今回取り上げるのは、2025年にモデルチェンジされた大型スポーツモデル、NC750XのDCT版です。プライベートでは基本MT派を自認する伊藤真一さんですが、試乗した最新のDCTの出来にはいたく関心しており、珍しく? ベタ褒めのインプレッションとなりました。

(伊藤真一さんプロフィール)
1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2026年も監督として「Astemo Pro Honda SI Racing」を率いてJSB1000クラス、ST1000クラスなどに参戦!
新型NC750Xが搭載するDCTの仕上がりは完璧

アドベンチャーよりもオンロード寄りのクロスオーバーモデルであることを示す「X」が車名に与えられたNC750Xは、歴代NCシリーズのなかでも私の好みに合うモデルでした。
2025年に登場した新型NC750Xは「マイナーチェンジ」という扱いですが、今回試乗してみて感じたのは、フルモデルチェンジと称しても良いほど、あらゆる面で旧型よりも進化しているということです。
まず感心したのは、自動変速装置であるDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)の完成度です。変速時の「カシャーン」「カチャーン」という音が多少気になるのは仕方ないとしても、これまでのモデルで感じていた自動変速のタイミングと自分の意識との「え、ここで変速する?」という違和感は、新型ではほとんど感じられませんでした。
各ギアでレブリミットまでの全開加速を試した際も、過剰に回転が落ちて失速することもなく、逆に不自然にドン! と進むこともありません。その絶妙な制御には本当に驚かされました。
DCTの変速タイミングについては、これまでさまざまな意見があったと思いますが、これほど適切に変速する新型に関しては、もう文句を言う人はいないのではないでしょうか。加速とともにトントントンとテンポよくシフトアップしていくフィーリングは、とても心地よいものでした。
並列2気筒エンジンは、同じ排気量のXL750トランザルプやCB750ホーネットに比べるとパンチ感は控えめですが、ナナハンのスポーツバイクとして力不足を感じることはありません。ただ一点気になったのは、高いギアでスロットル全開という高負荷状態のときに、「キンキンキン」とノッキングが起こることです。
私がプライベートで所有しているX-ADVもNC750Xと同じエンジンを搭載していますが、やはり同じシチュエーションで同様の現象が見られます。もっとも、一般的なライダーは私ほど大きくスロットルを開けることは少ないでしょうから、ノッキングを気にする機会は多くないと思います。おそらく環境性能向上のために燃調を絞っていることが関係しているのかもしれません。
スポーツバイクらしい走りを手に入れた新型NC750X

新型のエンジンとDCTの仕上がりは素晴らしいですが、ハンドリングについても非常に好ましい進化を遂げていました。前傾した並列2気筒エンジンを搭載し、フレームのメインチューブを下寄りに配した従来のNC系は、重心がきわめて低く、独特のコーナリングフィールを持っていました。
新型はジオメトリー自体に大きな変更はないものの、適度なピッチングが感じられるようになり、エンジン重量の荷重が前後にうまく分散されている印象です。
旧型では、コーナリング中に十分な舵角を与えてもコーナリングフォースが立ち上がりにくく、やや違和感を覚える場面もありましたが、新型ではそのような印象はなく、一般的なスポーツバイクの感覚でワインディングを楽しむことができます。
特に気になったのは、旧型と新型で大きく異なるフロントまわりの構成です。旧型はシングルディスクブレーキでしたが、新型はダブルディスクブレーキを採用。さらに軽量化と剛性バランスを見直した新設計ホイールを装着しています。
開発ライダーとしての経験からも、ホイール剛性の変化が舵の入り方に大きく影響することはよく理解しています。サスペンション設定も含め、これらの要素を徹底的に突き詰めた結果、新型は重心の低さを意識させない、スポーツバイクらしいハンドリングを実現していると感じました。
2024年、本連載で月刊『オートバイ』メインテスターの太田安治さんをゲストにお迎えした際、前モデルのNC750X DCTに試乗していただきました。
太田さんは同じコーナーを何度も往復したうえで「このモデルでスポーツライディングを楽しむのは難しい」と評していましたが、新型NC750Xに乗ればまったく違う評価になるのではないかと思います。
試乗後に新旧NC750Xの前後リムサイズを確認したところ、フロントMT3.50、リアMT4.50とサイズは同一で、装着タイヤも同サイズでした。数値的仕様が変わらなくても、ここまでハンドリングが変化することに驚きを覚えるとともに、バイク作りの奥深さを改めて実感しました。
先ほど「フルモデルチェンジと呼んでも良いほど」と述べましたが、その印象は機関系や車体だけでなく、細部の作り込みにも及びます。デザインの根幹は大きく変わっていないため、ぱっと見では旧型との違いが分かりにくいかもしれません。
しかし実車を前にすると、その進化ぶりは明らかで、新型NC750Xがあらゆる面でアップグレードされたことが実感できるはずです。
新型NC750Xにはオネダン以上の価値がある?

新型NC750Xで細かい点ながら気に入ったのが、DCTモデルに必須となるパーキングブレーキの使いやすさです。操作がとてもスムーズで、停車時にブレーキをかけることを「面倒だ」と感じることはまったくありませんでした。
今後リリースされるホンダのDCT搭載モデルは、すべてこのタイプのパーキングブレーキを採用してほしいと思いましたね。
ツーリング用途が多い大型車としては、燃料タンク容量がやや少なめなのは気になるところです。ただし、高回転域を多用せずとも十分に走れるエンジン特性のおかげで、燃費性能はきわめて良好。実用面で不満を感じる場面は少ないでしょう。もっとも、私のようにスロットルを開け気味で走るライダーの場合は、その限りではないかもしれませんが(笑)。
新型NC750Xはフロントまわりのスタイリングが刷新され、旧型よりもすっきりとした印象を与えます。スクリーンや一部外装には、環境に配慮したバイオエンジニアリングプラスチック「DURABIO」が採用されており、細部の質感が大幅に向上。オーナーの所有欲をしっかり満たす仕上がりになっています。
2012年の700cc時代のモデルが60万円台、2021年に登場した750cc化後の初代モデルが90万円台だったことを考えると、今回の新型NC750X DCTの「100万円超え」という価格に、高くなった印象を持つ人もいるでしょう。しかし、各時代の装備や性能の進化を踏まえれば、新型の価格設定は依然としてリーズナブルといえます。
700cc時代のNCシリーズは、「価格が手ごろだから」「大型のスーパーカブ的な存在だから」という理由で選ぶユーザーが多かった印象があります。しかし、新型NC750Xに試乗して強く感じたのは、もはや価格や実用性の高さだけでは語れない、“魅力的なスポーツバイクのひとつ”として成立しているということです。数あるスポーツバイクの中から、NC750Xを愛車候補に入れる価値は十分にあります。
既存のNC750Xユーザーの多くは愛車に満足しており、必ずしも買い替えを検討しているわけではないかもしれません。しかし、新型は100万円をわずかに超える価格で、これだけの進化を遂げています。買い替えを真剣に考えるだけの価値は間違いなくあるでしょう。いまやNC750Xは、“価格で選ぶバイク”ではなくなったのです。
(注意書き)
まとめ:宮﨑 健太郎/写真:南 孝幸 *当記事は月刊『オートバイ』(2026年3月号)の内容を編集・再構成したものです。


















