クラッチコントロールを自動制御することで、ライダーがクラッチレバーを操作することなく発進、変速、停止ができる『Honda E-Clutch』。
これまでにもホンダには、さまざまな変速やクラッチの機構がありましたが、クラッチレバーが付いていて手動のクラッチ操作ができ、オートマチックでのクラッチ操作もできる、という両立ができているのは二輪で世界初(2023年11月時点)のテクノロジーです。
また、この技術が凄いのは、決してクラッチ操作に慣れていない初心者のためだけではなく、すでにバイクに乗っている方のステップアップ、数々のバイクを乗り継いできたベテランも恩恵を受けられるシステムということ。
今回はHonda E-Clutchが、様々な立場のライダーにとってどのようなメリットがあるのかを解説していきます!
Honda E-Clutchって何?
おなじみの一般的なMTバイクはハンドル左側にクラッチレバーが付いていて、左足ステップ部にギアチェンジを行うシフトペダルが付いています。
CRF1100L Africa TwinやRebel 1100などに搭載されているDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)はクラッチレバー、シフトペダルが無くボタンでシフト変更できるというもの(一部オプションでシフトペダル装着可)。
しかしHonda E-Clutchは一般的なMTバイクに搭載されているクラッチレバー、シフトペダルはそのままに、クラッチを電子的に制御することで、ライダーがクラッチ操作をすることなく発進、変速、停止ができるというものです。
足元のシフト操作は必要ですが、発進、停止ではクラッチレバーを握る必要がなく、変速時も手元でクラッチ操作が必要ないため、変速だけで言えばクイックシフター以上の効果があり、かつクラッチを握れば普通のMTバイクのようにクラッチ操作ができます。
ON・OFFで制御の切り替えができるため、街中と郊外などで使い分けることでバイクをより快適に楽しむことができます。
エントリー(初心者)ライダーのメリット
エントリー(初心者)にとって、Honda E-Clutchは様々な恩恵があります。
まず発進に必要な半クラッチ操作が必要ないということ。
二輪教習に通うとまずクラッチ操作を学んで発進、変速、停止ができる必要がありますが、例え教習所を満点で卒業したとしても、公道で他車の流れに合わせながらクラッチ操作をするのは誰でも最初は慣れが必要です。
しかしHonda E-Clutchがあれば、クラッチ操作を自動で行ってくれるため、街中を走る際や渋滞中などの細かいクラッチ操作が必要なシチュエーションでも、Honda E-Clutchに任せておくことができます。
クラッチ操作がしたくなったら一般的なMTバイクと同様に、クラッチレバーを握ればクラッチ操作ができるため、だんだんバイクに慣れてきたらクラッチ操作もしてみて、面倒なところだけHonda E-Clutchに任せるということも。
Honda E-Clutchがエンジン回転数や車速に合わせて適切なクラッチのつなぎ方をしてくれるため、正しいタイミングでのクラッチのつなぎ方を体で覚えることにも役立ちます。
Honda E-Clutchを使えばクラッチ操作ミスによるエンストや、エンストが原因の立ちごけなど、初心者がバイクで不安に感じる部分が大幅に軽減され、運転に集中することができます。
レバーの握り疲れが無くなる!
よく「昔のバイクはクラッチレバーが重すぎて丸一日ツーリングしたら腱鞘炎になった」、というエピソードを聞きます。
今のバイクはクラッチの性能が上がったため、重く感じるバイクは少なくなりましたが、それでもクラッチ操作に慣れていない方だとツーリング後半で疲れを感じることも。
しかしHonda E-Clutchがあれば発進、停止ともクラッチ操作をしなくても大丈夫で、半クラッチを用いたライディング時しかクラッチ操作がいらないため、丸一日のツーリングで考えればクラッチを握る回数は格段に減ります。
何年も乗っているベテランでも毎回のクラッチ操作は面倒に感じてしまうことがあるので、必要なときのみクラッチが使えて後は自動、というのは様々なバイクシーンで役立つはずです。
ステップアップにも役立つHonda E-Clutch
Honda E-Clutchは、クラッチ操作が普通にできる、バイクに乗り慣れたライダーにもメリットがあります。
発進、停止時のクラッチ操作がいらないというのは先程説明した通りですが、例えばワインディングを走っている際に、シフト変更のためや、半クラッチ操作のためにクラッチを握ることはそう珍しくないはず。
ですがその操作をHonda E-Clutchに任せることができれば、今よりももっとライディングに集中できるはずです。
走りながらシフト変更した際、バイクによっては次のギアに繋がるタイミングでクラッチをラフに繋いでしまうと車体の挙動が乱れることも。
Honda E-Clutchでは単純に繋がるのではなく、半クラッチを含めた緻密な断続制御をしてくれるため、安定した変速でのライディングが可能に。
発進時も変速時もHonda E-Clutchがその状況に合わせた正しいクラッチの繋ぎ方をしてくれるため、気負いすることなくもっとラフにバイクを楽しむことができます。
大型への乗り換え時も役立つ
例えばこれまで400ccのバイクに乗っていて、大型クラスのバイクにステップアップしたとき、バイクにもよりますが400ccと大型クラスではクラッチ操作が多少変わる部分があります。
ラフにクラッチを繋いでしまうと、大型バイクの場合はより大きな事故に繋がることもあるため、400cc以上にシビアなクラッチ操作が求められることも。
ですが、Honda E-Clutchを使えば大型のパワーに合わせた正しいクラッチ操作をしてくれるため、大型へステップアップした際にも繋がる感覚を体で覚えることができ、余計な不安を感じることなく存分に大型バイクを楽しめるはずです。
エキスパートにもしっかりメリットがある
何年もバイクに乗っている方は、クラッチ操作を苦とも思わず、自分の操作でクラッチワークを楽しみたいという方も多いはずです。
しかしそれでもちょっと進んですぐに停まる渋滞中や、信号同士の間隔が近い街中などはクラッチ操作を楽しめる以外に自分でクラッチ操作するメリットは少ないと思います。
そういった状況でのクラッチ操作はHonda E-Clutchにお任せして、走っていて楽しいワインディングやサーキットなど、自分が必要だと思うタイミングでのみクラッチ操作をすることで、面倒な部分だけHonda E-Clutch、あとは自分で、という「いいとこ取り」のライディングを楽しむことができます。
サーキット走行時にもHonda E-Clutchは役立つもので、クイックシフターと同様にも見えてしまいますが、クイックシフターができる制御以上のクラッチコントロールをしてくれるため、より速く、スムーズな変速が可能に。
コンマ1秒を削る世界だからこそ、こういった部分で削れるのは大きなメリットだと思います。
Honda E-Clutchでは車体の状態(車速、エンジン回転数、スロットル開度、ギアポジション、シフトペダル荷重検知など)とエンジンの制御(点火時期制御、燃料噴射制御など)に加え、クラッチ制御を組み合わせているため、クイックシフター以上の制御がされていることがわかります。
まずはCB650R、CBR650Rから搭載
今後、Honda E-Clutchは、CB650R、CBR650Rから搭載、販売を予定しています。
DCTなどはクラッチの数が違うため、エンジンごとMTモデルとは違っていますが、Honda E-Clutchの場合は既存のエンジンや車体レイアウトに影響しにくいコンパクトな設計となっているため、今後さまざまな車種、排気量への搭載が期待されています。
Honda E-Clutchの登場によって確実に言えるのは「バイクを運転するハードルが下がる」ということ。
これまで気にしなきゃいけなかったクラッチ操作がほぼ必要なくなるため、クラッチ操作を理由に諦めていた様々な人がバイクにチャレンジするきっかけになるかもしれません。
今後の展開が気になる、最新のバイクテクノロジーでした!
【文/佐藤快(外部ライター)】