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伊藤真一のロングラン研究所(CL250&CL500 編)

前回はスクランブラーモデルのCL250を深堀しましたが、今回はその兄弟車のCL500も取り上げ、2台の比較検証を行ってみました。CL250のオーナーでもある伊藤さんにとって、500㏄ツインエンジンを搭載するCL500のポテンシャルを探るのは、心待ちにしていた機会だったとのことです。

250にも欲しい? シートレール部のグリップラバー

1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2023年も監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

前回のCL250の試乗では、燃料タンク両側面に貼られているニーグリップラバーが非常に機能している話をしました。やや重さを感じるフロント19インチタイヤの操作で、ついついハンドルをこじりがちになってしまいますが、ニーグリップして下半身で車体をホールドすることを意識するのが、CLのライディングでは大事です。

CL500にも同様に燃料タンクにはニーグリップラバーが貼られているのですが、500にはさらにシートレール部にもラバーが貼ってあります。この位置が非常に絶妙で、車体をホールドするのにとても具合が良いです。そのため250よりも、コントロールのしやすさが増していますね。どうして250には採用しなかったのか? と思うほど、気に入ったパーツでした。

250の単気筒に比べると、500の180度クランクの2気筒は当然力があるので、高速道路の巡航は楽です。250で快適なのは100km/hまでという感じですが、500はパワーに余裕がありますね。それでいて実走行での燃費は250とそんなに変わらない約32km/Lなのも、ツーリングに500を使いたい人には嬉しい点でしょう。

比較してみて興味深かったのは、エンジンキャラクターとギア比設定の違いでした。下道や峠を走っているとき、250は1、2、3、4速…とシフトアップしていくと、もう40km/hくらいから6速に入っているんですよ。そしてトップ6速のまま走れるので、非常に楽です。一方500はトップ6速で60km/hを切ると、ちょっとスナッチするので5速に落とし、メリハリのある走りをしたほうが気持ち良いです。高速道路での快適さを重視せず、街乗りなどの下道メインで楽しむなら250のほうが好みですね。500より20kg車重が軽いのも、街中の取り扱いやすさに活きてきます。

スクランブラーは高速走行を積極的に楽しむタイプのカテゴリーではないと思いますが、500は「回して」走らせると意外なほどに面白いです。レッドゾーンまで結構良い感じで回り切るのですが、その領域でも不快な振動を感じません。そしてスロットル操作で感じる、インジェクションのセッティングの絶妙さも素晴らしいです。スロットル操作の気持ち良さというと、開けたときの話が中心になりがちですが、CL500は戻しの操作をしたとき、そしてそこから開けたときの制御がとても良かったです。

250と500、それぞれ光るハンドリングの個性

近年は排ガス規制が厳しくなっているため、リーンバーン寄りのセッティングが主流になっています。ただ触媒を守るために、スロットルオフ時に少し燃料を吹く必要もあるので、オフにしたときのフィーリングが変にならないようにするのが結構難しいのです。ちょっと燃料を吹きすぎな感じになっていると、エンブレの効きがイメージするより弱まって、思ったより前に進んでしまったりします。ライディングを楽しむときはスロットルのレスポンスが大事ですが、500はその辺りが非常に良くできていますね。

250と500を比較して、最も違いを感じたのは、前後サスペンションのフィーリングでした。250に比べると500のフロントフォークの動きは、カートリッジダンパーを使っているのかなと思うくらいダンピングが良く感じました。そこまでの変更はしないまでも、バルブのオリフィスの設定を変えて、250よりも使える速度域が高い500に合わせているのだと思いました。そしてリアショックのスプリングは線径が違うので違うものを使っているのがわかりますが、こちらもダンピング特性は500のほうが良く感じました。

あまりの違いに不思議さを覚えたので、250と500の足まわりの違いをホンダに問い合わせたのですが、フレームは基本的に同じ、フロントフォークも同じ、そしてリアショックはスプリングこそ違うものの、ダンパーは同じという回答でした。つまり減衰力のセッティングは、サスペンション単体では同じということになります。

250と500の機関重量は当然異なりますが、完成車両の車重差、そして重心の違いで足まわりから受けるフィーリングの違いが生じているわけです。上位機種の500で過不足ない減衰力特性を出しているため、250の重量ではフロント側がイニシャル過多で車高が高く、伸び側の減衰に500との違いを感じるのでしょう。さらにリア側のスプリングレートが高いと、フロント側への荷重が上がりフロントを押し付けるので、500の減衰が効いている印象が強くなっているのだと思います。

250の車重ですと、若干高めの減衰特性になっているわけですね。後日、試しに自分が所有している250のフロントフォークの突き出しを2mm下げてみたら、少し500の印象に似てきましたね。19インチのフロントタイヤが、18インチになったようなハンドリングになりました。サスペンションのセッティングは、CLのベースとなったレブル250と500と同じ相関関係になっているそうですが、レブル250と500に比べCL250と500のほうは、かなりそれぞれの走りの印象が異なっています。兄弟車でこれだけ違うのは珍しいことだと思いますが、それぞれ走りのキャラクターが立っている感じで、CL250も500もそれぞれが好ましい味付けになっています。

250と500、どちらも試乗してかなり気に入りました。現行のホンダのラインアップのなかでも、かなり自分のランキングでは上位に入りますね。構えることなく、気軽に乗り出せるモデルなので、その辺りも大きな魅力です。どちらか1台を選ぶ…となると、250ですかね? 1台のバイクとしてのパッケージングが500は非常に良いので捨てがたいところではありますが、軽量なのでより気軽に乗れて、日常の街乗り用途にも適している250のほうが、自分の求めるものに適合していると思います。

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑 健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2023年12月号)の内容を編集・再構成したものです。

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