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伊藤真一のロングラン研究所 X-ADV 編

2024年12月、モデルチェンジした大型クロスオーバーモデルのX-ADVは、伊藤さんのお気に入りモデルのひとつです。装いを新たにするとともに性能と機能を向上させた新型ですが、その走りや質感、そして使い勝手を伊藤さんはどのように評価したのでしょうか? 今回も深掘りしてお届けいたします!

伊藤真一(いとうしんいち) 1966年、宮城県生まれ。1988年、国際A級に昇格と同時にHRC ワークスチームに抜擢される。
以降、世界ロードレースGP(MotoGP)、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。
2025年は監督として「Astemo Pro Honda SI Racing」を率いて、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐などに参戦する。

 

DCTの熟成度をさらに高めた新型X-ADVに感嘆!

初代X-ADVは2017年にデビューしましたが、今日までの歴代X-ADVはいずれもお気に入りのモデルでした。スクーター的なライディングポジションながら、フラットダートな林道ならば躊躇することなく入っていけるオフロード性能があり、峠道のオンロード走行では意外なほどのスポーツ走行が楽しめる。そしてスクーター的なユーティリティ性がしっかりあるので、日常的な街乗りの使い方にも適しています。今販売されているすべてのオートバイのなかでも、かなり個性が際立っているモデルですね。変速機はDCTのみの設定ですが、普段オートバイ選びをするときには、自分はマニュアルの変速機を選びたいタイプなのですが、歴代X-ADVはDCTとの組み合わせがとても良いので、仮にマニュアル仕様が設定されていたとしてもDCTを選びたくなる、非常に稀有なモデルだと思います。

新型X-ADVはDCTのセッティングが改良されていますが、実際に乗ってみると粗探しをしないと気になるところが指摘できないくらい、非常に良くなっていました。以前のDCTは、Uターン時など極低速時にクラッチが繋がっているか、切れているかわからなくて怖い感覚もありましたが、新型ではそういうことが遠い記憶に思えるくらい自然に扱えました。

DCT車のなかには、コーナーで意識よりギアが高い、または低いものを選んでいるという違和感を覚えるものがありましたが、新型X-ADVはそういうことが試乗中に一度もありませんでした。過去にCB650RのE-クラッチ仕様を乗ったときは、スロットル操作に対する実際の反応と自身の感覚との差から、Uターンに怖さを感じたりしましたが、新型X-ADVのDCTは時間をかけた熟成度の違いからなのか、違和感の類は皆無でした。

オンロードもオフロードも共に楽しめるのがX-ADVの魅力

 

新型X-ADVに跨がったとき、1Gでの沈み込みが前のモデルより少なくて、前後サスペンションが硬くなった印象がありました。走り出してからは、前のモデルはもっと前後サスペンションが動いていた印象がありましたが、新型はそれほど動いていないと感じました。

もしかしたら、サスペンションのイニシャル調整をイジっているのかな? と思って取材スタッフの方に確認してもらいましたが、取扱説明書の指示通りのセッティングになっていました。今回試乗したX-ADVは走行距離も少なかったので、いわゆる慣らし運転期間不足でそのような感覚だったのかもしれません。

オンロードを走ってみての印象は、路面からの突き上げ感がなく、ダンピングによる抑えが効いた乗り心地に思えました。今回の試乗コースにはオフロードはなかったのですが、これだけサスペンションの動きが抑制気味だとどうなのだろう? と考えたりしましたが、前後ともサスペンションから受ける印象は自然なものでしたので、おそらくオフロードを走らせても、不安を覚えることはないだろうと思いました。

また、今回の試乗コースは市街地を走る時間が多めでしたが、従来型同様にオンロードでの走行フィーリングはとても楽しめました。足を前に投げ出すスクーター的なライディングポジションですが、舗装路ではオンロードスポーツモデル的な走りを楽しめます。

前後ブレーキの効きは強烈ではありませんが、制動力不足を感じることはなく、必要十分な効き方です。オフロードを走ることを想定しているためかガツンというブレーキの効き方ではなく、タッチが穏やかでコントローラブルな効き方にセッティングされています。

先述のとおり、今回の試乗は市街地走行が多めで、それゆえにスクーター的なライディングポジションではありますが、スクーターほど取りまわしが楽なわけではないのだと改めて気付かされました。車重は200kgを大きく超えるわけですから、市街地ではよくある車両から降りてからの押し引きの場面では、それなりに気合いが必要でした。

実はこの取材の後に新型X-ADVを購入しました!

2気筒エンジンはとてもパルス感があって、走らせていてそのフィーリングが非常に気持ち良いです。マフラーのデザインは自分の好み的には社外のものに変えようかな……とも思いましたが、排気音は非常に元気が良くてこのままでも良いかなと思わせるものでした。

普段ロングランの連載で試乗をしているときは、この箇所がこうなったら良いのに……と粗探しをしてしまうのですが(苦笑)、新型X-ADVについてはそれが本当になくなりましたね。前のモデルのX-ADVも非常に完成度の高いモデルだと思いましたが、新型X-ADVはさらに正常進化をしたモデルだと感じました。

細かいところで感心したのは、日常的に使うところの使い勝手や、使っていての心地良さが向上しているところですね。スクリーンの高さ調整のしやすさ、シート下ラゲッジを使うときのダンパーの効き、スイッチ類の操作のしやすさなどなど、新型X-ADVを扱っていてストレスは全くなく、気持ち良く感じることの方が多かったです。

どれだけ新型X-ADVを気に入ったのかを端的にご理解していただけるかは、実際に自分が新型X-ADVを購入したということで納得していただけれるのではないでしょうか? 選んだイエローのカラーリングが自分の年齢的に派手かなと思いましたが、マットな色調でそれほど派手ではなく、新型X-ADVのスタイリングにマッチした色だと思いました。最初は年相応(?)のグレーを選ぼうかと思ったのですが、実車を見たらグレーよりもイエローの方が、自分の趣味に合っていましたね。

自分の好みにこだわれば、ハンドルバーと左右のブレーキレバーの色はブラックフィニッシュのものにしたいです。この連載の趣旨から離れてしまうかもしれませんが、もし諸事情が許すのであれば自分好みにカスタムした新型X-ADVを、誌面で紹介してみたいですね。

 

(注意書き)
PHOTO:南 孝幸・赤松 孝 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2025年7月号)の内容を編集・再構成したものです。

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