今回はゲストに、大ベテランジャーナリストの太田安治さんをお招きし、伊藤さんと一緒にDCT仕様のNC750Xのパフォーマンスを「深堀り」していただきました。
学生時代の伊藤さんが愛読していた『オートバイ』で、当時から活躍していた太田さんとのロングラン研究所での共演。2人のトークはオーバーヒート気味? に盛り上がりました!
2人の初対決は80年代に実現していました!!
太田:調べたら伊藤さんとは一度だけ、同じロードレースを走ったことあるんだよね。スポーツランドSUGOの3時間耐久で、伊藤さんは2ストのホンダ MVX250Fに乗って10%上り勾配を白煙モクモク吐いて走ってたな(笑)。
伊藤:菅生選手権TT-F3チャンピオンを獲ったのが85年でその時はNS250Rに乗ってましたから、前年の84年ですね。懐かしいです。さっきからずっと考えていたんですよ。高校生の頃に読んでいた月刊『オートバイ』の太田さんと一緒に仕事するなんて…感慨深いものがあるなぁって。
太田:『オートバイ』で仕事するようになったのは、77年頃からかな?
伊藤:キャリア長いですね…。今回取り上げるのはNC750Xですが、太田さんは歴代NC系モデルをすべて試乗していますか?
太田:乗ってるよ!2012年の700cc時代から現行モデルまで全部乗ってる。最初は試乗会だったかな? よく覚えてない。発売後すぐにNC系3機種、NC700のSとX、そしてインテグラを伊豆でロケしたのはよく覚えてる。確かあの頃のNC系は6,000回転くらいで回転リミッターが作動して、すごく乗りづらかった。交差点前で停車して、発進してすぐにリミッターが効いちゃう。
伊藤:最初の700はそうでしたね。
太田:現行の750Xは7,000回転くらいまで回るようになった。
DCTとNC系エンジンの相性は非常に良い
太田:2021年のモデルチェンジでスロットルバイワイヤになってライディングモードが選べるようになり、エンジン改良で動力性能が上がっているけど、基本的には下からトルクあるけどフラットで、メリハリがあまりないエンジン特性なのは一緒だね。そういう意味では、オートマチックで走れるDCTとの相性は、すごく良いと思った。
伊藤:700の頃のDCTは、自分のマニュアル操作の感覚との「ズレ」を自動変速のタイミングに感じたりしましたが、現行モデルのDCTはそれを感じることがかなり減りました。エンジンはシュンシュン回ってフリクション感がなくて、電気モーターのように滑らかで良いですね。
太田:実際にエンジン内部のフリクションは少ないんだろうね。ロングストロークになっているけど、コンロッドとクランクの連桿比とかを相当考えていると思う。常用回転数が高いエンジンではなくてフリクションも少ないから、燃費がとても良いんだろうね。ツーリングではリッター30~35kmくらい普通に走りそう。NC750XのDCT仕様とMT仕様のどちらかを選べと言われたら、先ほど言ったDCTとエンジンの相性からDCT仕様の方を選ぶかな。個人的には普段は、DCTよりもMTを選ぶけど。あとDCT仕様とMT仕様との価格差が6万円台ってのはとても安いよね。CB650系のE-クラッチの価格差が5万円台ということを考えると…。
マニュアルミッション育ちはDCTに違和感を抱く?
伊藤:DCTとE-クラッチのそれぞれの部品構成を考えると、確かに割安に思えますね。ただ自分はどちらか選ぶとなると、MT仕様を選ぶかな? 750XのDCT仕様で街中を走っている時は、変速操作しないで済むのが楽ちんで良いと思いますが、峠のワインディングを走っていると、あ~ここでシフトダウンしたいなって時と、違うタイミングで変速したりして、あれ? と思ったりすることがあるので…。
太田:我々みたいにマニュアル車育ちで、変速操作に慣れちゃっている人は、DCTを特に必要としないよね。変速操作に体が勝手に動いちゃうので。DCT車はシフトペダルがないので、つま先がブラブラしてて、何も触っていないのが個人的には気持ち悪かったりする(苦笑)。積極的にDCTを選ぶ人は、どういう理由で選んでいるのか聞いてみたい。
伊藤:レブル1100のDCT仕様は、女性ライダーの方が選ぶことが多いみたいです。
太田:レブル1100も、DCTとの相性は良いね。いま四輪車でわざわざMTを選ぶ人は少数派だけど、やっぱりDCTのオートマチックの楽さっていうのは、魅力に感じる人も多いのだろうね。
伊藤:750Xでワインディングを走ったときに思いましたが、低重心な作りなのでコーナリングの印象が独特ですね。
太田:スロットルを開けての、二次旋回が全然曲がらない。リアショックのプリロードを抜いたりしていないか、ついつい確認しちゃった。
伊藤:街中を走っている時は、低重心で前輪に常に荷重かかっている感じなので、よく曲がるって思いますけどね。ワインディングでは印象が変わります。
GP500で磨いた技がDCT車の操作に役立つ!?
伊藤:フロントフォークは柔らかめで、細かいショックも吸収するので乗り心地は良いですね。フロントブレーキはシングルディスクで効きが強烈ではないこともあってか、コーナリングでもっと荷重を前輪に乗せたいのに、そんなに乗らない感じです。
太田:このバンク角でこの舵角なら、もっと曲がるはずだよな? っていろいろ試したけど…。コーナリング時の車体姿勢が気になるので、ブレーキを引きずり気味にかけて前に荷重かけようとしたり。DCT車はブレーキをちゃんと使わないと上手く乗ることができないね。
伊藤:太田さんが乗ったあと、ブレーキがチンチンに熱くなってましたね。
太田:まぁ速く走らせることにこだわるバイクではないから、ワインディングをリラックスしたペースで走るだけならDCT仕様で何の問題もないけど。コーナリング時の「意識のズレ」みたいなものは、DCT仕様ではリアブレーキを頼りにして修正する感じ。ただ俺の世代は、リアブレーキはあまり使わない世代なんだよね。現役のロードレーサーの頃、意識してリアブレーキかけていたのって、スポーツランドSUGOのシケインだけだな。
伊藤:自分の場合は、ワークスのNSR500に乗るようになってからは、リアブレーキをしっかり使うようになりましたね。NSR500って、リアブレーキを使わないと走れないんです。使うべきところで使わないと、ポーンと空に飛ばされちゃう(笑)。トラクションコントロール、ウイリーコントロール、そして姿勢制御のために、サーキット1周の内90%はず~っとリアブレーキを踏んでいるんですよ、ストレート含めて。90年代にGP500ccクラスを5連覇したミック・ドゥーハンも、ず~っとリアブレーキを使ってましたね。
太田:その頃から、走行データ記録するロガー使っていたんだ。
伊藤:ワイン・ガードナーのデータはなかったから、取り入れたのは80年代の終わりころからですかね? 90年代に入ってからは、各種ロガーだらけになりました。とにかくGPライダーはみんな、リアブレーキを使ってますね。
NC750XのDCT仕様はエンジンのヘタりが少ない
伊藤:あ、でも、ケビン・シュワンツはリアブレーキを使わない派だったな。
太田:90年代の頃が、リアブレーキを使う派と使わない派が混在した最後の時期だったのかな。ともあれワインディングで750XのDCT仕様をオートマチックでスポーティに走らせようとする時は、コーナーの入口でも出口でも、ブレーキをちゃんと使うことが大事だね。
伊藤:太田さんは、750Xのスロットルのツキとかは気になりました?
太田:走行モードを変えると、結構スロットルのツキが変わるんだよね。スポーツモードではかなりツキが良くなる。まぁスポーツ走行するときに邪魔になる感じではないので、気にはならかったね。気になったといえば、ギアが入った状態で停車しているときに微妙なクリープがあるよね。真っ平な場所だと、少しずつ進んでいく。信号待ちでよそ見していると、気がついたら前のクルマに近づいていたりして…。かといって、坂道でヒルアシストみたいには効かないんだよね。いきなり発進で繋がったりしたらいけないから、クラッチの設定は非常に難しいだろうね。
伊藤:へぇって感心したのは、試乗車は1万km以上走行している車両なのに、ヘタリを感じることがなかったことです。ちゃんとメンテナンスしてても、1万km走るとそれなりにヘタるものですが、それがなかったです。
太田:その辺は高回転を多用するモデルじゃないから、消耗が少ないのかもね。
堅実に支持されるNC750Xはなくてはならないモデル
伊藤:車両価格を考えたら750XのDCT仕様は、コストパフォーマンス的には良いところにいると思いますね。もっとスポーティなモデルとその場で乗り比べとかしたら、刺激が足りないと感じたりするでしょうけど。
太田:ある意味750XのDCT仕様は、同じクラスのライバルが不在だよね。外国車にもクラッチ操作を不要にしたモデルがあったりするけど、750Xより価格帯が全然上だし。日帰りのツーリングで週末走る、という用途に750XのDCT仕様は合っていると思う。
伊藤:ホンダドリーム店の話では、750Xは月に2~3台コンスタントに売れているそうですね。定番商品になっていて、あれがないと困る…というモデルになっているみたいです。
太田:日本自動車工業会の2023年度市場動向調査によると、二輪車ユーザーの平均年齢は55.5歳。まさに80年代レーサーレプリカブームど真ん中の世代で、当時は大パワーこそが至高みたいなことを言ってた人たち。そういう人たちの中に、年齢を重ねたら750Xがちょうど良くなる人がいるってことなのだろうね。俺はどこかヒリつく感じがないと、寂しいとまだ感じちゃうけど(笑)。
PHOTO:南 孝幸 まとめ:宮﨑健太郎
*当記事は月刊『オートバイ』(2024年11月号)の内容を編集・再構成したものです。