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伊藤真一のロングラン研究所(ダックス125 編)

【伊藤真一】1966 年、宮城県生まれ。88 年ジュニアから国際A 級に昇格と同時にHRC ワークスチームに抜擢される。以降、WGP500 クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8 耐で長年活躍。2021 年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racing を率いてJSB1000、ST1000 クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

PHOTO:松川 忍 まとめ:宮﨑 健太郎*当記事は月刊『オートバイ』(2023年1月号)の内容を編集・再構成したものです。

大柄になった車体ながら「ヒラヒラ」感がある!!

80年代に高校生だったころ、50ccのダックスホンダに乗って新聞配達のアルバイトをしていました。ヘッドライト上に自転車用のカゴつけて。1日140軒くらいに朝刊を配ってましたよ。4速マニュアルのST50-Mで、バックレスト付きのシートが付いていましたね。当時は1カ月バイトしても、もらえるのは1万円くらい。バイトのとき以外は、ステップ曲げてバンク角増やして、クローズドコースでヒザ擦って走って楽しんでいましたが、最後は盗まれてしまったんです…。当時ロードパルも所有していましたが、あのダックスが自分の最初のバイクなのかな?

そんな思い出もあって、今回ダックス125の試乗はとても楽しみにしていました。足まわりの部品はグロムやモンキー125と同じような構成で、エンジンも基本カブ系なので、ダックス125の走りはモンキー125などに近くて、エンジンの印象はロータリー式ミッションということもあり、CT125・ハンターカブなどと近いものがあるのかな? と試乗前には思っていました。

しかし実際ダックス125を走らせてみると、モンキーやハンターカブとは違う、ダックス独自の乗り味がありますね。自分の体格ですと、モンキーはちょっと車格的に窮屈なところもあり、自然とシートの後ろ際に座る感じになりますが、ダックスはシートが前後に長くてフラットな上面形状になっているので、着座位置の自由度が高いのが気に入りました。自分よりも小柄な方が乗ることをイメージして、シートの前寄りに座ってチェックしたりしましたが、操安特性がおかしく変化するようなことはありませんでした。

昔自分が乗っていた50ccのダックスは、車格がダックス125より小さくて、バックレストに腰をつけて後輪の上に座っているようなポジションでした。ダックス125は基本、スイングアームピボットの上に荷重がかかる感じで、多少座る位置が前にずれても後ろにずれても、違和感がないです。大柄な体格な人でも違和感なく乗ることができるのは、先ほど説明したようにダックス125の車格が、かつての50/70ccモデルより大分大きくなっていることが効いているのでしょう。しかし、ダックス125はそれでいて、走らせていてミニバイクらしい「ヒラヒラ感」もあるのです。

車体やエンジンが生み出す「軽さ」という好印象

「ヒラヒラ感」とは軽快感と言っても良いですけど、先に発売されているモンキー125に比べての印象です。モンキー125は前後タイヤに80%偏平率のものを装着するのに対し、ダックス125はグロムと同じ70%のものを採用しています。

この偏平率の差が、ダックスのヒラヒラ感を強調させていますね。ちょっとクイックすぎるから、80%偏平率にするなどボリュームを持たせて、しっとり感というか、もう少し穏やかな感じにしてもいいかな…とも思いましたが、このヒラヒラ感がダックス125を走らせていて、とても楽しい気分にさせてくれる…というのも事実です。どちらが良い悪いという話ではなくて、ハンドリングのキャラクター付けをしっかり強調するという、開発の方向性を感じさせたということです。

あとモンキー125との比較で、ダックス125がヒラヒラ感を強くさせる要素として、ライディングポジションの違いもありますね。若干ではありますがダックスの方が、人間が高い位置にあって下にある重心との距離が、離れているイメージです。その違いがモンキー125と比べた場合「軽すぎるかなぁ?」みたいなダックス125のハンドリングの印象に結びつくのですが、前後サスペンションも良く調教してあって、ピッチングの節度も上手くまとめられているので、ただ「軽い」だけでなく自由自在に走れる感じという、ダックス独自の乗り味を生み出しています。その「軽さ」が不安定感という怖さに結びつくこともなく、非常に良い出来だと思いました。

ダックス125は、ブレーキの制動力やコントロール性もすごく良いです。小径タイヤのミニバイクは、フロントブレーキの効きが良すぎて、コントロール性がイマイチだと、乗っていて前転しちゃうのではないかという怖さがありますが、そういう印象はダックス125には全然ないです。ABS付きのフロントの出来は良く、リア側もロックすることなくコントロールできます。これら前後ブレーキは、非常に上手く調整されていると感心させられました。このブレーキのまとまり具合の良さは、今までのホンダのミニバイク開発のノウハウの蓄積というものを、感じさせてくれますね。

そしてエンジンについても、ダックス125の走りの「軽さ」を強調させる点がありました。それは自動遠心クラッチで、スロットルを開けた瞬間にクラッチがスッとつながれたように、車体を前に進めてくれます。その感じが非常に良いので、軽快な走りの印象をさらに強調している感じです。エンジンそのものはモンキーやハンターカブと基本的に同じ125cc単気筒ですが、ダックス125はクラッチのつながり方の良さで、ほかのモデルのエンジンよりも「軽快」になっているような感覚を乗り手にもたらします。

最初にダックス125を見たときは、かつてのダックスに比べて物理的にかなり大きいなと当然思いましたが、しばらく走らせていると走りの「軽さ」から、最初に見たときほどの大きさを感じなくなりましたね。

誰でもおすすめできる完成度の高い1台!

あと今回非常に気に入ったのは、ダックス125のシーソー式ペダルが、素晴らしい出来になっていることです。自分は足のサイズが28cmと大きめなのですが、過去にこの連載でGB350やカブ系など、シーソー式ペダルを採用するモデルを試乗したとき、シフト操作にちょうど良い位置を探っていると、足の置き場に困った経験がありました。その点でこのダックス125はステップに足を置いて、自然に足を前後にスライドするだけで、気持ち良くシフトアップとダウンをすることができました。

今までは足を載せ替えたりして、シーソー式ペダルに対処していた感じでしたが、ダックス125はストレスを一切感じないで操作できるのが嬉しかったです。実は今、足としてハンターカブを使っているのですが、このダックス125のシーソー式ペダルを取り付けられるなら、試してみようかな? チェンジシャフトは同じでしょうし、ステップとの位置関係も大きく変わらないはずですから。そのほか車体パーツとの干渉がなければ、いけると思うのですが…?

今回の試乗コースは市街地がメインでしたが、街中をトップ4速、50~60km/hくらいで流しているとき、エンジンがすごく「手」についてきて、そのレスポンス感を気持ち良く味わいながら、しっかりと交通の流れに乗ることができました。何度も表現に使いましたがダックスの走りの「軽さ」や「ヒラヒラ感」も楽しみつつ、街中を走らせる分にはまったく不足を感じませんでした。

近年はカブ系などの原付二種で、ロングツーリングを楽しむオーナーも多いみたいですが、ダックス125はそういう使い方にも適していると思います。お尻が痛くなるほどの長距離は走らせていないのですが、近年ホンダ車のシートはどんどん良くなっていますし、ダックスはライディングポジションの自由度が高いことがプラスに働くと思います。ハンドルバーの間のスペースは、スマートフォン用ホルダーを付けて、USBアクセサリー電源を引くのにちょうど良い感じですね。そしてオプションのリアキャリア付けて、ボックスを載せれば…旅バイクにもピッタリでしょう。

ダックス125がラインアップに加わったことで、ホンダのカブ系エンジン搭載原付二種のバリエーションがさらに拡がったわけですが、ダックスの出来栄えは「本当に良いバイクを作ってくれました?」という感じです。自分もハンターカブから浮気して、ダックス125に乗り換えちゃおうかな…。まぁハンターカブにはハンターカブの良さがあって、自分もそこが好きで乗っているのですけど。

初心にかえって、ダックス125で新聞配達しろって!? 確かに昔は、今みたいにバイクについてあれこれ贅沢なこといわず、無心でバイクを楽しんでいたなぁ…。もし今やってみても、それなりに楽しめるかもしれませんね(笑)。ともあれダックス125は、誰にでもおすすめできる1台でした!

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