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伊藤真一のロングラン研究所(クロスカブ110 編)

【伊藤真一】1966 年、宮城県生まれ。88 年ジュニアから国際A 級に昇格と同時にHRC ワークスチームに抜擢される。以降、WGP500 クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8 耐で長年活躍。2021 年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racing を率いてJSB1000、ST1000 クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

PHOTO:松川 忍 まとめ:宮崎健太郎 *当記事は月刊『オートバイ』(2022年12月号)の内容を編集・再構成したものです。

とても原付クラスのものとは思えないくらい、クオリティの高さを感じさせるクロスカブ110の心臓部!

今回紹介するクロスカブ110は、2022年3月にフロントディスクブレーキ化を図るなどモデルチェンジをしたのですが、実は「ロングラン研究所」の担当編集者の方が、最近愛車としてこのモデルを購入したそうです。彼の口から出る言葉はいずれも、クロスカブを高く評価するものだったので、どんなものかとても興味がわきました。ひとつ前の型に乗ったとき、自分のクロスカブ110の評価は総じて良かったので、どれだけ熟成されているのか…。そのあたりを重点的にチェックしてみました。

走り始めてまず感じたのは、新型クロスカブ110のエンジンはとても良くなっていますね。旧型モデルに試乗したときも、とてもスムーズな吹け方をするエンジンで、ハイブリッドのようにモーターでアシストされているかのようなフィーリングに感動しましたが、モデルチェンジ後のエンジンはエンジン+モーターじゃなくて、モーターが回っているような感じで、スムーズさに磨きがかかっていました。

モーターみたい、というとツマラナイ印象と誤解されちゃうかもしれませんが、モーターのように低回転で最大トルクという感じではなく、トルクもエンジンの回転とともについてきて、とても気持ちが良いです。オフセットシリンダーやローラーロッカーによるフリクションの少なさに加え、新型はロングストローク化によってコンロッドが長くなったことにより、ピストンのサイドスラストが減少してさらにフリクション感が低減しているのかもしれませんね。

あと定地燃費値で67km/Lという優れた燃費性能から、インジェクションはかなりリーン気味に燃料を噴いているのだと思いますが、それでいてこれだけの滑らかさを出せるのはすごいことだと思いました。特に単気筒エンジンでは、スロットルオフ時に滑らかさを出すのが難しいです。このクロスカブ110はスロットルを戻したときに、そんなに回転が落ちないフィーリングなのですが、これはスロットルオフ時に燃料を噴くのを、完全にカットしていないからだと思います。加速時の滑らかさ同様、減速時も滑らかさをちゃんと出せています。

同じカブでも、自分が若かったころのカブと、現在のクロスカブ110のエンジンとは全く別物です。当時のカブはガチャガチャと様々なノイズを出していましたが、このクロスカブのエンジンからは、シフトダウン時にちょっとガチャっと音が出るくらいで、比較的価格が安い原付クラスながら非常にクオリティが高いですね。

CT125・ハンターカブと比べてみても、見劣りしない魅力がクロスカブ110にはあるのです

こんな良いフィーリングのエンジンを搭載するモデルを万単位で量産でき、30数万円台の価格で販売することができるわけですから、現代の生産技術は素晴らしい! と素直に感動しました。

2020年にCT125・ハンターカブが登場した当時、旧型のクロスカブ110のオーナーのなかには、CT125の方が良いなと羨んだ方もいるみたいですね。でも以前連載でCT125を取り上げて、試乗したときに感じた印象を思い出してこのクロスカブ110と比較してみると、CT125にはないクロスカブ110ならではの魅力があると気付きました。

CT125のエンジンに比べると、クロスカブ110のエンジンは当然トルクが比較的小さいです。エンジンから受ける力感はCT125に軍配が上がりますが、クロスカブ110はトルク感の主張が「軽く」、その分スムーズさが増して乗っていて気疲れしないです。より気楽に、リラックスして乗れるのがクロスカブ110と言えるでしょう。

また118kgのCT125に比べてクロスカブ110は107kgと車重が軽いこともあり、走行時の操作感はクロスカブ110の方が軽いです。両モデルともオーナーの多くは舗装路での使用がメインという方がほとんどだと思いますが、オフロードで使ったときは、取りまわしとかスタックからの脱出とかで、車重が軽いことに越したことはないですから、その点でもクロスカブ110はメリットがあるのではないでしょうか? まぁ自分はオフロードの専門家ではないので、そのあたりはあまり偉そうなことはいえないですが(苦笑)。

クロスカブ110はバックボーンフレームですが、走らせていて剛性不足という感触はありませんでした。舗装路のコーナリングは、結構良いペースで走ることができます。タイヤサイズは前後80/90-17で、このサイズはCT125と一緒ですが、CT125のスポークホイールに対して、クロスカブ110はチューブレスのキャストホイールを採用しています。コーナーでのヒラヒラ感というか軽快感は、CT125よりもクロスカブ110の方がありますね。

モデルチェンジでクロスカブ110はフロント側にABS付きディスクブレーキを採用したのもセールスポイントですが、ブレーキの効きや操作感については、CT125の方が良いな、と思いました。ブレーキの設定の違いはそんなにないと思いますが、CT125の場合はステアリングヘッドがトップとボトムブリッジという一般的なバイクの構成になっているのに対し、クロスカブ110はスーパーカブ同様ボトム側だけでフロントフォークを保持する作りになっているので、ステアリングヘッドまわりの剛性の違いが、フロントブレーキの印象の差に現れているのかもしれません。

なおクロスカブ110のリアブレーキはドラム式ですが、ドラムブレーキで感じることが多い、サーボ効果の急激な立ち上がりは、今回試乗した限りはあまり感じることはありませんでした。

既存のクロスカブユーザーたちが欲しかったモノが、しっかりと採用されているのが新しいクロスカブ110の魅力

総じてハンドリングは、スーパーカブ系と同じでリア側が支配する部分が強いです。前後サスペンションの動きは良く、そのことも乗り心地の良さに結びついていますね。スポーツ性はCT125の方が高いでしょうが、クロスカブの走りっぷりに不満を覚えることはありませんでした。

細かいところを観察すると、液晶が追加されてギアポジション、燃料計、時計、トリップ、走行距離、平均燃費を表示することができるようになったメーターとか、アクセサリーソケットが使いやすい位置に設けられているとか、痒いところに手が届くような、改良が施されている点が目を引きました。

カブ系モデルはいずれも、カスタムをして楽しむユーザーが多いですけど、これらの改良は多くのユーザーたちが、求めていたものだと思います。初代モデルや旧型モデルのクロスカブのオーナーたちは、アフターマーケットのギアポジションを付けていたりしましたからね。見た目の印象的にキャストホイールよりスポークホイールが好きという方もいらっしゃると思いますが、パンク修理がチューブタイプより楽なチューブレスタイヤを採用したのも、多くのユーザーに歓迎されると思います。

新型クロスカブ110の完成度の高さは、既存のクロスカブ110ユーザーたちがそれぞれ所有する愛車に欲しかったもののあれこれを、開発陣がちゃんと理解して、コストなどの諸条件と照らし合わせながら取捨選択をして、可能な限り盛り込んだことの成果なのかもしれませんね。ある意味、お客さんたちが育ててくれた製品…というような言い方もできるかと思います。

新型クロスカブに用意されたカラーリングは、マットアーマードグリーンメタリック、パールディープマッドグレー、そして今回の試乗車のプコブルーと、くまモン バージョンの4種類ですが、自分がもしも購入すると仮定して選ぶなら、好み的にはプコブルーですかね? それだとロングラン担当編集者と選んだ色がお揃いになっちゃうので、できれば避けたりですけど…(笑)。くまモン バージョンですか…? 自分のキャラクター的には、くまモン バージョンは雰囲気が可愛すぎてミスマッチだと思いますので、ちょっと自分で選ぶには勇気が入りますかね(苦笑)。

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