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GROM(グロム)開発者インタビュー【エンジン編】 「5速化でもっと楽しく、軽量化で走りも燃費も良く!」

小排気量のレジャーバイクといえばHonda! 小排気量でも楽しさに満ちた 「レジャーバイク」。

これまで個性的なモデルが数多くラインアップされてきたHondaの「レジャーバイク」。なぜHondaは、レジャーバイクの血統を絶やさずにいるのか?このカテゴリーの未来はどう進化していくのか? レジャーバイクの最先端モデルであるGROMの開発者インタビューからひも解いていきます。

3代目GROMのLPL(開発責任者)を務めた藤山 孝太郎さん

3代目GROMのLPL代行(開発責任者代行)を務めた   谷田典雅さん

 

3代目GROMのコンセプトは「操る楽しさ、所有する楽しさ」

2021年のフルモデルチェンジで3代目となったGROMは「操る楽しさ」と「所有する楽しさ」をテーマに、従来はタイ市場向けモデルのウェーブ125iベースだったエンジンを完全な新設計とし、あわせて車体関係も一新している。 これまで、2013年登場の初代と2016年登場の2代目は、もっぱら中高年のセカンドバイクとして、 あるいはリターンライダーの復活に手軽な存在として支持され、日本国内では初代・2代目あわせて累計約2万8000台を販売。 新興国での需要拡大も踏まえ、2代目では上級クラスのスポーツモデルのスタイリングイメージが投影されていた。 だが、今度の3代目はこれに加えて、より若者やエントリーユーザーを意識して、カスタマイズも考慮。 つまり、従来とは異なったコンセプトが与えられているのだ。 その方向性について開発を担当したLPL代行(走行テストのまとめ)の谷田典雅さんは、次のように解説する。 「今回新たに採用した5速ミッション、軽量化、自由度のあるポジ ションが『操る楽しさ』を。ボルトオンのサブフレームや取り外しやすいサイドシェルやサイドカバーが『所有する楽しさ』を象徴するフィーチャーとなっています」

初代GROM(2013年登場)

「ジャストサイズ&魅せるスペック」を開発コンセプトに、扱いやすいサイズでありながら、大型スポーツ車のような本格装備という構成で登場した初代GROM。若い世代もターゲットに含まれていたが、日本ではセカンドバイク需要にマッチし、一躍人気を博した。

2代目GROM(2016年登場)

一大市場を築いたタイで開発された2代目。エンジン・フレームは初代から受け継いだものを使用するが、大型スポーツネイキッドのようなアグレッシブでエッジの効いたデザインとなった。

3代目GROM(マットガンパウダーブラックメタリック)

3代目GROM(フォースシルバーメタリック)

 

Hondaの次世代125ccクラスを担う新設計エンジン

エンジンは従来のもの(初代~2代目のエンジンは基本的に同様)よりもロングストローク化(52.4mm×57.9mm→50.0mm×63.1mm)すると同時に、高圧縮化(9.3→10.0)を図って特性を変えている。 また、オフセットシリンダーやローラーロッカーアームなども採用した。 これに5速トランスミッションを組み合わせたことで、エンジンサイズも軸レイアウトも一新されている。LPLを務めた藤山孝太郎さんによると、楽しさと環境対応を両立させたのが今回の新エンジンなのだという。 「出力、燃費、排ガス規制対応の要素のバランスを見極めた結果が、今回のロングストローク化と高圧縮比化なのです。特に排ガス規制への対応は、新たにユーロ5と OBD2の両方をクリアする新しいエンジンとなっています。作り込みにはなかなか苦労しました」

3代目GROMのエンジンは「空冷で最新排出ガス規制をクリア」

空冷の小排気量エンジンで、年々厳しくなる現代の排ガス規制をクリアするのは簡単なことではない。しかし、あえてここで空冷小排気量エンジンを完全な新設計にしたことには理由がある。 今後登場するHondaの125ccクラスのグローバルモデルでは、まず3代目GROMに搭載されたこの新エンジンがベースとなるからだ。 「その意味もあって、実用的な低燃費の確立と排ガス規制対応に注力したエンジンに仕上がっています。熱的に厳しい空冷エンジンですから、シリンダーのフィン形状にも計算をベースに細かな形状調整を行なったものを採用していますし、出力を含めた全体のバランスを考えて吸気系ではエアクリーナーボックスの形状も徹底的に作り込みました」(藤山さん) そもそもホイール径が12インチのミニバイクの車体サイズで、ある程度のボリュームがあり、スムーズな吸気を促す形状のエアクリーナーボックスを組み込むのは容易ではない。 もちろん、コンピューターによる解析計算も用いているが、開発当初は手作りでエアクリーナーボックスをいくつも作って、その走行フィーリングを検討していったそうだ。

3代目GROMのエンジン


排気量も124cc→123ccと変わっており、従来型とは完全に別物。排気系は内部構造を従来型の3室→2室としたことで(エキゾーストパイプ途中に設けられた「コブ」が小さくなっているのに注目)、レスポンス向上・軽量化に貢献。 ミッションが5速化されただけでなく、シフトフィーリングの向上、ピストンやクランクの剛性アップ、バランスの最適化など、走りの質感を高める改良も行われている。

2代目GROMのエンジン

タイ生産&現地向けモデルの「ウェーブ125i」をルーツとする2代目のエンジン。2代目と3代目とでは、クラッチハウジングやセルモーターのレイアウトなども異なっているのがわかる。 2代目のエキゾーストパイプは、中間でとぐろを巻くような構造だった(ステップ奥にある大きな「コブ」の部分)。

軽量化も追求し、燃費も向上している新エンジン

また、軽さという点では、車重は2代目に比べて2kgほど軽く仕上がっている。この軽量化の大きな部分は、エンジンの作り込みと、排気系のマフラーボディを一新したのが効いている。 軽さは、「走り」だけではなく「燃費」にも影響する重要なポイントだ。 「サイレンサーの内部構造を3室から2室へ変えました。それまで車体下にレイアウトされていた副膨張室をなくし、排気系の最適化と軽量化を両立しました」(藤山さん) これらの結果、新型の最高出力は従来型:9.8馬力/7000回転→新型:10馬力/7250回転、最大トルクは従来型:1.1kgm/5250回転→新型:1.1kgm/5500回転へと、0.2馬力の出力向上と250回転の高回転化を実現した。 これに従来の4速よりもクロスレシオ設定になる5速のトランスミッションを組み合わせたことで、加速感やエンジン回転の軽快感、スロットルレスポンスを向上すると同時に、エンジンパワーを効率的に伝達させているのだ。 新エンジンを搭載する車体もまた、従来型から大幅に手が入れられている。 極論、2代目と3代目とでは、サスペンションの外殻とタイヤ以外は全部異なっていると言ってもいいのだ。 そこまで改良を追求したのには理由があった。プライベートでミニバイクレース(グロムカップや耐久レース)に参戦していたLPL代行・谷田さんの思いや経験がフィードバックされていたのだ──。

【車体編へ続く】

【レポート:関谷守正】 【写真:柴田直行/Honda/八重洲出版】 【編集:上野茂岐】

*当記事は八重洲出版モーサイwebの内容を編集・再構成したものです。

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