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伊藤真一のロングラン研究所(CT125・ハンターカブ 編)

2020年のデビュー以来、125㏄クラスで高い人気を維持してきたCT125・ハンターカブが、2022年の暮れに2023年モデルとして初のマイナーチェンジを受けて発売!
2022年モデルのオーナーでもある伊藤さんにとって新型の変更点は興味深いポイントだったこともあり、今回の試乗では更に熱を入れて、全体をチェックすることになりました。

【伊藤真一】1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2023年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いてJSB1000、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。

PHOTO:松川 忍、まとめ:宮﨑 健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2023年3月号)の内容を編集・再構成したものです。

 

見た目の変化は少ないが乗り味は新旧で異なる!

2022年型(以下旧型)の試乗は、昨年の連載でも取り上げましたが、実は自分も同型を購入しました。カラーリングはオーガニックグリーンで、納車まで半年くらいかかったかな? 基本はカミさんが使っていて、自分が乗るのは近所のコンビニに行くときくらい…という感じなのですけど、スクーターの方が買い物した商品を簡単に収納できて便利なこともあり、そういう場合にはスクーターを使っちゃうことが、正直言いますとほとんどなのですけど(笑)。

ただ2022年型を連載で取り上げたときにも言いましたが、ハンターカブはスーパーカブ系の中でも、オートバイ的な走りを楽しめるモデルなので、そこが気に入って購入した次第です。ですから現ハンターカブオーナー目線で、今回の2023年型(以下新型)を試乗できるのは、とても楽しみでした。

新型の試乗は、東京新橋の編集部をスタートして都内の市街地走行のみというシチュエーションでしたが、試乗車は走行45kmというほぼ新車状態でしたので、意識的に負荷をかける使い方をして、早く「馴染む」ようにしました。跨っての第一印象は、新型は旧型よりもちょっと腰高になっているような印象を受けました。元々ハンターカブはカブ系の中でも、最低地上高が高いこともあってシート高は高めですが、ほぼ新車に近いコンディションでシートのヘタリがないから、そういう印象を受けたのかなと思いました。

走り出して最初に気になったのは、エンジンの印象、そして操安の印象が、ともに旧型から大きく変わっていたことです。外観上の違いは、新型と旧型ではそれほどないのですが、車体に関しては新型はリアショックが5段階イニシャル調整付きのものが新たに採用され、ホイールベースも旧型より5mm長くなっています。アンダーガードを兼ねるサブフレームも、横に一本補強のパイプが追加されているなど、細かく剛性バランス調整されているみたいですね。

新型ハンターカブのエンジンは、グロム、スーパーカブ C125、モンキー125、そしてダックス125に採用されている、50×63.1mmの新型ロングストローク仕様が搭載されていますが、この新型エンジンを搭載したことが、新旧の操安の変化に大きな影響を与えているようです。新型の試乗を終えて、自宅に帰ってからカミさんが使っている旧型を借りて、しっかり走り込んで確認したくらい、その違いの大きさは興味深かったです。

エンジンの違いが操安の違いを生んでいる!

まず新型と旧型では、エンジンの特性に大きな違いがありました。旧型はトップ4速に入れて、ずっとオートマ感覚で走行できる出力・トルク特性なのですが、新型は1、2、3、4と各ギアで引っ張る走り方が、適したエンジン特性になっていました。諸元表を見てみると、2名乗車時の定地燃費値は新型の方が2km/L良いのですが、WMTCモード値では旧型が3.5km/L、新型より良い燃費になっています。自分の印象でも、燃費的にはわずかながら旧型にアドバンテージがあるでは? と感じました。

旧型よりも新型の方がより回して走らせる感じなのですが、回していても苦ではないのが新型の興味深いところでした。旧型よりボアが小さい分、新型はフリクション感が少なく振動もないので、当初は旧型よりもスムーズではあるけれど、力感に欠けるような印象を覚えてしまいました。ただ出力自体は旧型の8.8から9.1馬力へとアップしていて、それが速さへと結び付いてはいます。

そして新型はスロットルをオフにしたとき、吹け残りがあるように回転があまり落ちない印象でしたが、これはショートストロークと、ロングストロークの回転上昇および下降のレスポンス差があるのかもしれません。新型は旧型に比べると、2、3速を多用するような感じでした。各ギアの変速比は新旧不変ですが、新型は一次減速比が旧型よりショートで、二次減速比はロングになっておりますが、総減速比はわずかにロングというくらいですので、これら変更は新旧の乗り味の違いには大きく影響していないと思います。

自動遠心クラッチを介してのシフトダウンは、スロットル操作で回転を合わせながら行うのですが、その操作の楽しみについては新旧変わらないですね。自分の手でブリッピングするとスパッと変速がキマるので、マニュアルのオートバイならではの変速操作が楽しめますし、練習にもなります。この楽しさは、原付スクーターのようなオートマでは味わえない魅力でしょう。

新旧のエンジン特性の違いが、車体の諸々の変更と相まって操安の違いを生み出しています。新型の方がリアのイニシャルについては高く、新型はスロットルを開けるとスクワットを強くします。一方、旧型はシフト操作をあまり頻繁にしなくて良いようなエンジン特性ですが、スロットルを開けたときはピッチングをしやすい印象です。ロングストロークの新型は急激なエンブレ感が少ないので、ピッチングも少なくなります。

コーナリングがリア側主体なのは旧型から変わりありませんが、新型はリア側がよりしっかりして、より車体を抑制している印象がありました。フロント側が「スコスコ」する感じは旧型から変わらないですけど、リア側のダンピングフォースがよりしっかりと出ている分、操安に「コシ」が出たかなと思いました。リアショックの出来栄えは良くて、高速域でギャップを拾ってもバーンと車体が弾かれることはありません。「コシ」が出ていて、サスペンション全体としてのグレードが上がった感覚です。

125ccクラスのモデルに順次採用されているカブ系のロングストローク型の新型エンジンは、スーパーカブC125やダックス125などで体験済みではありましたが、新型ハンターカブに搭載されたことで、これほど旧型とエンジンフィールだけでなく、走行フィールについても違いをもたらすとは、本当に予想外の驚きでした。

欲を言えばギアポジション表示は欲しいですね

前後タイヤの設定は非常に良くて、オフロード向けのパターンながら舗装路でも良い感じで曲がれ、グリップも接地感もすごくあります。ミニバイクのなかでは大きいといえる前後17インチというサイズも、走らせていての安心感や、操安のまとまりがあってとても好ましかったです。

細かいところでは、旧型を試乗した際にも言いましたがギアポジション表示はメーターの機能に欲しいと思いました。各ギアの使い方は新型と旧型で変わりましたが、2速と3速、3速と4速、どっちを使っているか区別がつかなくなる感じは新型でもありました。新型のスーパーカブ110、クロスカブ110にはギアポジション表示が採用されているのですから、上位機種であるハンターカブにもぜひ採用して欲しかったですね。デザインとして、メーターのパネルやハウジングを変えたくなかったのかもしれませんが…。

全体のデザインが変わらないマイナーチェンジですが、新型と旧型のハンターカブはがらりと操安とエンジンの印象が変わっています。どちらが好みのフィーリングであるかは人それぞれだと思いますが、カブ系エンジン搭載車のなかでは、最もオートバイ的なスポーツ走行を楽しめる1台であることについては、何ら変わっていませんでした。環境性能を向上させつつ、馬力も高めている新型ですが、グレードアップしつつも価格は旧型から据え置きされているのは、とても素晴らしいことだと思いました。

 

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PHOTO:松川 忍、まとめ:宮﨑 健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2023年3月号)の内容を編集・再構成したものです。

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