MTバイクの運転をもっと楽しく、もっと簡単にしてくれる「Honda E-Clutch」。
今までマストとなっていたMTバイクのクラッチ操作を電子制御することで、ライダーは欲しいときのみクラッチ操作をして、それ以外ではHonda E-Clutchが自動で操作してくれるというものです。

ホンダはこれまで様々なミッションシステムを開発してきましたが、Honda E-Clutchはアフリカツインなどに搭載されているDCT（Dual Clutch Transmission）や、スクーターのATとは何が違うのかを今回解説していきます！

Honda E-Clutchはどういうシステム？

Honda E-Clutchは、MTバイクで本来ライダーが発進時、変速時、停車時に操作するクラッチ操作を自動制御することで、クラッチ操作をすることなく運転できるというもの。
ですが車体は一般的なMTバイクと同様にクラッチレバーがついているため、ライダーはライディング中にクラッチ操作が必要なときのみクラッチレバーを操作することでMTバイクと同様に操作が可能です。

これが凄いところで、単にクラッチ操作を無くしてATになっているのではなく、システムOFFでは普通のMTバイクと全く同じように、システムONで発進、変速、停車時のクラッチ操作はHonda E-Clutchに任せることができ、Uターンやエンジン回転数を上げて発進するときなど、半クラッチ操作が必要なときのみレバーを握ってクラッチ操作ができるという、その場のシチュエーションに合わせてクラッチ操作をしても、しなくても快適に走れるシステムなんです。

ちなみに変速時にクラッチ操作をせずにシフトチェンジができるクイックシフターもありますが、Honda E-Clutchの場合は変速時に最も適した繋がり方ができるため、クイックシフターよりスムーズで効率的なシフトチェンジが可能です。

普通のMTとHonda E-Clutchの違い

まず一番わかりやすい違いですが、一般的なMTバイクはクラッチ操作が必要で、ライディング中は巡航時以外は一定のペースでクラッチレバーを握る、離すの操作が必要です。

発進時、MTバイクの場合はエンジンの回転を上げ、少しずつクラッチレバーを離しながら半クラッチ状態を作り、スピードに乗ったらクラッチレバーを完全に離すことで1速での発進ができます。
これがHonda E-Clutchの場合、クラッチレバーを操作せずにエンジンの回転を上げていくことで、Honda E-Clutchがベストなタイミングでクラッチを繋ぎ、発進ができます。

次に変速時ですが、MTバイクの場合はスロットルを戻してクラッチレバーを握りシフトペダルを上げ、ギアを1つ上げてクラッチレバーを離すことで変速ができます。
Honda E-Clutchの場合はクラッチレバー操作は要らず、シフトペダルを上げるだけで変速が可能となり、半クラッチ制御が入るためクイックシフターよりもスムーズな変速が可能です。

停車時は、MTバイクの場合、ブレーキでスピードを落として停止する前にクラッチレバーを握り、シフトペダルを1速もしくはニュートラルに入れて停車します。
Honda E-Clutchの場合は、ブレーキとエンジンブレーキで減速したらそのまま停車し、シフトペダルを1速に入れて発進まで待つだけ。

以上のように、一般的なMTバイクと比べてHonda E-Clutchの場合はクラッチ操作がいらないことがわかると思います。

「この作業が楽しいのに！」と思う方もいるかもしれませんが、街中を10km走るだけならまだしも、丸一日ツーリングに出かけて300km以上走った場合はどんなライダーでも少しクラッチ操作が面倒に感じてくるはずです。

ツーリングにHonda E-Clutchがあれば、ライダーが自身で操作する必要のないタイミングはHonda E-Clutchに任せておいて、スポーツライディング中やUターンなど自らのタイミングで細かいクラッチ操作が必要な場合のみ操作できるため、無駄なクラッチ操作がいらなくなり、快適にライディングを楽しむことができます。

スクーターのATとHonda E-Clutchの違い

50ccや125cc、250ccクラスのスクーターなどもクラッチ操作が必要なく、スロットルとブレーキ操作のみで運転ができます。
これはAT限定免許でも運転することができるバイクタイプです。

スクーターにはそもそも変速操作がなく、スピードに合わせて自動で変速していくためライダーがクラッチ操作することはありません。
なのでHonda E-Clutchとはそこまで関係ありませんが、クラッチ操作が苦手だからATのスクーターをチョイスしていた、という方もいるんじゃないでしょうか？

Honda E-ClutchがあればMTバイクのハードルが格段に下がるため、もっとハイパワーでシフト操作が楽しめるHonda E-Clutch搭載のMTモデルだったらチャレンジしやすいかもしれません。

遠心クラッチとHonda E-Clutchの違い

次にカブシリーズを筆頭にダックス125などにも搭載されている遠心クラッチ。
クラッチレバーは装着されていませんが、シフトペダルはあり、速度とエンジン回転数に合わせて変速が必要です。

エンジンの回転を上げると自動的にクラッチを繋げてくれるため、スロットルとシフトペダルで運転することができます。

E-Clutchとの違いはクラッチレバーがあるか、無いかも大きいですが、機械的に制御しているのか、電子的に制御している点にもあります。
遠心クラッチはエンジンの形が一般的なMT車とは少し異なり、機械的にクラッチが繋がるタイミングを制御しています。
専用設計のため小排気量車限定となっていて、125cc以下のクラスでラインナップされています。

一方、Honda E-Clutchはエンジンの形は一般的なMT車と同じで、電子的にクラッチが繋がるタイミングを制御しています。
エンジンの設計は一般的なMT車と大きく変わらないため、大型モデルへの装着も予定されています。

DCTとHonda E-Clutchの違い

アフリカツインやレブル1100などに搭載されているデュアル・クラッチ・トランスミッション、通称 DCT。
DCTにはそもそもクラッチレバーが無いため、AT限定免許でも運転することができます。

DCTはクラッチが2つ搭載されており、1速3速5速用、2速4速6速用と作業を分担することで、スロットル操作のみで効率よくシフトを自動的に上げていくことが可能です。

Honda E-Clutchの場合はATではないため、スロットルとシフトペダル操作が必要となります。
なのでDCTはスタートからスロットルだけを操作すれば他はDCTが行うことでスピードが上がっていきますが、Honda E-Clutchの場合はスロットル操作と変速時にシフトペダルを操作することでスピードが上がっていきます。
クラッチレバーがついているため、AT限定免許では運転ができず、MT免許が必要になります。

楽を第一に考えてツーリングするならDCTのほうが適したシステムかもしれませんが、DCT唯一の問題がクラッチレバーがないこと。
普通に走っているだけならDCTにクラッチレバーはいりませんが、渋滞の中超低速で進み続ける場合やUターンなど自分のタイミングで細かいクラッチ操作がしたいときなどは、Honda E-Clutchのほうが有利な点が出てきます。

Honda E-Clutchならこういったときのみクラッチレバーを握ってUターンができますが、DCTの場合は発進したら変速時以外はクラッチが繋がっているため、リアブレーキでスピードを調整するなどDCTならではの工夫が必要です。

1台で色々な走り方をするという前提で考えると、クラッチレバーが付いていて必要なときのみ操作できるHonda E-Clutchのほうがライダーに万人受けするシステムだと思います。

Honda E-Clutchでバイクがもっとライトな乗り物に

Honda E-Clutchのもう一つのメリットとして、システム自体がコンパクトなため、一般的なMTバイクのエンジンに装着しやすいということ。
DCTの場合は完全専用設計なので、色んなバイクをDCT化することはできませんが、Honda E-ClutchならDCTよりも簡単に取り入れることができるため、より多くのHonda E-Clutch搭載モデルが登場するかもしれません。
Honda E-Clutch搭載車はCB650R、CBR650Rからのスタートが予定されています。

ただ運転を楽にするだけでなく、シフト操作やクラッチレバーなど、バイクに乗っていて楽しいと思えるときだけ既存のバイクと同じように操作できるHonda E-Clutchは、しっかりバイクを運転する喜び、魅力を感じることができ、これまでバイクを諦めていた方にとってもバイクがずっとライトな乗り物に感じるはずです。

Honda E-Clutchには様々なメリットがあって、決して運転が楽になるだけでなく、効率的にバイクが楽しめるようになるシステムということがわかって頂けたと思います。
今後もHonda E-Clutchの情報に注目してみてください！

【文／佐藤快（外部ライター）】