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伊藤真一のロングラン研究所 Rebel250 E-Clutch 編

クラッチレバーを握ることなく、スムーズなシフトを可能にするホンダ独自の技術を与えられた新型レブル250 E-Clutch。スタンダードのレブル250を高く評価していた伊藤さんですが、E-Clutch採用によってその商品力はどれだけアップしたのか? チェックしていただきました!

伊藤真一(いとうしんいち) 1966年、宮城県生まれ。1988年、国際A級に昇格と同時にHRC ワークスチームに抜擢される。以降、世界ロードレースGP(MotoGP)、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2025年は監督として「Astemo Pro Honda SI Racing」を率いて、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐などに参戦する。

 

低速時のクラッチ操作感が非常に洗練されていました!

E-Clutch搭載車を試乗するのは、今年の4月号の連載で取り上げたCB650R E-Clutch以来です。レブル250はお気に入りのモデルのひとつなので、そのE-Clutch採用版はどのような仕上がりなのかとても興味がありました。私事ではありますが、身内の者が購入したいと言っているので、自信を持ってE-Clutch仕様をおすすめできるかチェックしたかったのです。

CB650R E-Clutchの試乗は初めてのE-Clutch採用車での公道走行体験だったこともあり、いろいろ戸惑うことがありました。E-Clutchの自動制御が有効になっているときにクラッチレバーを握ると自動制御は無効になります。クラッチレバーの遊び量は、自動制御の有効時と無効時で変化するので、CB650R E-Clutchの乗り始めのころは遊びの変化に慣れず、何度か低速でクラッチを操作したときにエンストさせてしまいました。

このE-Clutchの「特性」である、クラッチレバーを操作したときの自動制御の有効と無効の切り替わりに慣れることが、E-Clutch採用車を上手に扱うためには必要になります。今回レブル250 E-Clutchも、走り出して最初のころに1度エンストさせてしまいましたが、クラッチレバーの遊び量が元の状態に復帰するまでの時間は短く感じられ、その感覚は自分には自然に思えました。

クラッチレバー操作の感覚とかクセは人それぞれです。発進とか歩くくらいの速度での走行など、一般にクラッチレバー操作を使う機会が多い場面で、自動制御の有無を切り替える設定をするのは、技術的にとても難しいことでしょう。万人の感性に合わせることは、不可能に思えます。よほどE-Clutch採用車の操作感に慣れて、こういうときはこうすれば良いと、クラッチレバーを操作する左手が勝手に動くようになるには、短い試乗時間ではちょっと時間が足りないと感じました。オーナーになって長い時間付き合えば、慣れによって解消することだとは思います。

ただ、レブル250のE-Clutchは、これ以上E-Clutch制御の質を上げるのは難しいのでは? と思わせるくらい、低速でクラッチレバーを操作したときの設定が洗練されていることに驚かされました。まだビギナーで、発進時のクラッチレバー操作に毎回気を遣うような方にとっては、E-Clutchを採用するレブルはベストな1台になると思います。

自動制御有効時の、クラッチの繋がり方に興味を持ちました

CB650RのE-Clutchはシフトペダル荷重を乗る人の感覚に合わせて、アップとダウンそれぞれ3段階設定できるようになっていますが、レブル250 E-Clutchはその設定がありません。でも設定を切り替えられないことに何の不満も覚えることはなく、自然な感覚でE-Clutchを使えました。過去の試乗で感じたE-Clutchのネガに思えることは、ほぼ解消されていました。開発陣はかなり、レブル250に合ったE-Clutchのセッティングを突き詰めたのだろうと思います。

E-Clutchの自動制御が有効になっているときのシフトアップとダウンは、スロットルが開いているとき、閉じているとき、パーシャルのとき、いずれでも問題なく行うことができます。シフトアップのときに乗り手が意識して、ブリッピングなどを行うようなことは一切必要ありません。スロットル全開固定で2、3、4速とシフトアップを試してみましたが、何の問題もなくスムーズに変速することができます。

非常に興味深く思ったのは、シフトアップのときに結構クラッチを滑らせていることでした。ウウ~ンと滑らせてから、クラッチが繋がるイメージです。とはいえ、あくまで一瞬のことですから、一般のライダーの方がそのことを気にすることはあまりないと思います。選んでいるギアが速度に対して高すぎるとき、スピードメーター内のダウンシフトマークの点滅によって、ライダーにシフトダウン操作を促すのはCB650R E-Clutchと一緒ですが、クラッチ早期摩耗を防止することをE-Clutch採用車は非常に気にしています。

変速時のクラッチの繋がり方や、ダウンシフトマーク点滅のほか、取扱説明書で2速以上のギアでの発進をしないことを警告しているのも、いかに開発側がクラッチ早期摩耗に気を遣っているかが伺えます。ただ自分の感覚では、あの程度のクラッチの滑らせ方ならば、一般的なクラッチの車両よりクラッチの摩耗は早いのかもしれませんが、スーパーカブの自動遠心式クラッチなどの耐久性を鑑みても、許容範囲内の設定なのだろうと思います。

レブル250シリーズは2025年型からハンドル形状を見直すことで、グリップ位置が手前に近くなり、高さも上がっています。数値的にはどちらも1cmに満たないわずかな変更ですが、前の型のレブルに感じていた窮屈さを、自分の体格でも感じなくなっていました。膝や股のおさまりも曲がりも良く、ポジションが気になることがありませんでした。ただ小柄な人が乗るには、もうちょっとハンドルが手前に来ている方が良いかも? と思いました。

 

クラッチレバー操作不要という快適さを満喫できる1台!

ただ、ハンドルに近づくようにシートの前寄りに着座しても、ポジションの窮屈さが増すこともなく、ハンドリングに悪影響を及ぼすこともないです。そのあたりは、非常にうまくまとめられていると思いました。あとシートですが、お尻がまったくどこも痛くならないですね。内部素材を変更したことが、非常に効果を発揮しているのでしょう。

IRCのOEMタイヤは良くチューニングされており、車格に対し太めのフロントタイヤではありますがハンドリングのフィーリングは極めて自然です。ホンダは90年代から太めのフロントタイヤを採用するモデルを何機種か販売してきましたが、違和感なく走らせるノウハウをしっかり蓄積しているのでしょう。ブレーキは前後ともに効き、タッチともに好感触で、特にリアブレーキの使い勝手の良さには感心しました。

単気筒のレブルは国内外で多くの台数が販売されるヒット作ですが、台数がいっぱい出ているだけあって、ここは嫌だなと感じるところがない、非常に良くまとめられたモデルに仕上がっている印象です。冒頭の、身内の者がレブル250 E-Clutchを購入したい……の話ですが、今回自分で試乗してみてこの仕上がりであれば問題なくお勧めすることができると確認しました。

足つき性も気にしていましたが、そもそもシート高の低いクルーザーなのでまったく問題なかったです。E-Clutchのユニットが、右足のポジションを邪魔することもありませんでした。E-Clutch仕様車のスタンダード比の重量増は3㎏で、価格差は5万5000円ですが、クラッチ操作不要の快適さがこれくらいの価格差で手に入るというのは、多くの方にとってとても魅力的に思えるのではないでしょうか。

 

(注意書き)
PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2025年8月号)の内容を編集・再構成したものです。

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