2022年にデビューした大型スポーツツアラーのNT1100が、2025年型でモデルチェンジ! 並列2気筒エンジンとDCTにそれぞれ改良を施すとともに、ショーワ製の電子制御サスペンション「EERA」を採用するなどした新型NT1100の走りを、はたして伊藤真一さんはどのように評価したのでしょうか!?

(プロフィール) 伊藤真一(いとうしんいち) 1966年、宮城県生まれ。1988年、国際A級に昇格と同時にHRC ワークスチームに抜擢される。 以降、世界ロードレースGP(MotoGP)、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2025年は監督として「Astemo Pro Honda SI Racing」を率いて、全日本ロードレース選手権に参戦中。
新型のDCTは、その設定が非常に良くなっています!
NT1100に乗るのは、この連載で初期型に乗ったとき以来です。前回の試乗では、前後サスペンションの設定をあれこれイジって、NT1100を気持ち良く走らせられるようにするにはどれがベストか試行錯誤しました。
ライディングモードも既定のセットでは満足いかなかったので、ユーザーモードを選択して各設定をあれこれ試しました。DCTの自動変速のタイミングも、自分の感覚には合わない設定でしたね。欧州市場を意識しているのか、高速道路を速いスピードで巡航させているときは、NT1100はとても活き活きしている印象でした。一方、街中や一般道の峠道をゆっくり走らせるのには、あまり向いていない感触でした。
そんな旧型の印象が頭の中にあるまま、今回新型NT1100にまたがってみたのですが、新型NT1100の外観は旧型とそんなに変わりはないのに、旧型とはまったく違う印象のバイクになっていることに驚かされました。
まずDCTの変速タイミングですが、旧型では2日間の試乗中で最後までその設定になじめなかったのですが、新型のDCTは自分の感覚に合ったタイミングで変速してくれるので、違和感を覚えることはありませんでした。
旧型の試乗時にはDCTより、海外市場で用意されているMT仕様の方が楽しめるかも、と思いましたが、DCTの仕上がりの良さから今回の新型の試乗では、そのようなことを考えることもなかったですね。
若干ギア比が高いのか、シフトアップするタイミングがちょっと遅れ気味で、あ、ここで変速するんだ、という感じもありますが、それは違和感を覚えるほどでもない、許容範囲に収まるものでした。
ライディングモードに関しても、ツアー、アーバン、レインの3つのいずれも満足のいく設定で、ユーザーモードを使って各設定を調整することは結局しませんでした。
近年のアフリカツイン同様、並列2気筒エンジンのパルス感がちょっと強すぎるかな、とは思いましたがこれは個人的好みの話で、ビッグツインのパルス感が大好きという方には、むしろ好ましいエンジンキャラクターに感じるでしょう。出力も十分で、その力感に不満を覚える人はいないと思います。
特筆すべき新型NT1000のフロントタイヤの接地感の良さ
旧型ではフロントタイヤの接地感がもっと欲しい印象もありましたが、電子制御サスペンションを採用した新型は、接地感の良さが特筆ものでした!
OEMタイヤは新旧ともにメッツラーのロードテックで、エンベロープ特性の良さからそもそも接地感が薄くなる傾向にありますが、新型はサスペンションとのマッチングが良くて、乗り心地の快適さと接地感の伝わり方が絶妙にバランスされていました。先ほど、ライディングモードには不満はないと話しましたが、これだけ足まわりの完成度が高いのであれば、もっとパワフルなスポーツモードが設定されていても良いかな、と思いましたね。
接地感がすごくあるということは、乗っていてグリップを失って転倒するイメージを乗り手に抱かせないことにつながります。一般的なサスペンションから電子制御サスペンションに変更されたので文字どおり別物なのですが、完成車のパッケージとしても旧型と新型のNT1100は別物と思うくらいです。新型の接地感の良さであれば、誰でも安心してコーナーを曲がることを楽しめると思いました。
車体の前後ピッチングを強く感じるのは、新旧変わらないNT1100の印象でした。自分の好みとしては、もうちょっとピッチングを抑えめにしてくれるのが良いのですが、これはオフロード走行を前提に作られたアドベンチャーモデルである、アフリカツインのプラットフォームを車体の基本にしているので、ピッチングが出るのも仕方ないかと思います。
〈s〉モデル以外のアフリカツインは車高を落としている影響か、リア側に路面からの突き上げがドンと来ることがあって、自分はそのことに不満を覚えることが多いです。その点、新型NT1100のリアサスペンションは非常に上手く路面からの突き上げをいなし、ライダーに衝撃を伝えることはありません。精神的にも肉体的にも楽なので、新型NT1100のサスペンションはロングツーリング派の人にはとても喜ばれる装備と思いました。
前後のブレーキはともにコントロール性、制動力とも十分満足のいくものです。シートの座り心地は非常に良く、ライディングポジションもアップライトで自然なので、長時間の乗車でも身体が辛くなることはないでしょう。
同じく電子制御サスペンションを採用するアフリカツインアドベンチャースポーツESのDCTモデルの253kgに対し、NT1100は249kgと数字上は両者の車重の差はそんなに大きくないですが、混雑する街中の交通で、地面に足をつけたり離したりするようなノロノロ運転をしているときや、バイクから降りて押し引きや取りまわしをしているとき、アフリカツインよりもNT1100の方が、車体が非常に軽く感じられました。
オフロードを走らない人向けの最高のツーリングモデルかも?
新型NT1100のスクリーンは旧型同様5段調整式ですが、左手のノブを操作するだけで調整が可能で、扱いがとても楽になっています。スクリーンの左右両側横にはハンドルバーを握る手のまわりを整流するディフレクターが付いていますが、このパーツも走行中に上手く機能していることが感じられました。スクリーンは一番上にすると、自分の体格では上端が目線に少し被りますが、ゴールドウイングほど大きなサイズではないので、特に気になることはありませんでした。
旧型のNT1100を試乗したときのことですが、以前プライベートの愛車として使っていたVFR1200Fのような、ワインディング、高速道路、タンデムのいずれの走行シーンでも楽しめ、ツーリングの荷物をたくさん詰めるようなバイクであることをNT1100に期待していました。
旧型は前後サスペンション、エンジン、DCTそれぞれの設定があまり自分好みではなかったのですが、新型NT1100は旧型で感じた不満がほぼ解消されていました。同系の並列2気筒を搭載するアフリカツインとレブル1100は、ともに完成度の高いモデルとして自分は評価しているのですが、新型NT1100もこれらモデルたちと肩を並べる完成度を有していると思いました。
ホンダの大型車のなかで、とりわけロングツーリングに向いているということでアフリカツイン系を選ぶ方は多いと思いますが、オフロードを走ることがほとんどないという人は、アフリカツイン系よりも新型NT1100を選んだ方がメリットは多いのではないかと思いました。アフリカツインアドベンチャースポーツES(DCT)が200万円以上なのに対し、NT1100は180万円台と価格も安いです。もっとも、アドベンチャーモデルのスタイリングが好きな人にとっては、価格は二の次の話かもしれませんが……。
電子制御サスペンションなど装備の変更もあって、新型NT1100は16万5000円価格が上がっていますが、足まわりの仕上がりの良さからその差は十分納得できるものだと思います。スマホとの連携機能、ブルートゥースによるヘッドセットなどとの接続機能、タッチパネル式の大型TFTカラー液晶のメーター、グリップヒーター、ETC2.0車載器、そしてメインスタンドなど標準装備が非常に充実しているのも、NT1100の大きな魅力だと思います。
余談ですが、日本の白バイもこれまでのCB1300系に代わるものとして、MT仕様のNT1100をベースにした車両が順次配備されるみたいですね。新型NT1100は速くて扱いやすいモデルですから、白バイ隊員にとっては頼もしい相棒になるのではないでしょうか? くれぐれも彼らのお世話にならないように(笑)、安全運転を常日頃から心がけ、気を引き締めてライディングを楽しみましょう。
(注意書き)
PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2025年10月号)の内容を編集・再構成したものです。