HondaGO BIKE LAB

伊藤真一のロングラン研究所(CRF1100L アフリカツイン アドベンチャー スポーツ ES DCT 編)

前回に続き、今回もベテランテスターの太田さんをお招きしてお送りします!

取り上げるのは、2024年にモデルチェンジされたアフリカツインのアドベンチャースポーツESのDCTモデルです。シリーズ初採用された19インチフロントホイールの走りを、2人はどう評価したのでしょうか?

伊藤真一(いとうしんいち):1966年、宮城県生まれ。1988年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2024年も監督として「Astemo HondaDreamSIRacing」を率いてJSB1000クラス、ST1000クラスなどに参戦! 当研究所の主席研究員。太田安治(おおたやすはる):東京都出身。元ロードレース国際A級ライダー。1970年代から月刊『オートバイ』の試乗テスターなどを46年間担当し、今まで試乗した車両は5000台を超える!

 

オフロードを積極的に走る人はDCTモデルは選ばない?


太田:「ロングラン」は何年も前から出たい! と思っていたので、今回も取材に参加できるのは嬉しいね。でも大型アドベンチャーもDCTも、個人的には購入対象じゃないって日頃から言っているのに、あえてこのモデルを当てがうってことは、オートバイ編集部の担当者に嫌われているのかな(笑)。

伊藤:前回NC750Xを取り上げたときも、太田さんは購入対象としてDCTモデルは積極的には選ばないと言ってましたね。

太田:アフリカツイン系に限らず、大型アドベンチャーを選ぶ人は、オンロードのツーリングに使う人がほとんどでしょ? アドベンチャー……冒険という名前が先行しているけど、四輪のSUVみたいにいざという時にはオフも走れる。そういうところに大型アドベンチャーの価値があるけど、実際に走るのはほぼオンロードというのが実情。ただ、これだけ本格的な装備だから、オフロードを走る機会があったら入りたい気持ちにはなるよね? そういう時に、マニュアルクラッチがないと嫌だな、と思ってしまう。

伊藤:動画サイトとかを観ると、大型アドベンチャーに乗って悪路ですごい走りをする人の映像とかアップロードされていますけど、あれだけ操れる人はオフロード上級者に限られます。

太田:オフロードの専門家じゃないから、グリップの低いところではDCTは怖く感じてしまう。変速時に自動でクラッチが切れる瞬間があるので、そこに意識とのズレが生じる。

伊藤:先ほど太田さんが砂浜走行したとき、マニュアルモードで1速とか2速で固定していましたけど、自動だとすぐに変速してしまいますね。エンジンブレーキでの速度調整も、オフロードでは難しく感じます。

太田:まぁオフロードを積極的に走る人は、MTモデルを選ぶだろうね。オンロードに関しては、DCTに不満を覚えることはない。ヨーロッパでの使い方みたいに高速道路を走っている時間が長ければ気にならないけど、狭い林道でUターンとかする時はDCTだと怖く感じる。

伊藤:オフロード走行より、パニアケースを付けて、2人乗りしてロングツーリングするのが楽しいバイクですよね。

フロント19インチ採用は、方向性としては良い!?

太田:北海道みたいなロケーションを走るには良いだろうね。ただ温泉を目指して細い舗装林道とかを走るなら、やっぱりMTモデルの方が良いかな。

伊藤:今回のモデルチェンジの目玉は、フロントに19インチを採用したことですけど、太田さんはどう感じましたか?

太田:前回NC750XのDCTモデルに乗ったときは、コーナーで前輪に荷重を乗せるためいろいろ試したけど、アフリカツインはその必要がないね。以前の21インチに比べると、舵の入るスピードが明らかに早くなっている。人とバイクの一体感が、かなり出たね。

伊藤:直線からコーナーに入る時、タイヤの中心から外側への接地点の移動も、グリップの過渡特性も全然問題なかったです。

太田:接地感もグリップ感も強烈にあるという感じではないけど、21インチよりも小径だから、フロントにより荷重がかかるようになった感じ。オフロードを積極的に走るよりも、主にオンロードのロングツーリングに使われるモデルだから、フロントを21インチから19インチにして、オンロード寄りにした方向性は良いと思う。ツーリングバイクってコーナーだ! ブレーキをガッとかけて、離しながら寝かし込んで…ってそんなにやらないし(笑)。普通にツーリングするペースのレベルだったら、この設定に不満はないかな。

伊藤:ちょっと気になったのは、直線を低速で走る時、ABSの介入が少し早いことですね。リバウンドで伸びて、スイングアームが路面と並行になるあたりで、前へ押される力が発生しているのかもしれません。

DCTはエンジンフィールを上手い具合に「ぼかす」?

太田:オンロードとオフロード両方の走破性や、スポーツ性と乗り心地の良さとか、様々な要素から妥協点を探った結果であり、そこがネガに感じるのかもしれないね。

伊藤:車体について、気になったのはそこだけです。自分は以前のモデルの、シュィーンと気持ちよく回るエンジンフイールが好きで、現行型エンジンのように元気の良さが全面に出ている設定はあまり……なのですが、MTモデルと比べるとDCTではフィーリングがぼかされるのか、そのことをあまり意識することがありませんでした。

太田:伊藤さんの言う先代モデルと現行のフィーリングの違いは、自分はそこまで強く感じていない(笑)。個人的にアフリカツイン系1100ccエンジンとDCTの組み合わせでは、レブル1100が一番好みに合うけど。エンジン関連で気になったのは、高速道路を走っていると振動で少し手がしびれること。ビリビリする感じではなくて、乗っている時はそんなに感じない。でも停車してバイクから降りた時に、あれ、結構振動あったなって思う。

伊藤:気がついたらしびれていた、という感じですね。

太田:かと言って、ハンドルバーのマウント部のラバーマウントを、振動吸収のために現状より柔らかくしすぎると、操舵している時にグニャグニャ感が出ちゃうから、それはして欲しくないけど。

伊藤:ただ快適性に関しては、総合的に前のモデルよりかなり向上している印象でした。以前のローダウンモデルは、リア側の路面からの突き上げが強かったですが、それが無くなっています。乗り心地がとても良くなっています。

走行時の快適さをアップする最強のウインドプロテクション

伊藤:ロングランの撮影でよく使うルートを今回は走りましたが、編集部を出発してから最初に停まる撮影ポイントまでの移動が、こんなに近かったっけ? と思うくらい移動時間が早く感じました。新型は快適性が大幅に上がっているから、そのように移動距離が実際より短く感じるのでしょうね。

太田:上体が起きていてライディングポジションが楽で、ウインドプロテクションが非常に良い。高速道路ではスピード感があまりにも無くて、ちょっとエンジンの音が大きくなったなと思ってスピードメーターを見ていたら、法定速度違反をしちゃいそうな速度域に達していることもあった。このスピード感の無さは、大型スクリーンの高さとか、大きな燃料タンクのシュラウドとか、ウインドプロテクションの各部品がしっかりと効いている証拠だね。

伊藤:取材日は夏の暑い日でしたが、今回初めてナックルガードはいらないと思いました。走っているとき、風が当たらなくて手が暑いので(笑)。

太田:ナックルガードは本来オフロード用の装備で、オフロード走行中に森林の枝などをはらって手を守るもの。でも伊藤さん、もしもこれが冬の試乗だったらめちゃくちゃナックルガードが有難い! と言っていると思うよ(笑)。幸い撮影の間に雨が降ることはなかったけど、あれだけウインドプロテクションが良いと風は入って来ないから、身体がほとんど濡れないだろうね。

今までなかった分野を開拓したホンダの努力に拍手!

太田:やっぱり自分はオートマチックの二輪はスクーター以外選ばないけど、DCTを2010年に初搭載してからホンダは、その熟成を頑張っているよね。アフリカツインのMTとDCTの売り上げは半々くらいと聞くけど、DCTがバイク用オートマチックとしては初めて成功したから、他メーカーも追従してAT技術を商品化している。

伊藤:単純に四輪のような、トルクコンバーターでは駄目なのですかね?

太田:昔はあったよ。ホンダも1970年代に「ホンダマチック」をCB750エアラやCB400Tホークに採用していたし。

伊藤:ホンダマチックって、四輪のシビックにも採用されてましたよね?

太田:そう、「スターレンジ」。当時筑波サーキットで試乗したことを、よく覚えてるよ。さかのぼると1960年代から、スクーターのジュノオ用にバダリーニ油圧変速機を採用するなど、ホンダの二輪AT技術開発の歴史は長い。DCTより前は成功例の無かったATを長年一所懸命やって、マーケットを開拓した努力は素晴らしいと思う。初期のDCTには色々不満を感じたけど、今回アドベンチャースポーツESのDCTモデルに乗って、オフロードでちょっと怖かったこと以外、DCTに不満を覚えることはなかったね。

伊藤:今回のアドベンチャースポーツESのDCTモデルに限らず、自分は取り上げるモデルの細かいところを多く語ってしまうのですけど、読者の皆さんにそれを理解していただけているか心配になるのですが……。

太田:伊藤さんじゃないとわからないところは一杯あるから。それを紹介していく今の方針で良いと思うよ! この企画の愛読者のひとりの意見として。

 

PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2024年12月号)の内容を編集・再構成したものです。

関連記事

最近チェックした記事