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伊藤真一のロングラン研究所 CBR1000RR-R FIREBLADE SP 編

今回は、Astemo Honda Dream SI Racing 所属の全日本 JSB1000ライダー、野左根航汰さんをゲストにお迎えし、筑波サーキット・コース1000でホンダ CBR1000RR-Rの走りのパフォーマンスを徹底的に分析してみました!

JSB1000用との最大の違いは…装着するタイヤ!?

●伊藤真一(いとうしんいち)
1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2024年も監督として「Astemo HondaDreamSIRacing」を率いてJSB1000クラス、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。
●野左根航汰(のざねこうた)
2010年より全日本ロードレースフル参戦を開始。2017年にYAMAHA FACTORY RACING TEAMに加入し、2020年にはJSB1000のタイトルを獲得。2021~2023年はスーパーバイク世界選手権とMoto2に参戦。今年からはAstemo Honda Dream SI Racingに加入し、JSB1000や鈴鹿8耐を戦う。
●Ruriko(ルリコ)
2020年よりオートバイ女子部メンバーとして活躍。インスタグラムとYouTubeで盛りだくさんのバイク情報を、彼女の独特の視点から発信中! 現在の愛車はスズキハヤブサ、トライアンフ デイトナ675、そしてホンダCRF250Lの3台。

野左根:レース以外でCBRに乗るのはある意味、今回が初めてですね。ライディングポジションは、比較的JSB1000で乗っている車両に近いので違和感はなかったです。ただ、このバイクで正チェンジというのは、すごく違和感がありました(苦笑)。いつも逆チェンジしか乗ってないので…。幸いシフトミスすることはありませんでした。

伊藤:従来型に比べると新型は、ハンドルの高さが上がって少し手前に来て、ステップの位置が少し低くなってますね。旧型よりもライディングポジションが乗り手に優しくなっているので、乗りやすくなっています。公道メインで乗りたい方にも良い変更となっているので、みなさんぜひ買ってください!(笑)

野左根:市販車のままで乗ってみても不満はなかったですね。溝付きの公道用タイヤでサーキットを走るのも初めてでした。コーナーの立ち上がりでスロットルを開けると結構滑るので、JSB1000用のタイヤみたいにもっとグリップして欲しいなと思いましたが、その他に不満はありませんでした。

伊藤:自分が乗ったとき、ちょっとタイヤの空気圧が高いと思ったけど、後に航汰が乗ったときは前2・4、後ろ2・5に下げたんだよね。

野左根:さらに落としても良いくらいでした。もうちょっとタイヤが潰れると、接地面積が上がってグリップが向上すると思いました。セッティングについては自分はこだわるところはこだわる、というタイプですね。自分の走り方なのか、リアグリップにはうるさいです。

従来型から大幅に進化しているABSの性能のスゴさ!

伊藤:経験値があるから、レーサーのセッティングについては、自分から航汰に何も言わないですね。

野左根:公道用タイヤはこんなに滑るんだと思って、ちょっとビックリしました(笑)。トラクションコントロールは効いてましたが、一気に元気よく滑る感じでした。それからかなりのハードブレーキを試しましたが、ABSが作動することはなかったです。制動力やタッチについては十分で、不満はありませんでした。

伊藤:ABSはよほど追い込まないと効いてこないね。レース、トラック、スタンダードのABSモードのうち、トラックはブレーキングで転げる気がまずしない。路面のミューが急激な変化をしない限りは、どこまで握り込んでも絶対転ばない気がする。新型ではだいぶABSをサーキット、トラック寄りに振っています。旧型も元々スポーツABSになってましたけど、新型はここまでやるの? というくらいサーキット向けのABSに進化しています。ABSが作動しても、まだコントロール幅が残っているような感じなので、ABSが作動していることを強く意識することは多分ないですね。新型はタイヤだけJSB1000用に変えれば、スポーツランドSUGOを1分30秒台で走れると思いますよ。

野左根:そうですね、タイヤがしっかりしてくれれば、出せるタイムだと思います…ライダーが頑張れば(笑)。最近のバイクは良くできていますから。

今明かされる、全日本を走った車両のエンジンの秘密

伊藤:今SUGOのJSB1000コースレコードは1分25秒台ですが、CBR1000RR(SC77)で27秒台でした。鈴鹿8耐用車両は、燃費のために空燃比的にガスを絞るので、今の車両だと馬力が下がってかつてのSC59や77のスプリント仕様と同じくらいになります。SC59でもそこそこ速かったですが、それだけ馬力が上がればそりゃラップタイムも上がりますよ。ナンバー付き、ミラー付きの市販車で、1分30秒でSUGOを走れちゃうんだから…すごい世界になったものだ、と思いますね。新型CBR1000RR-Rは、それくらい作り込まれたバイクなんです。

野左根:今回、乗った感じもJSB1000の車両にすごく近かったです。とてもナンバー付きバイクとは思えないほどです。

伊藤:実は諸般の事情などから、今年の開幕から数戦のJSB1000車両は「つるし」のノーマルエンジンでした。交換したのはオイルくらいで、ダイナモで慣らしをしただけ。電子制御はキットベースのものに変えて、燃調はAstemoの得意分野なので最適化されてますが、それで他メーカーのファクトリー車を抑えて、先頭を何周も走れたりしたのですから、本当にすごいエンジンですよ。

電子制御に関する野左根さんの考えとは?

伊藤:JSB1000後半戦は、エンジンにも手が入っていますから、乞うご期待という感じです。

野左根:エンジンの話は、今初めて聞きました! 今回乗ったノーマル車と普段乗っているJSB1000車と比べると、JSB1000車の方が制御の部分でもっと詰めているのは感じましたね。あとスロットルのツキが、ノーマル車はかなり優れていると思います。自分のJSB1000車は、スロットルの開け始めは意図的にパワーを落としているので…。

伊藤:自分はもっと、アクセルのツキが良くてもいいかなと思ったな。

野左根:選んでいるギアによって変わりますね。2速だと良い感じで、1速だとピンピンな感じ。多分使っている回転数で、ツキの感じが変わるのだと思います。JSB1000車のセッティングについては、自分はかなりダルな感じが好みですね。ガバッとスロットルを開けるので…。

伊藤:航汰は全開、全開、また全開…だもんな(笑)。

野左根:アハハ(苦笑)。コントロールをもうちょいしないといけないな、という意識はあります。電子制御に頼っている部分はあると思うので。良く言えば、電子制御を上手く使えているということでもありますけど。ヤマハ時代は、同じバイクに乗る中須賀(克行)さんと電子制御の部分は全く違いました。中須賀さんの電子制御の仕様で乗ったら、ひとつ目のコーナーでハイサイドしそうになって(苦笑)。2020年は自分の良さを活かす制御を考えて戦えたので、その結果チャンピオンになることができたと思っています。

 

新型のポテンシャルは、まだまだ引き出せる余地あり?

野左根:サスペンションについては、デジタル・スプリング・プリロード・ガイドの機能を使って体重65㎏に設定しましたが、走らせてみるとちょっと柔らかい感じがしました。でもスプリングレートは意外と高いということですから、先ほどタイヤについて話したように、公道用のタイヤが滑るからそのように感じてしまうのかもしれません。

伊藤:自分は今回、あの機能を初めて試したんですよ。CBR1000系の開発はずっと関与していましたが、自分がタッチしていない段階で決まった仕様なのかもしれません。SP用のオーリンズ製サスペンションは、ホンダ側の操安担当者がオーリンズ社に出向いて、同社のエンジニアとセッティングを決めています。ナンバー付きの車両で、つるしの状態でサーキットを走っても、プロも一般の方も満足できる性能に仕上がっていることは素晴らしいことだと思います。ブレーキのエア抜きなど、サーキットを走るためのメンテナンスをちゃんとすれば、世界中のサーキットで楽しめるバイクに仕上がっているのですから。

野左根:そうですね、パワー感も本当にありました。

伊藤:ポテンシャルはすごくありますね。これを使い切れる人は、本当になかなかいないと思いますよ。

野左根:JSB1000車の開発についても、自分はまだまだ伸びしろがあると思います。

新型CBR1000RR-Rは、公道でも楽しめるバイク

野左根:ブレーキングの安定感は、他社さんのバイクに負けていないと思います。それを武器に、そこを上手く活かしながら、JSB1000車を速く走らせたいですね。

伊藤:ブレーキでピッチングしてリアが浮くことで、制動距離が伸びてしまうことを解消することが、近年のCBR開発の課題でした。リア側をしっかり路面に着けることで、制動距離を短くするというコンセプトがありました。

野左根:自分はそんなにリアブレーキをバリバリに使う方ではないです。

伊藤:リアブレーキがあるのだから、リアブレーキは使った方が良いよね。リアブレーキがいらないという人、今の時代にもまだいますけど…。新しいCBR1000RR-Rは、パワーが最強のP1のモードでもサーキットではすぐに全開にできる、スロットルの開けやすさがあるバイクに仕上がっていますね。従来型よりも楽に扱えるバイクになったともいえるので、この進化ぶりを多くのライダーの方に体感して欲しいですね。

<Ruriko’s VOICE>
不安とは裏腹に走ってみたら、優しくリードしてくれるスーパースポーツバイクでした!

この排気量のバイクをサーキットで走らせるのは怖かったですが、走り出してしまうといきなり加速して身体が置いてかれるような動きもしないし、コーナーの手前でしっかりブレーキが効いてくれるので私のような小心者でも安心して乗ることができました。

正直アクセル全開…なんてスピードは出せませんでした。なので可変バルブの気持ち良い音は堪能できなかったのは残念です。でも伊藤監督や野左根選手の走行音を聞いて「音変わった!」と楽しんでいました。

走行後のお昼ご飯は筑波サーキット名物のもつ煮定食。目の前のお二人に緊張しながら頂きましたが、やっぱりここのモツ煮は美味しいですね!

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2024年9月号)の内容を編集・再構成したものです。

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