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伊藤真一のロングラン研究所 GB350C 編

2024年10月に発売されたGB350Cは、空冷348㏄単気筒エンジンを搭載するGB350をベースに作られたクラシカルスタイルのロードスポーツモデルです。以前連載で取り上げたGB350/Sを高く評価していた伊藤さんですが、このGB350Cにはどういう印象を感じたのでしょうか?

伊藤真一(いとうしんいち) 1966年、宮城県生まれ。1988年、国際A級に昇格と同時にHRC ワークスチームに抜擢される。 以降、世界ロードレースGP(MotoGP)、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。 2025年は監督として「Astemo Pro Honda SI Racing」を率いて、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐などに参戦する。

 

雑誌やウェブで見る姿より実車で見ると映えるその姿!

GB350Cは雑誌などに掲載された写真で見るより、実車を目の当たりに見た方が印象は断然に良いですね。正直、最初にGB350Cを写真で見たときは、GB350の外装を変更しただけのモデルなのかなという印象だったのですが、実車は各パーツの仕上がりや作りが非常に良く、質感を高めることに気を遣っていることがうかがえました。

あとシートやフェンダーなどのクラシカルなデザインから、かつてホンダでラインアップされていた実用車のCD250みたいな、言い方は悪いですが「とっつぁんバイク」みたいな製品なのかなという先入観がありましたが、実車の仕上がりは重厚感があって、高級な印象を受けるものでした。

なお、価格はGB350が67万1000~64万9000円、GB350Sが69万3000~71万5000円なのに対し、GB350Cは66万8800円という設定です。GB350/Sは今年のモデルチェンジで値上がりしたので、GB350Cの価格は相対的にリーズナブルに思えてきます。

跨ってみて最初に感じたのは、クラシカルなデザインのシートの足つき性がとても良好なことでした。以前試乗したGB350/Sは、左右に張り出し気味のサイドカバーのデザインもあって、足つき性はあまり良くない印象がありました。GB350系に乗りたいけど足つき性から断念した、という女性ライダーの声も何度か聞いたことがあります。

GB350Cのサドル型シートは前側が絞り込まれた形状なので、GB350/Sのように足を下ろすときにガニ股気味になることがありません。車重はGB350の179㎏、GB350Sの178㎏に対し、GB350Cは186㎏とだいぶヘビーではありますが、足つき性を重視したい人にはGB350Cは一番好ましいモデルになるのかもしれませんね。

GB350系の現行モデルでは、燃料タンクにニーグリップラバーを標準で備えるのはGB350Cのみですが、このニーグリップラバーが車体をホールドするのにとても良く効いています。GB350系のなかではGB350Cが一番存在感を感じ、同様の存在感を持つモデルをホンダ車のなかで探してみると、なかなかないと思いました。CB1100系が廃盤になった今、クラシカルなデザインのモデルが欲しい人には、選択肢に入るのではないでしょうか?

 

鼓動感をより強く覚えるGB350Cのエンジン

 

見た目の変化以上に、GB350Cは走りの印象に関してもGB350/Sから大きく変わっています。アシスト&スリッパークラッチ、HSTC(Hondaセレクタブルトルクコントロール)を採用した空冷単気筒エンジンは、GB350/Sと同じ仕様になっていると思いますが、GB350CのエンジンはGB350/Sよりも鼓動感があり、非力な感じがあまりしませんでした。低中速重視の設定のため、スロットルを大きく捻るとすぐにレブに入ってしまうところは一緒でした。

もっとも公表されているエンジンのスペックは同一で、体感としての動力性能差はGB350CとGB350/Sとでは、そんなに変わりはありません。GB350Cの方が鼓動感があるように思えたのは、マフラーの違いなどによるものかもしれません。最高出力は20PSしかありませんが、高速道路ではトップギアのひとつ前の4速で120km/hくらいまで引っ張ることができます。4年前に企画で富士スピードウェイにてGB350の最高速チャレンジをしたとき、131km/hくらいの記録が出ました。GB350Cは、140km/h以上出るのではないかな? と思うくらいの力感がありました。休日に高速道路を走ると、GB350系で遠出しているライダーを見かけますが、マスツーリングの場合は皆に必死でついて行こうと頑張っている印象を受けていました。高速道路の法定速度内であればGB350Cはストレスを感じることなく高速道路を走ることができます。

5速ミッションは2、3、4速がロングで、街中では3速をずっとキープでも良いくらい低速域の粘りがあります。近年採用が始まった、クラッチ操作不要のホンダのEクラッチですが、GB350Cに関してはEクラッチ採用の必要性は感じないですね。

クランクシャフトのフライホイールがどれくらい大きいのかはわかりませんが、GB350Cは低速でエンストすることがないのでは? と思うくらいです。GB350Cは振動を感じることなく、単気筒らしい鼓動感を全回転域で楽しむことができ、走らせていてとても気持ち良かったです。

ハンドリングや操安に関してもクラシカルさを強く意識!?


エンジンに関する、GB350CとGB350/Sの印象の違いを話しましたが、操安やハンドリングについてもGB350Cは他のGB350系と異なる、独特のフィーリングがありました。

車体を右から見たときと、左から見たときでは外観の印象が大きく変わるくらい、GB350Cの水平基調のマフラーは存在感があります。このマフラーやリアフェンダーのステー類などにより、GB350CはGB350/Sに比べてみると2人乗りをしているような、重心が後ろ寄りになっている印象がありました。GB350/Sはどちらかといえばヒラヒラした印象のハンドリングですが、GB350Cは車重の重さや後ろ寄りの重心を意識させられて、ドッシリとした印象を受けました。

直進性もGB350/Sより良くて、ロール方向の動きがGB350Cはすごく重く感じます。ただその感じる重さは嫌な印象ではなく、重厚感があって大きなバイクを操っていることの楽しさを、演出してくれるような感覚でした。先ほど、GB350Cの足つき性の良さの話をしましたが、GB350Cも他のGB350系と同じで乗っているときはサイドカバーが足の内側に当たります。この足に当たっている感触も、大きなバイクに乗っている気分にさせてくれるので、自分は嫌いではないですね。これは感覚的な話ですから、皆さんに伝わらないかもしれないですが…。

GB350Cの前後サスペンションは、GB350/Sと変わらずフワフワしたフィーリングでした。そして前後のディスクブレーキもシャープな効き方ではなく、効きをボカしたようなフィーリングになっています。動力性能に対して制動力不足ということはないですが、ブレーキをかけ始めた初期からガツンと効くフィーリングだと、クラシックなデザインのバイクに乗っているという気分を損ねることになるので、あえてこの設定にしているのかな? と思いました。

あとOEMタイヤは、接地面がわかりづらかったです。グリップしていない、というわけではなく、トレッド面がどう路面に着いているのかわからない。でも滑るわけでもなく何の問題もないです。

個人的なリクエストとして500cc版の登場を期待!

ロール方向に重さのある操安、ブレーキのボカしたようなタッチ、そしてタイヤからのインフォメーションの少なさ、これらが乗っていて不満に感じるのではなく、むしろGB350Cというバイクに丁度合っていると思えるのが面白かったです。このような作りにしたのは、こういう意図では? という想像の話ですが。

なお今回のGB350Cの試乗は、新型GB350/Sの発売前に行いましたので、ここでのGB350Cと他のGB350系の比較については、いずれも旧型GB350系との比較になります。いずれ連載で新型GB350/Sを取り上げる予定ですが、あくまで旧型との比較では今回試乗したGB350Cが一番自分の好みに合っていました。試乗前はGB350Sが一番好みでした。バイクは乗ってみないとわからないものですね。

あえてGB350Cに対する不満点をあげるならば、シートの着座位置が自分のスポーツバイクに対する好みには、あまり合っていないことですかね。例えが古くて恐縮ですが、かつてのホンダのモトコンポみたいに、ステアリングのヘッドパイプがずいぶん低い位置にあるような印象です。着座位置が高めで、ヘッドパイプの後ろに乗っている感じがしない違和感がありました。これは他のGB350系でも感じたことですが、開発ライダーレベルの人以外には、わざわざ指摘しないとわからないレベルの違和感ではあります。

他のGB350系モデルよりも高級感があって、重厚感があるデザインと走りを楽しめる。GB350Cはとても良くできたバイクだと思います。

個人的なリクエストとしては、この車体に500cc版のエンジンを搭載してほしい! ですね。GB350エンジンは70×90.5mmで348ccなので、ピストンのボアを75mmにすれば約399cc、ボア84mmで約500ccになりますからね。アフターパーツメーカーが作る、GB350用500cc化キットとかあったら、なんて思いました。

 

 

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2025年9月号)の内容を編集・再構成したものです。

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