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Honda E-Clutchが誕生するまで。便利さと楽しさを追求し続けるホンダ2輪用オートマチックの歴史

ホンダが2輪車の新しい可能性を追求して開発したのが『Honda E-Clutch』です。

Honda E-Clutchは、先進の技術でライディングをサポートすることにより、バイクの利便性と「走る楽しさ」を高めるための装備です。
そんなHonda E-Clutchは、ホンダが便利さと快適性、楽しさを追求するため、長年2輪用のオートマチックトランスミッションシステムに取り組んできたからこそ生まれたシステム。

今回はHonda E-Clutchにいたるまでの歴史を振り返ってみたいと思います。

なぜクラッチを電子制御にするのか

まず最初にHonda E-Clutchがどんなシステムなのかを簡単に説明しておくことにしましょう。

バイクに慣れたライダーは普段当たり前のようにクラッチを操作していますが、クラッチ操作が面倒になるシチュエーションは少なくありません。

渋滞路や長距離移動などで頻繁にクラッチ操作をすると疲れてしまい、楽しさをスポイルしてしまうこともあります。

バイクに慣れていない場合は発進操作に不安がある場合もあることでしょう。
Honda E-Clutchは、発進、変速、停止などのクラッチ操作を電子制御による自動操作で行うことができ、最適なクラッチコントロールを瞬間的に細かく行うことで違和感なく、スムーズなライディングをサポートしてくれます。

このシステムは初心者だけに向けたものではありません。
瞬間的に確実な操作を行ってくれるので、ライダーが走りに専念することができるようになります。

スポーツバイクに装着されているシフターとしての機能も大きく進化していると考えていただければ、スポーツ派のライダーにはわかりやすいかもしれません。

ライダーによってはシチュエーションによってクラッチ操作を積極的に行い、マシンの姿勢や駆動力を細かくコントロールしたいと考えるときがあります。

そんなときは、クラッチレバーを操作すれば、電子制御によってコントロールされている最中でも、マニュアル同様にクラッチのコントロールが可能。
さらにシステムを操作することで電子制御を完全にオフにすることもできます。

マニュアルトランスミッションを進化させたことで、幅広いライダーにワンランク上の走りを提供することが可能になりました。

ではここからは、Honda E-Clutchが生まれるまで、どんな道のりをたどってきたのか。
代表的なマシンを参考にしながらホンダの2輪用オートマチックシステムの道のりを紹介していくことにします。

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クラッチ操作からライダーを開放

戦後、日本の復興を支えたのはビジネスバイクでした。
こういったビジネスモデルやスクーターは、多くの人が使うことから操作が簡単であることが求められていました。
ホンダは単に扱いやすいだけでなく、走りの性能も向上させるためにクラッチとオートマチックミッションが必要だと考え、独自のシステムを考案して進化させていきました。

誰にでも乗れるバイクを目指した自動遠心クラッチ

スーパーカブC100(1958年)

最初に実用化されたのは自動遠心クラッチです。
1958年の発売されたスーパーカブC100では、初心者でも安心して操作できるユーザーフレンドリーさを追求。
そこでクラッチ操作が不要な自動遠心クラッチが開発されることになりました。

自然なクラッチのつながり方を追求して8種類ものクラッチをテスト。
高性能と信頼性に加え、誰にでも乗れる扱いやすさによってスーパーカブ C100は大ヒットします。

自動遠心クラッチシステムはその後も改良が加えられ、現行のカブシリーズにも採用され続けるまでになりました。

自動変速システムを開発

ジュノオM型(1962年)

この頃、ホンダはクラッチだけでなくミッションにも着目します。
自動的に変速ができれば、更に扱いやすくなるからです。

1962年に発売されたジュノオM型には、バダリーニ式と手動変速を併用したホンダ独自のオートマチックミッションが採用されました。

バダリーニ式は、イタリアのバダリーニ社がパテントを持っていたシステム。
油圧モーターの圧力を変えることによって変速比を変えるだけでなく、油圧と機械に分けて力を伝えるために効率が高いことが特徴でした。

スクーターの走りを変えたVマチック

タクト(1980年)

1970年代後半からホンダは簡単な操作と走行性能を両立させるVマチックを開発しました。
1980年、ホンダ初の50ccスクーターとなるタクトにも新設計のVマチックが採用され、50ccスクーターとは思えない快適さと走行性能で人気になります。

スロットルの開け方や走行状態によって、無段階にスムーズな変速をするVマチックは、これ以降原付だけでなく最新の250ccや600ccクラスなど、ほとんどのスクーターに採用されるようになりました。

電子制御でスポーツ性を得たSマチック

フォルツァZ(2004年)

スクーターの走りを劇的に進化させたのは2004年に登場したフォルツァZでした。
2輪車で世界初となるホンダSマチックを搭載したのです。

Vマチックを電子制御によって進化させ、緻密な制御を行うSマチックでは、2つのオートマチックモード(DモードとSモード)と6速マニュアルモードが選択可能でした。

簡単な操作でオートマチックの利便性と6速マニュアルのスポーティーな走りを選択することができるスクーターとして話題を呼びました。

独自の楽しさを追求した変速システム

このようにスクーターやビジネスモデルはクラッチやシフト操作が自動化され、多くの人達が使える便利な乗り物に進化していきました。
しかしホンダはそれだけに満足せず、バイクにおけるオートマチックミッションの楽しさを追求します。

オートマチックの扱いやすさや快適さを加わえることで、バイクの新しい世界を切り開いていこうとしていたのです。

バイクにオートマチックを採用

EARA (1977年)

ホンダはビックバイクにもオートマチックを取り入れていくことになるのですが、その前にホンダの4輪用オートマチックミッションについても触れておくことにしましょう。
ホンダは自動車でもいち早くオートマチックミッションの開発に取りかかっていました。

当時、オートマチックが採用されていたのは大排気量のクルマばかり。
パワーに余裕がない軽自動車や排気量の小さな普通車にオートマチックは不向きだと考えられていました。

そこでジュノオMのオートマチックミッションを担当した技術者たちが加わり、流体式トルクコンバーターというシステムの開発を独自に進めていきます。

N360 (1968年)

そして完成したのがホンダ独自のオートマチックシステム、ホンダマチックです。
1968年にホンダマチックを採用したN360が発売されたときは大変な話題になりました。

ホンダマチックは、エンジンの応答性をスポイルすることなく伝え、伝達効率がよく、経済性にも優れていました。
また、排気量や搭載方法を問わず、どんなエンジンにも組み合わせることが可能で、3速のマニュアルセレクトでスポーティーなドライブにも対応していました。
こういった考え方は、このあとのホンダの2輪、4輪に受け継がれていくことになります。

EARA (1977年)

なめらかな発進と変速が特徴のホンダマチックをバイクに搭載したら、より手軽に楽しむことができる新しい乗り物が生まれるかもしれない。
そう考えて開発されたのがEARA(エアラ)でした。

エンジンは空冷OHC4気筒736cc。

トルクコンバーターを2輪用に小型化して3速の変速機と組み合わせたことで、クラッチ操作を必要としない新しいバイクでした。

2輪と4輪を手掛けていたホンダだからこそ、このような独創的なバイクを作ることが出来たのでしょう。

独自の変速システムHFTの登場

DN-01(2007年)

ホンダは、よりダイレクトで効率が高い2輪用オートマチック変速機を追求していきます。
そして2007年に独自のHFT(ヒューマン・フレンドリー・トランスミッション)を搭載したDN-01を誕生させます。

DN-01用HFT (2007年)

HFTは油圧機械式無段変速機ですが、一つの軸で発進、動力伝達、変速をカバーするホンダ独自の構造とし、コンパクトで高い効率を実現。

油圧機械式無段変速機としては世界初のロックアップ機構をそなえ、高速巡航時にはロックアップによってロスをなくし燃費性能を向上。

フルオートモードでは変速ショックのないスムーズな加速のDモード、俊敏な走りを可能にするSモードを選択することができ、さらに6速マニュアルモードも設定していました。

2輪用Dual Clutch Transmission(DCT)がデビュー

VFR1200F DCT(2010年)

簡単な操作でスポーツライディングを楽しみ、日常生活での扱いやすさ利便性を向上させたいと考えたホンダは、世界初の2輪用DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を誕生させ、2010年からVFR1200FにDCTモデルを追加します。

CRF1100L Africa Twin用DCT

DCTはマニュアルミッションをオートマチック化した変速システムです。
イージーなライディングが可能ですが、ダイレクト感があるので走る楽しさは失われておらず、2つのクラッチが素早くシフト操作を行うので、マニュアルミッションのバイクを凌ぐスポーツ性を持っています。

X-ADV(2017年)

DCTは進化を続け、2017年に発売されたX-ADVにもDCTを採用。

CRF1000L Africa Twin Adventure Sports DCT(2018年)

2018年に登場したCRF1000L Africa TwinではマニュアルトランスミッションとDCTの両方をラインアップしましたが、購入した方の半数がDCTを選ぶなど、その楽しさと便利さは確実に多くのライダーに伝わっていったのです。

Honda E-Clutchが新しい「走る楽しさ」を生み出す

こういった歴史を経てHonda E-Clutchは誕生しました。
下の制御イメージを見ていただければ、どれだけ緻密なコントロールが行われているかお分かりかと思います。
単にクラッチを切ってつなぐだけではなく、バイクの走行状態やライダーの操作に対して、エンジンも含めた最適な制御を瞬時に行うのです。

CBR650R E-Clutch

Honda E-Clutchは、まずCBR650RとCB650Rに採用される予定です。
コンパクトなこのシステムは、現在あるモデルに搭載することも容易なので、順次他のモデルにも展開していくことになるでしょう。

その走りは、これまでのバイクとは違った便利さと楽しさを感じさせてくれるはずです。
新しいライディングの喜びをHonda E-Clutchで是非体感してみてください。

【文/後藤武(外部ライター)】

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