にレブル1100はとても気に入っているモデルなので、今回のレブル1100Tの試乗も楽しみにしていました。

レブル1100Tはスタンダード版に大型のフロントカウルと、サイドバッグを取り付けたモデルですが、スタンダード版との価格差はMT、DCTともに16万円なんですね。しっかりした作りの取り付けステーの付いたサイドバッグと、空力をちゃんと検証して作られたカウルがついてこの価格差であれば、とてもリーズナブルだと思いました。

見た目の好みの話ではありますが、バットマンみたいなカウルは自分のキャラ的には気恥ずかしさがありますね。純正アクセサリーのヘッドライトカウルのような小振りなデザインの方が自分の好みには合います。1100Tの大型カウルは、カウルにウインカーが埋め込みタイプになっていたら、車両全体の高級感上がってもっと良かったのにと思いました。ただそうすると価格は上がるでしょうから、それをどれだけの人が欲するかですよね。

肝心の風防としての効果はとても良いです。100km/hまでの速度では、ライダーの腹部に風が当たらずとても快適です。その先の速度域で少し風が巻き気味になり、腹部に風を受ける感じになりますが、高速道路上限の120km/hあたりになるとちょうど良い感じになり、風がヘルメットの上を抜けていくようになります。カウルの効果を一番欲しいところで、しっかり機能している印象です。

大型カウルは手を覆う形状ですが、グリップヒーターを標準装備しているので、寒い季節の試乗に関わらず快適に走行することができました。250/500のレブルに比べるとやっぱり1100だな、と思えるくらい高速道路ではエンジン出力とトルクに余裕を感じられて、まったくストレスを感じることがなかったです。

DCTの設定は、シフトアップは意図的に早くなっていて、すぐにトップ6速に達します。でも緩やかな上りとか加速をしたい場面では、ずっと5速をホールドしていたりと、とても良く作られていると思いました。一方でちょっと気になったのは、シフトダウンはアップに比べると遅めなことです。高速道路のサービスエリアや交差点で止まるときに減速していると、いつシフトダウンするのだろうとちょっと思ってしまう感じで、空走距離が長い印象でした。

レブル1100Tの魅力は足まわりの仕上がりの良さ

 

1100Tのライディングモードは、スポーツ、スタンダード、レイン、ユーザーを選べますが、レインのみエンジンブレーキ設定がローで、他はミドルになっています。個人的にはもうちょっとシフトダウンも早いタイミングで行った方が安心感があるのですが、多くの人にとってギクシャクしない方が良いという考えで、このようなDCTの設定になっているのかなと思いました。今までDCT採用車に乗った経験がなく、MT車に乗り慣れている人は、そこに違和感覚えるかもしれませんね。

スタンダードの1100に乗ったときも思いましたが、1100系はサスペンションもブレーキもとても仕上がりが良いです。車高の低いクルーザーなのでストローク量は短めですが、段差を乗り上げたときの突き上げがまったくないのには驚きました。

スプリングとダンパーだけじゃなく、バンプラバーなど様々なサスペンション部品をしっかり選定して、バランスされているのかなと思いました。ブレーキはフロントはコントロール性が非常に良く、リアはABSの制御がとてもうまくまとめられています。

スポーティな走りが楽しい稀有な大型クルーザー

ABS採用車のなかには、たまにブレーキフルードの液圧がかかりっぱなし気味になったり、逆に抜け気味になったりするモデルもあったりするのですが、レブル1100TのABSはロックした後の復帰が早く、液圧が適切に保たれているのを感じることができます。

250/500のレブルと比べると、レブル1100Tは意外と後ろにどっしり乗って走らせる感じです。250は特に、クルーザーながらフロントから回っていくようなハンドリング特性ですが、レブル1100Tは大型クルーザーらしい、ヒラヒラしない安定感があるハンドリングです。それでいて、キャスター角の寝ているクルーザーに有りがちな低速域での切れ込み感はなく、コーナリングを楽しめるハンドリングに仕上がっています。

ハンドリング的には、クルーザーというより車高の低いネイキッドスポーツみたいな印象ですね。コーナリングを苦にせず、むしろコーナリングを楽しいものにさせる車体は、他のクルーザーにはない大きな魅力といえるでしょう。当然バンク角は一般的なネイキッドスポーツほどはありませんので、峠道走行時やUターン時にはステップを擦らないように、非常に気を遣いましたが(苦笑)。

ライディングポジションについては体格の違いで受ける印象は大きく変わりますが、自分にとっては特に問題なかったです。強いていえば、燃料タンク両側面のエッジ部に、ちょうど膝が常に当たる感じなのが気になりました。純正アクセサリーには両サイドに貼るニーグリップ用タンクパッドがあるので、それを試してみたいですね。あと自分には少し足が窮屈なのと、足を地面に下ろしたときちょっと干渉することもあって、ステップがもうちょっと前にあると良いなと思いました。

先日ホンダディーラーのツーリングに参加したのですが、レブル1100に乗る女性ライダーが結構いました。排気量問わず、足つき性の良いクルーザーは女性ライダーに人気がありますが、レブル1100系はその中でも扱いやすい大型クルーザーとして人気があるのでしょう。オートバイ歴の長い方はあまり気にしないでしょうけど、足が届くという安心感は多くの人が欲しているものですから。

250/500との差別化を図る意味で、レブル1100系はもっと車格を大きくしても良いかなと思います。大排気量車に乗っているという優越感を欲しい人は、もっと押しの強いサイズの車両の方が好みと思いますので。でも改めてレブル1100Tを走らせて、このサイズだからコーナリングも楽しい、稀有なクルーザーとして仕上がっているのだなと思いました。あえてこれ以上大きくしないのは、ホンダのポリシーなのかもしれませんね。

 

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑 健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2024年1月号)の内容を編集・再構成したものです。

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