秋から冬にかけた季節の変わり目に山岳地帯などをツーリングをしていると、雨も降っていないのに周囲にモヤがかかったような視界不良になってしまう「霧」が発生することが多くあります。
もしも、バイクでこのようなケースに遭遇してしまったらどうすべきなのでしょうか?
実は雨よりも厄介⁉︎ 寒暖差のある秋に発生しやすい“濃霧”の正体って?
暑さもなくなり、時折寒さも感じる日もあり、バイクツーリングが気持ちいい季節になってきました。
今年の夏は例年にも増して厳しい猛暑日が続きましたし、突発的なゲリラ豪雨も頻発しましたから、それらの心配が少なくなるこれからのシーズンは快適にツーリングが楽しみたいものです。
しかしながら、紅葉などが楽しめるこれからの時期は、極端な暑さや寒さが落ち着く反面、秋から冬へと季節が移り変わる過程で、標高の高いエリアなどでは“寒暖の差が激しい場所”が出てきます。
このような季節になると外気温の変動が著しくなるだけではなく、我々ライダーにとってちょっと心配な気象条件になる場合があります。
実は寒暖差のある秋シーズンは一年でもっとも「霧が発生しやすい季節」とも言われ、特に山間部の早朝や夕方などでは頻繁に霧が発生している場所もあるほどです。
「霧くらいなら、雨より平気なのでは?」と思われるかもしれませんが、濃霧のような極端な霧に見舞われると、バイクで走っていて数メートル先も見えなくなるような「視界不良」になってしまう場合があるから注意が必要です。
そもそも「濃霧」はなぜ発生する? 霧の種類とメカニズム
一年を通してみれば、極端に視界が悪くなるような霧が発生するということはそれほど頻繁に起こることではありませんので、バイクで走っていて前が見えなくなるほどの濃霧に遭遇したことがあるライダーはあまり多くはないかもしれません。
もちろん“霧の濃さ”にもよりますが、30〜40メートル先くらいまで視界が確保されていたり、道路の白線や中央線などがしっかり認識できるくらいの霧であれば、徐行しながらそのままやり過ごして走ることもできるので、それほど大きな問題ではないかと思います。
しかし、バイクで走っていて数メートル先の視界も確保できず、さらには対向車や前走車が寸前になるまで見えないくらいの濃霧であれば、ツーリングを中断もしくはルート変更すべきと言えるでしょう。
そもそも「霧」とは、大気中に無数の微細な水滴が地面に落ちずに浮かんでいる状態のことで、言わば、雨粒になる前の雲の中にいるような状況を指します。
その限りなく小さな水滴が、光を反射したり吸収または散乱させて、周囲がモヤっと白っぽく見えることで視界が悪くなってしまっているのです。
ちなみに、気象庁によると陸上で水平方向に見通せる距離(視程)が1,000m未満の状態を「霧」と呼んでおり、その霧が更に濃くなって視程が100m未満になった状態のことを「濃霧」と呼んでいるそうです。
このような気象ではバイクや車の運転などに支障をきたすため「濃霧注意報」が発令されることがあります。
そんな霧や濃霧には、いくつかの種類や発生条件があり、山岳部などに限らずどんな場所でも霧が発生する可能性があります。
蒸発霧 ( じょうはつぎり )
蒸発霧とは、川や池などの水面から蒸発した水蒸気が冷たい空気によって冷やされて発生する霧です。お風呂や熱い飲み物からあがる湯気と同じ原理で、空気の冷たい冬の川や湖などで発生しやすいと言われています。
前線霧(ぜんせんぎり)
前線霧とは、冷たい空気と暖かい空気が上空で交わることで温暖前線となって発生する霧で、雨も一緒に降りやすく、霧がなかなか晴れにくい気象条件と言われています。ライダーにとってはこのタイプの霧が一番厄介でしょう。
移流霧 ( いりゅうぎり )
移流霧とは、暖かい空気が冷たい水面や地面などに流れ込んで冷やされることで発生する霧とされていて、特に初夏の海沿いで多く見られることから、別名で“海霧”とも呼ばれています。
滑昇霧 ( かっしょうぎり )
滑昇霧とは、水蒸気を含んだ空気が山の斜面に沿って昇り、山頂付近で冷えて発生する霧と言われ、麓からは山に雲がかかったように見える霧と言われています。山岳部のツーリングで突発的に発生する霧の多くはこれに該当すると言えるでしょう。
放射霧 ( ほうしゃぎり )
放射霧とは、風の弱い晴れの日の夜から朝にかけて、気温が急激に冷え込んだ時に発生する霧で、山に囲まれた盆地などに多く見られる現象です。いわゆる“海雲”と呼ばれるものに該当し、太陽が昇って気温が上がれば自然的に消滅する霧になります。
山岳エリアのツーリング中に濃霧に遭遇したらどうすればいい?
このように霧にはいくつかの種類や発生条件があり、一時的に発生しただけでちょっと待っていればすぐに晴れる霧もあれば、長時間にわたって霧が発生し続けて、最悪の場合は視界不良で数メートル先も見えないほどの濃霧に見舞われる場合もあります。
万が一、このような悪条件の濃霧に遭遇してしまった場合は、まずは安全な場所で一度バイクを停めて、霧の濃さがある程度弱まるまでしばらく様子をみた方が良いでしょう。
その際にいま自分がいる場所がどの辺りなのか、この先の天候や気象状況がどうなっているのかを地図アプリや天気アプリなどで確認し、引き返す方が良いのか、霧が晴れるまでしばらくその場所に留まっていた方が良いのかを判断します。
特に山岳部のワインディングなどでは、コーナーの先が見えないことも多いですし、対向車がはみ出して走行してくる危険もあります。
もちろん状況にもよりますが、少なくとも30〜40m先の視界が確保でき、白線や中央線などがしっかり認識できるくらいに霧が落ち着いてくれるまでは、しばらくその場所に留まった方が良いでしょう。
同じエリアを走っている対向車なども同条件で視界が悪いはずなので、直前になるまでバイクの存在に気がつかないケースも多いですからね。
これは筆者の経験談ですが、山岳エリアをツーリングしているときに自然発生した濃霧に遭遇し、10m先ほどしか見えないくらいの視界不良になったことがあります。
この時はツーリングの帰りで少し暗くなってきていたので道路の白線や中央線を頼りに安全な速度で徐行しながら下山したのですが、霧と周囲の暗さもあってヘッドライトがあまり役に立たず、視認性を高めようとハイビームにすると更に光が乱反射して余計に視界が悪くなったことがありました。
幸い麓に近づくにつれて霧が薄くなり、何とか安全に走れる道まで出ることはできました。
いま思えば、もう少しその場所に留まって霧が落ち着くのを待っていた方が安全だったのではないかと思います。
霧の時に頼れるフォグランプ
ちなみに「XL750 TRANSALP(トランザルプ)」などの純正アクセサリーにラインアップされている「フォグランプ」は、フォグ(霧)や激しい雨などで先行車のテールランプが見えにくくなったような状況で特に役立つもので、悪天候時の被視認性が高まるオプションパーツです。
進行方向の左右側を幅広く照らしたり、光の乱反射を防いだりすることで、対向車などから自分の存在をアピールする役割もあるので、悪天候になってしまったツーリングでも安全性向上に役立ってくれます。
霧の発生は一時的なものが大半!焦らず安全にやり過ごそう
いかがでしたか?
霧や濃霧の発生は雨などと同じ自然現象なので、どんな場所でも突発的に遭遇する可能性があるものです。
もしツーリング中に数メートル先も見えないような濃霧に見舞われたら、まずは落ち着いて自分のいま居る場所や環境を確認して冷静な判断をとってください。
突然遭遇した霧や濃霧はそのエリアだけ発生している場合や一時的なケースも多いので、焦らずに霧が晴れるまでやり過ごせれば、その後にまたツーリングが続けられる場合もたくさんありますからね!
【文:岩瀬孝昌(外部ライター)】