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伊藤真一のロングラン研究所(ADV160 編)

人気のアドベンチャーモデルのスタイルを身にまとったADV150が発売されたのは2020年1月のこと。そして2023年1月には、排気量アップなどのモデルチェンジを受けたADV160が登場した。

はたして新型ADV160は、先代モデルからどのような進化をとげたのか?
伊藤さんが徹底的に走り込んで、その実力をチェックしてみました!

【伊藤真一】1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2023年も監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

 

非常に良く回る4バルブの新型エンジン

新しいADV160の前のモデルであるADV150は、自分のレースチーム(SIR)のスタッフ数人も購入して乗っていました。ADV150をこの連載でテストしたとき、個人的にはとても気に入りましたが、実際買って乗った彼らは力がない、速くない…と物足りなさを覚えたみたいです。

その外観イメージには大きな変化はないので、ADV160は150から排気量が149ccから156ccへアップしたくらいの違いかと思っていましたが、エンジン、フレーム共に一新されフルモデルチェンジしています。
果たしてどれくらい150から変わったのか…試乗することをとても楽しみにしていました。

最初に試したのは高速道路での走りでしたが、4バルブになった新型単気筒エンジンはとてもきれいな回り方をしていて、その滑らかさに感心しました。高速道路では常に8,000回転以上をキープするような走り方をしましたが、160cc単気筒にとって辛そうな使い方にも関わらず、不快な感じは全くありません。

オフセットシリンダーを採用するようになってからの単気筒は、そうでない単気筒に比べフリクション感が大幅に減少しています。ADV160の高速道路での走りっぷりは、ちょっと非力なCBR250Rみたいな感覚でした。前作のADV150では、積極的に高速道路を走りたいとは思いませんでした。でもADV160のエンジンは感覚的に200ccくらいの力感があるので、臆することなく高速道路を走ることができます。

8,000回転以上をキープして、高速道路の制限速度あたりで走っているとき、スロットル開度はまだ10%くらい残っていました。このように高回転域を常用していても、燃費が40km/Lを超えるのは、すごいことだと思いました。空燃比も、かなり薄いところで設定しているのでしょう。またこれだけ回るエンジンですと、エンジンオイルの管理はとても大事ですね。ADV160のメーターに、エンジンオイル交換時期表示が備わっていることは、とても良いことだと思います。

ADV160に乗って面白いと思ったのは、スロットル操作に対して車速が上手く乗ってくるところで、意識的にスロットルを開けていく感じのセッティングになっています。エンジンのトルクカーブが少し「寝て」いて、良い感じに加速していきます。

オートマチックのスクーターに初めて乗った人は、スロットル捻ったときにグワーっと飛び出しちゃったりしますが、このADV160ではそれは絶対ないでしょう。ここまで「寝て」いて良いのかな? と思うくらい今までにない感じなのですが、自分はとても気に入りました。人によってはトルクの出方が滑らかすぎて、走らないという印象を受けることもあるかもしれないでしょう。でもADV150に比べると、ADV160のエンジンはプラス1馬力以上の力感があるので、非力に思う人は少ないと思います。

よりオートバイ的な走りになったADV160

ADV160は新たにトラコン(セレクタブル トルク コントロール)を採用していますが、オフロードを走ったときに意識してスロットルを大きく開けると、しっかり作動してトラクションしてくれます。ただ、土の路面の急坂を上ろうとしたとき、トラコンが作動して途中で止まりそうになってヤバいと思いました(苦笑)。IMUを搭載していない、ホイールセンサーのみのトラコンですが、意外なほどに細かく制御されています。

車体についてはADV150のころからPCXよりもオートバイっぽい操安で、走らせる楽しみが一般的なスクーターよりありましたが、160はフレームが新しくなったことで、乗り味がずいぶん変わりました。
比較的安価で販売されるスクーターですから、高級スポーツモデルに採用されるような高性能サスペンションを備えているわけではないですが、ギャップを通過したときにフロント側のダンピングがしっかり効いています。リア側の2本ショックも左右バラバラに動いて、よじれるような感覚は皆無でした。前後のサスがADV160になって大幅にグレードアップしたということはないと思うので、フレームが改良されたことによって「受け止められる車体」になり、操安も乗り心地もADV150より良くなったのだと思います。

ADV150に試乗したときは、フロント側のABSの介入が遅めで、リア側は簡単にロックすることが気になりましたが、160のブレーキは前後共に良い仕上がりだと思いました。フロント側はタッチが良くて、ABSもちょうどバランス良く効いていました。リア側は入力に対しリニアに効くフィーリングになっていました。

大型化されたスクリーンですが、2段階で高さ調整できるのは150同様です。高速道路も一般道も基本的に高い位置にして走っていましたが、ウインドプロテクション効果はかなり高いです。一般道では低い位置にして試してみたりしましたが、高い位置ではプロテクション効果がかなり上がることが体感できました。あと、風の変な巻き込みなどは、まったくありませんでしたね。

ADV160のカラーリングは試乗車の赤メタリックのほか、黒メタリックとパールグレーの3色が用意されていますが、個人的にはパールグレーが一番好みに合いますね。いずれもADV150に比べると、落ち着いた色合いとグラフィックになっています。

ADV160は150の正常進化バージョン

ロードレースの仕事でタイにはよく行くのですが、タイホンダの工場を見学したことがあります。そこではこのADVなどが生産されているのですが、なんと3分に1台が完成します。普通の生産ラインですとポツンポツンと人がいる感じですが、あちらではずらりと人が並んでいて、その「人の壁」で向こうが見えないくらい。そして皆がワーッと手を出して、トルクレンチをガチャガチャさせて作業していく。夜は操業せず、2交代というシフトですね。なおインドネシアの工場だともっと早いらしくて、1台に1分かからないとか言ってましたね! それだけの規模の大量生産で、このADV160のような製品クオリティを保つことができるのは、とてもすごいことだと思います。

先ほども言いましたように、ADV150と160は外観を少しブラッシュアップしたくらいで、排気量が少し上がった分、少し馬力が上がっただけと試乗前は想像していたのですが、エンジンも車体も大きく変わっていることが走らせてわかりました。

販売する国の多い戦略モデルですから、非常に力を入れて開発しているのでしょう。多くの人がADV150を実際に使ってみて、こういう風に改良した方が良いという声を拾い、ADV160にフィードバックしたのだと思います。自分はADV150も気に入っていましたが、ADV160はその正常進化版だといえますね。

余談ですが、タイではADV系のカスタム車をよく見かけます。オフロードに特化みたいな感じではなく、カラーリングを変えたり、フロントダブルディスクにしたりとか、どちらかと言えばファッション寄りのカスタムの方向ですね。ただ、あの小径タイヤにダブルディスクは…個人的にはダメだと思います(苦笑)。

PHOTO:松川 忍 まとめ:宮﨑 健太郎

*当記事は月刊『オートバイ』(2023年6月号)の内容を編集・再構成したものです。

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