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伊藤真一のロングラン研究所 Pro Honda編

2025年シーズン、「Astemo Pro Honda SI Racing」は、ホンダ純正オイル「Pro Honda」を全日本ロードレース選手権に使用。レースの現場で実感した、「Pro Honda」の性能を伊藤さんに語っていただきました。

伊藤真一(いとうしんいち) 1966年、宮城県生まれ。1988年、国際A級に昇格と同時にHARC ワークスチームに抜擢される。以降、世界ロードレースGP(MotoGP)、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2026年は監督として「Astemo Pro HondaSIRacing」を率いて、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐などに参戦する。

高性能車開発現場でも活躍する純正オイルの実力の高さ!

2025年シーズンが始まる前に、4月から日本市場のホンダ純正オイルの名前が「ULTRA」から「Pro Honda」に変わるので、プロモーションの一環として一緒にやりませんか? と打診を受けました。そしてチーム名が「Astemo Pro Honda Racing」に変わったわけですが、単なるプロモーションとして……だけではなく、レースに使用するオイルをPro Hondaさんから提供していただきました。ST1000とST600の両クラスの車両には、Pro Hondaさんの最高級低フリクションオイルである「RACING」を入れています。

オイルへのこだわり? そうですね、趣味のバイクやクルマの話ですと、オイルによってエンジンのフィーリングが激変することがあるので、自分に合うフィーリングの製品を探して使っていますね。一方レーシングマシンのオイルに関しては、耐久性や高速の伸びなどの性能が大事ですけれど、オイルの違いによる湿式クラッチの滑り方もじつはすごく重要です。場合によってはバックトルクリミッターのスプリングを変えないといけないときもあります。

ホンダの純正オイルといえば、自分が若いときからいつも目にしていたULTRAのイメージが強いです。スーパーカブや空冷のCBに、最もベーシックなグレードのG1を入れたり……。でもあまりにも身近にあったものなので、どれだけホンダ純正オイルがすごいものなのか、今思うと若いころはわかっていなかったですね。

以前自分がCBR1000RR、MotoGPマシン、そしてRC213V-Sの開発をしていたとき、興味があって開発者の方にどんなオイルを使っているかよく聞きました。そのときの大体の返答はいつも「ULTRAだ」と言うんですよ。それもG1だったり……。本当にG1なんですか? といつも聞き返しましたね。マシン開発でサーキットを全開で走りますが、「入っているのはG1なのか、すごいなこれは……」と思いながら乗っていました。

またエンジンの耐久性テストでは、そのエンジンが耐久性を確保していることが確認されないと、開発ライダーを乗せないことがホンダのなかで決まっています。その耐久テストをクリアするオイルが、G1だったりするのです。

オイル管理体制の万全ぶりがチームのアドバンテージとなる

先ほどPro HondaのRACINGを使っていますと話しましたが、エンジンを組み立てるときの「組み油」にはSCOOTERを使っています。ULTRAのときはE1でしたが、組み立て後の100kmくらいの慣らし運転では、そのままそのオイルを使います。これはマニュアルにそう指定されていることで、今もうちのチームのエンジンはそうやって組んでいます。

レースウイークは通常金土日ですが、その前にオイル交換をします。そして決勝の朝の、ウォームアップ前のオイル交換が基本です。ただライダーのリクエストでスタート練習をやるときは、その後に交換することにしています。湿式クラッチへの影響を考慮し、スタート練習を多くやったときはすぐに交換していますね。多くて1日1回、大体2日に1回のペースでの交換なので、レースウイークで2回という感じです。

レース後に抜いたオイルの状態ですが、当然入れるときの色と同じではありませんが、オイルの状態については入れたときと変わりはないです。その抜いたオイルを、街乗り用のバイクに入れても普通に問題なく使えるレベルです。Pro HondaのRACINGは流動性の高い0W-30ですが、SC59(CBR1000RR、2008年~)のころは、確かマニュアルの指定が5W-30じゃなかったかな? 自分が現役で全日本タイトル争いをしているころには、純正オイルで全日本を戦うということを考えたことはありませんが、それが今できるというのはPro Hondaのオイル技術がいかにすごいかの証明といえるでしょう。

一般向けに販売されている純正オイルで、全日本タイトルを獲得したことが初の出来事かどうかはわかりませんが、羽田太河が激戦区のST1000タイトルを獲得して、荒川晃大もナカリン(アティラットプワパット)も表彰台に立っていますからね。

Pro Hondaと組ませていただいて我々として特に有り難かったのは、管理体制が万全で安心してオイルを使えたことでした。レースの現場でオイルについて一番心配することは、そのオイルがいつ、どこで作られたものかわからないまま使わないといけないケースです。その点でPro Hondaは出所もしっかりしていますし、いつ製造されたオイルかも完璧に把握されているので信頼して使うことができます。オイルの品質が一定で、いつでもコンスタントにエンジン性能を出すことができます。このように常に安心して、2025年シーズンを通してオイルを使うことができたのは、チームの大きなアドバンテージになったと思います。

急遽、足りなくなったオイルを借りに行くことに……!?

Pro HondaのRACINGを使ったエンジンを分解してみると、コンロッド大端部のメタルなどの当たりも良く、メッキシリンダーに変な傷がつくようなことは全くなかったです。カムシャフトまわりも変な摩耗などはなく、何の問題もありませんでした。純正オイルは様々な機種に入れることができるように汎用性を持たせていますので、レース専用の特殊なオイルほど極限のパフォーマンスを求めて設計されてはいないといえるでしょう。ただ、高額なレース専用の特殊なオイルと比べてみても、得られるエンジンの出力差は1~2馬力も変わらないと思います。事実として全日本選手権で、トップ争いする分にも耐えうるオイルです。

ライダーとしての自分はタイムを出すためには、オイルによって変わるエンジンのフィーリングは大事と考えるタイプですが、ウチのチームのライダーはそこまで敏感なタイプは少なくて……。ただ、Pro Hondaのオイルになって、クラッチの滑り方が変わりました、とは皆言ってましたね、そのあたりは、自分ほど敏感なライダーでなくてもわかるみたいです(苦笑)。

2025年シーズンに使い続けての実感として、Pro HondaのRACINGは、サーキットでのスポーツ走行を楽しむライダーの人には特にお勧めできる製品だと思います。心配しているのは、この話が記事になったときに、本当に純正オイルを使ってレースしていたの? と疑われてしまうことです。もっとも、ULTRAのG1を使って高性能車の開発をしていた事実を知る前の、若かったころの自分でしたら、皆さんと同じように本当に純正オイル……? と疑ってしまうかもしれませんが(笑)。

じつは9月の第5戦オートポリスで手持ちのRACINGの量がちょっと足りなくなってしまったことがありました。そこでホンダドリームジャパンの社長にお願いして、熊本市内のホンダドリーム熊本さんに在庫確認していただきました。幸いにもRACINGの在庫があるとのことで、急いでオートポリスのパドックから2時間くらいかけてクルマを走らせ、引き取りに行きました。あのときは皆さんにご対応していただき、大変助かりました。

もちろん後日ホンダドリーム熊本さんにお返ししましたよ。オイルを借りにうかがったとき、もしかしたら対応してくださったドリーム熊本の方も「わざわざ借りに来るということは、本当に全日本選手権で純正オイルを使っているんだ……」と、心の中で思っていたのかもしれないですね。限られた流通経路で入手が難しい特殊なレース専用オイルではなく、一般向けに広く市販されている純正オイルをチームとして使っていたからこそ、オートポリスでの一件のような不測の事態にも対応できた、といえるのかもしれません。

TEXT:宮﨑健太郎 PHOTO:南 孝幸
*当記事は月刊『オートバイ』(2026年2月号)の内容を編集・再構成したものです。

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