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伊藤真一のロングラン研究所(CB1300SUPER FOUR SP 30th Anniversary 編)

1992年発売のCB1000SFの30周年記念モデルとして、昨年末に受注期間限定(2023年1月9日まで)で発売されたのがCB1300 SUPER FOUR SP 30th Anniversaryだ。ホンダ製ネイキッドのシリーズ中で最もデラックスなモデルといえるこの1台を、伊藤さんがさまざまなシチュエーションを走らせてチェックしてみました。

【伊藤真一】1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2023年も監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

外観の変化は少なくとも確実に進化した最新モデル

今回、CB1300SF SPの30周年限定車を主に走らせたのは、3月の千葉県の内房でした。平日にもかかわらず、バイクで遊びに来ている方も多くいましたね。早咲きの山桜を背景に、愛車と一緒のスナップを撮影したり、関東圏でひと足早く春が訪れる千葉での、ツーリングのひと時を皆さん楽しんでました。

都内の編集部から出発し、アクアラインを走って千葉へ渡ったのですが、降りた料金所の傍には綺麗な菜の花がたくさん咲いていました。ついこの間まで寒い日が続いていたのに、もう春なのか…と、巡る季節の早さを感じましたね。歳のせいか、春夏秋冬のペースが加速していて、山桜や菜の花の美しさを目にしても最初に思うのは、もう1年過ぎてしまったのか…という感慨だったりします(苦笑)。

30周年記念モデルということですが、プロジェクト・ビッグ1 初代モデルのCB1000SFがデビューした1992年のころは、世界ロードレースGPフル参戦開始するころでしたので、公道でオートバイを楽しむことがあまりできない時期でした。そんなこともあり、当時CB1000SFに接する機会はまったくなかったです。その後、2006年型のCB1300SFを所有したのが、プロジェクト・ビッグ1の一連のモデルに初めてオーナーとして接した機会になりました。

このロングランの連載では2018年型のスタンダードモデル、そしてオーリンズ製前後サスペンションと、ブレンボ製フロントブレーキを採用した2020年型のSPモデルを取り上げましたので、1300系は3回目の登場となります。カラーリングは、初代CB1000SF以来の赤白のみの設定なのですが、個人的にはいわゆる「スペンサーカラー」の青銀が好きなので、他のカラーバリエーションもあると良いのに…と思ってしまいました。あくまで、好みの話ですけど。

SPモデルがベースとなったこの限定車ですが、2020年型のSPと比較しても、SPモデルとしての熟成が図られていることが、試乗してみてわかりました。前モデルと外観は大きく変わることはないですが、色々な面で最新モデルが変わっていることが、今回の試乗での大きな発見でした。

156万2000円のスタンダード版1300と、このモデルの価格差は40万円弱ですが、装着されている前後オーリンズ製のサスペンションとブレンボ製ブレーキのアフターマーケットでの価格と、ホンダの技術者による緻密なセッティングに対するコストを考えると、この価格差は決して高いものではないでしょう。前後オーリンズ製サスペンションは、路面の凹凸などの「いなし方」が本当に良くて、その乗り心地の良さは素晴らしかったです。オーリンズ製品を奢っているということで、攻めた走りでのパフォーマンスに注目が集まると思いますが、街乗りでの低速域や、ツーリングペースでの移動速度でも、この足まわりの完成度の高さは、多くの層にメリットがあると思いました。

絶妙なバランスをみせるサスペンションの設定

スタンダードに比べこの限定車は足まわりのグレードがアップしていますが、だからといってカッ飛ばして楽しむというバイクではないですね。装着されているOEMタイヤは、ツーリング向きの仕様です。ABSが介入するタイミングが早く感じるのは、OEMタイヤの攻めた走りのときの限界が早く訪れるからなのでしょう。

峠道ではフロントのノーズダイブが大きく感じましたが、比較的にスイングアームの垂れ角が立っており、リア側のストロークもそんなに大きくないので、リア側の荷重が抜けやすいのだと思います。ただ、スイングアームの垂れ角を寝かせてリア側を下げると、ハンドリングがまったりしたものになってしまうと思いました。高速域の操安は非常に安定していましたが、これはスイングアームの垂れ角を立てていることが、高速域でフロント荷重が抜けることを防いでいるのが効いています。

この辺りはビギナーからベテランまで、楽しめるハンドリングと乗り心地を考えて、巧みにバランスをとった標準のサスペンション設定になっていると思いました。前後ともにサスペンションのアジャストは細かくできるので、自分の好みに合ったセッティングを探す楽しみもあると思います。

フロントブレーキはスタンダードモデルのニッシン製でも、OEMタイヤのキャパシティ的には問題ないと思いますが、このモデルのブレンボ製ブレーキは、握り込んでからのタッチと効きが良くなっています。フロントのマスターはおそらくスタンダードと共通ですが、内部のピストンをSP用に変えることで、しっかり調整させていると思いました。

1300系の大排気量4気筒エンジンは、低回転域から豊かなトルクを発生します。高回転域まで回して楽しむキャラクターではないですが、回転数を上げなくても十分に速く、そのパワーとトルクに不満を覚えることはないでしょう。大排気量車ならではの大トルクは、街中での使いやすさにも貢献します。トルクがある分、クラッチワークに神経質にならなくても、Uターンがすごく楽にできます。信号待ちからの発進で、このモデルほど瞬時に出られるバイクはないでしょう。1300系は白バイにも採用されていますが、この加速力は取り締まり活動に、非常にプラスになるでしょうね。くれぐれも皆さん、交通安全を心がけてバイクライフを楽しみましょう(笑)。

熱烈に存続し続けてほしい大排気量ネイキッドの名作

初代CB1000SFの発表会に出席した編集部の方に聞いたのですが、初代モデルは跨った瞬間に手強さを感じさせる意図で、足着き性をある意味無視したシート高設定だったそうです。現在の1300は、そのような御し難い印象みたいなものは皆無で、停止時の取り回しさえ問題なければ、大型車の初心者にも扱えるモデルに仕上がっているといえるでしょう。特に、低速域での大トルクゆえの扱いやすさが光ります。教習所のコースみたいな場所でも、巨体ながらも速く走らせることができるでしょうね。

細かいところでは2020年のSPモデルの試乗時に感じた、ハンドルポストのラバーマウントが今回はより硬いものになっていて、操作時のダイレクト感が増していたのが好ましかったです。その影響か、高速道路の巡航でよく使う100km/hプラスの速度域で、手に伝わる振動がちょっと増えた感じがありました。振動への許容をどのあたりにするかは、非常に難しいことではありますが…。

1300系が最初に発売されたのは1998年でした。その頃はほかの日本のメーカーからも、1200cc超のさまざまなリッターオーバー・ネイキッドが発売されて人気を博し、それぞれ売り上げを競っていましたが、結局排出ガス規制などを乗り越えて作り続けた国産車は、この1300系のみです。プロジェクト・ビッグ1というコンセプトを守り抜いて、ホンダがこのモデルを作り続けたのは素晴らしいことだと思います。節目の30周年モデルとなりましたが、1300系がなくなってしまうのは寂しい気がしますので、今後も1300系が存続して、さらなる発展をしてくれることを、期待したいと思っています。

PHOTO:松川 忍 まとめ:宮﨑 健太郎

*当記事は月刊『オートバイ』(2023年5月号)の内容を編集・再構成したものです。

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