HondaGO BIKE LAB

伊藤真一のロングラン研究所(HAWK 11編)

PHOTO:松川 忍 まとめ:宮﨑 健太郎 *当記事は月刊オートバイ(2022年11月号)の内容を編集・再構成したものです。

伊藤 真一(いとう しんいち) 1966 年、宮城県生まれ。88 年ジュニアから国際A 級に昇格と同時にHRC ワークスチームに抜擢される。以降、WGP500 クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2022 年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racing を率いて全日本およびアジアロードレース選手権などに参戦! 当研究所の主席研究員。

サーキットを走り込んだだけでは、公道用スポーツの真の価値を見出すことはできないのです!!

HAWK(ホーク) 11に試乗するのは今回が2度目で、最初に試乗したのは鈴鹿サーキットのフルコースでした。そのときの印象がとても良かったので、HAWK 11を公道で試すことができるのを楽しみにしていました。
鈴鹿サーキットでは多くの場面で速度リミッターが効いた状態になってしまいますが、公道用スポーツモデルであるHAWK 11ながらサーキットをハイペースで走行しても、鈴鹿の「S字」や「スプーンカーブ」などのコーナーを違和感なく楽しむことができました。私のチームで使っているJSB1000や、ST1000仕様のCBR1000RR-Rレースマシンに比べると、左右の切り返しなどで、HAWK 11はオフロード車であるアフリカツイン系の車体をベースにしているゆえの、重心の高さを意識させられますが、剛性不足や接地感不足などを感じることなく、安心してサーキット走行をこなすことができました。
200馬力オーバーのスーパースポーツ用エンジンに比べると、HAWK 11の直列2気筒1082ccエンジンは半分くらいの最高出力ですが、高回転域まで回すととてもフィーリングが気持ち良くて、その領域のパワー感もリッターバイクならではの力強さがありました。最新のリッタークラスのスーパースポーツは、限界領域の性能を引き出すためには乗り手に高度な技量が求められますが、HAWK 11は幅広い層の乗り手が、緊張感を伴うことなく性能を引き出せる懐の深さがあります。HAWK 11開発陣はベテラン層の「上がりバイク」を意識して作り込みをしたそうですが、大型バイク初心者の人にも楽しめるモデルに仕上がっていると思いました。
このように、鈴鹿サーキットを全開走行で楽しんだときには、HAWK 11の走りに大満足したわけですが、今回公道を舞台にHAWK 11を走らせたら、サーキットでの走行では気付くことがなかったHAWK 11の「特徴」を発見することができたのは、とても興味深かったです。スポーツモデルの開発では、機密漏洩防止のためにクローズドコースが活用されますが、実際に公道を走らないと気付かない点も多いため、公道での車両評価という作業はとても大事です。サーキットだけでなく公道も走り込まないとダメだということを、今回のHAWK 11試乗をとおして、改めて強く認識させられることになりましたね。

様々な工夫の数々を施すことで、オフロード由来の車体をロードスポーツのパッケージにまとめ上げる!

Rebel(レブル) 1100、NT1100に続き、アフリカツイン系エンジン搭載モデルとして開発されたHAWK 11ですが、その車体はアフリカツインのフレームや、NT1100のスイングアームなどをベースにして構成されています。オフロード車のディメンションの車体を元に、ロードスポーツを生み出すことは非常に難しいことです。その難題をクリアするために、HAWK 11には様々な工夫が施されています。
まずオフロード車の骨格でロードスポーツを作ろうとすると、外観のまとまり方がチグハグなものになりがちですが、HAWK 11は非常に格好良く仕上がっていると思います。70~80年代のカフェレーサーを彷彿とさせるようなロケットカウルはFRP製で、裏側はファイバー繊維があえて見えるようにしているのが面白いですね。あの時代を知る人にも、知らない人にも、HAWK 11のロケットカウルは魅力的に映ると思います。
HAWK 11のフレームはステアリングヘッド位置をアフリカツインより下げるため、アフリカツインより2.5度フレームが前傾。そしてキャスター角とトレール量を変更することで、ロードスポーツに適したレイアウトや前後重量配分になっています。鈴鹿サーキットを走ったときは、速度リミッターが効いていたこともあって、シフトダウンでかなり減速できることもあり、そんなにハードブレーキングをすることはありませんでした。
公道のワインディングでHAWK 11を試したときは、意識して強めのブレーキングをしていました。そのため鈴鹿を走らせているときよりも、公道ではピッチングモーションを使うことになりましたが、HAWK 11はジオメトリー的にコーナー進入時にフロントブレーキをかけたままにすると、車体が起きようとして嫌がるような感じになります。奥までフロントブレーキをかけて引きずるような走り方は、HAWK 11には適していないです。そしてフロントフォークのストローク量もロードスポーツとしては多めですが、ピッチングが強く出すぎないような設定になっています。またフロントブレーキも、ピッチング対策のためか初期で強い制動Gが出ないようになっています。初期タッチがガツンとしたものだと、前側がスコーンと入ってしまいますから、上手くボカしている印象です。
スイングアームはNT1100がベースですが、前側に傾いた分スイングアームの垂れ角が減っています。そしてアクスルアジャスターをかなり前に引いて、アフリカツインなどよりホイールベースが短くなるように工夫されています。それでもホイールベースは長い部類に変わりないのでゆったりとした乗り心地になりますが、一方でストローク感はそんなに深めではないです。
重心の高い210kg以上の車体を、ロードスポーツのパッケージでまとめ上げて、安全に公道で制御できるようになっています。スーパースポーツのように走らせるのではなく、コーナー前でしっかり減速させてブレーキをリリースさせてから、旋回に入る走り方がHAWK 11には合っていますね。立ち上がりも急激にアクセルを開けず、ピッチングを出さない走りを意識すると良いでしょう。

ユニカムOHC直列2気筒エンジンは、ロードスポーツらしい元気な味付けにセッティング

なおサーキットではライディングポジションを気にすることはありませんでしたが、街中、ワインディングなど公道を長時間走ったら、シートは10ミリ低くして、フラットではなく前下がりに。ハンドルは幅を少し広げるか、垂れ角を4度くらいまで持ち上げる。そしてステップは15ミリ前、10ミリ下がベストと思いました。まぁこれは自分の体感であり、好みの話ではあります。
エンジンの印象はNT1100のそれに近く、2000~3000回転、2~4速で走っているときにエンブレがかなり強めに効きますね。ロードスポーツらしい、元気がある感じの味付けにしたのだと思いますが、個人的にはアフリカツインのような、スムーズさが際立つセッティングの方が好きです。文字どおり、これは完全に好みの話ですが(笑)。マニュアル6速ミッションのギア比は、2次減速比を除きアフリカツインと同じ設定ですが、鈴鹿サーキットを走ったときも不満のない、適切な配分だと思いました。アフリカツインには用意されているオプションのクイックシフターは、HAWK11にはなぜか設定されていないのですね。クラッチ操作感が非常に軽いので特に必要な装備ではないのかもしれませんが、設定して欲しいという人は多いと思います。
あとHAWK 11で気に入ったところと言えば、近年の大型車のなかでは取りまわしが軽い部類に入ることですね。中年になってから、重たいバイクは辛くなったというベテランは多いと思いますが、HAWK 11は214kgという車重をあまり意識させない印象です。特徴的なミラーは思いのほか見やすいですが、後方視界自体はそんなに広くないです。教習所で習うようにしっかり目視で後方確認する方が良いので、むしろ安全意識の向上につながるかもしれません。
HAWK 11はFRP製ロケットカウルや、カフェレーサースタイルとか、かなり趣味性の強いスタイルが最大の魅力で、このカタチが好きな人には魅惑的な1台だと思います。ただ「上がりバイク」をうたうのであれば、所有欲を満足させるという意味で、Hondaの各ジャンルの旗艦的モデルに使われる「赤エンブレム」を採用しても良かったのでは? まぁ定評あるアフリカツイン系エンジン搭載のロードスポーツを、この価格で買えるというのは素直に嬉しいですね。

HAWK 11の製品情報はこちらをクリック!

関連記事

最近チェックした記事