(伊藤真一さんプロフィール)
1966年、宮城県生まれ。1988年、国際A級に昇格と同時にHARC ワークスチームに抜擢される。以降、世界ロードレースGP(MotoGP)、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2026年は監督として「Astemo Pro HondaSIRacing」を率いて、全日本ロードレース選手権や鈴鹿8耐などに参戦する。
人気のアドベンチャーのエッセンスを盛り込んだ、軽ニ輪スクーターのADV160。
スマホ連携機能のHonda RoadSyncなど装備を充実させ、一部外観を変更した最新版は今年5月に発売。前代ADV150時代から同モデルを伊藤さんは高く評価していましたが、果たして今回取り上げた新型に対する評価は!?
まるでPCX! と錯覚するほど快適な舗装路での走り

2019年秋の東京モーターサイクルショーで公開されたときから、ADVは気になっていたモデルで、150cc時代のモデルは自分のチーム(SIR)でも使っていました。ADV160はベースとなったスクーターのPCX160に比べるとヤンチャな乗り味という印象でしたが、2023年1月に排気量をアップするなどの改良を受けたADV160は、エンジンと車体が一新されたこともあり大幅にアップデートされていて、操安と乗り心地が非常に良くなったことが印象に残っています。
今回取り上げた新型ADV160は、装備の充実ぶりがすごいと思いました。フルカラーTFT液晶メーターは、ビッグバイクに採用されているものと同じものだと思います。そして、Honda RoadSyncを新採用したことで、便利なスマホ連携機能を実装しています。液晶メーター装備が標準化している昨今、上位機種とメーターを共通化することはコスト的に有利という判断なのかもしれません。ともあれユーザー目線で見ると、装備のクオリティが上がることは喜ばしいことと思いました。
新型ADV160に乗って走り出して最初に思ったことは、先代とタイヤが変わったのかな? というくらい、乗り味がしっとりとしたものになっていることでした。取材後に調べたところ、OEMタイヤは同じIRC製のものでしたが、前のADV160よりもオンロードでのグリップ感が足りない印象がなくなっていました。
アドベンチャー的スタイリングのスクーターということで、タイヤパターンはオンオフ寄りなのですが、新型は街乗り時も峠の舗装路の走りもオンオフ寄りという感覚はなく、PCXに乗っていると錯覚するくらい舗装路での違和感がありませんでした。ハンドリングも非常に良くて、市街地、高速道路、ワインディングのいずれの場面でも、気持ち良く走ることができました。
優れたハンドリングと、乗り心地の良さを生むリアサス

130mmのストローク量を持つフロントフォークは、もうちょっとしっとり感のあるセッティングならより好みに合うと思いましたが、リアの2本ショックの設定は非常に気に入りました。ユニットスイング式のスクーターは後輪懸架のバネ下がどうしても重くなってしまいますが、ライバルとの価格競争がシビアなスクーターの分野では、コストをかけた上質なリアショックユニットの採用については判断がシビアになります。
その点、新型ADV160のリアショックの出来栄えは、非常に素晴らしいと思いました。スクーターにありがちなリアからの突き上げ感は全くなく、底付きすることなく段差をクリアしてくれます。ユニットスイング式スクーターという構成上、荷重のほとんどは後ろ側にドーンと乗ってしまいますが、2本のリアショックユニットが上手くそれを受け止めてくれている印象でした。
取材前、黒田編集長はADV160を通勤で試し乗りしたそうですが、彼のインプレとしてはリア側からの突き上げが気になったそうです。自分の印象とは真逆なので不思議に思ったのですが、思うにそれぞれが真逆の印象をADV160に覚えたのは、シートの形状と着座位置に原因があるのかもしれません。
ADV160のシートはライダー側とタンデム側の間に段差があり、その段差にライダー側の腰を当てることになります。この段差により、ライダーは前寄りに着座することになるのです。
ADV160が光るのは、やはり高速道路ではなく下道?

自分や編集長のように、175cm以上の身長の人にとっては、ADV160のライディングポジションはちょっと窮屈になるのかもしれません。段差がお尻と腰をホールドするので、車体との一体感が生み出されてライディングしやすさを乗り手に提供してくれますが、ポジションがしっくりこない人は違和感を覚えるのかもしれないと思いました。自分としては、腰で車体をホールドできるこのシートが良いとを思いましたけど…。
160になってから4バルブ化された単気筒エンジンは、先代同様非常に好印象でした。初代ADV150は回して走るというヤンチャな感じが面白かったですが、160はおとなしくなったというか大きくスロットルを開けなくても必要十分に走ってくれます。力感は軽二輪クラスのフルスケールである250ccのスクーターには当然劣りますが、250ccスクーターより軽量コンパクトなので、街中では250ccよりキビキビした走りを満喫できます。
ただ個人的には、もっと走る感じになったらより面白いと思ったので、排気量を175cmくらいまで上げたらどうなんだろう? と試乗中に考えてしまいました。
高速道路の走行を試したところ、エンジンのポテンシャル的にずっと100km/h巡航を維持することはできなくはないですが、そのときの回転数を維持するのはそんなに心地良くはなかったです。高速道路を使って長距離移動するのであれば、もうちょっと下の速度で巡航するのが快適だと思いますね。高速道路を走れるのは軽二輪クラスであるADV160の大きなメリットではありますが、その良さが一番光るのは市街地や峠道などの一般道というステージですね。
環境にも懐にもとても優しい?ADV160の優れた燃費性能

新型ADV160は非常に素晴らしい仕上がりと思いましたが、フロントブレーキ側のみのABSは、ABSがもうちょっと先に効くくらい制動力があったほうが良いと思いました。男の自分でも結構な力で握らないと効かないので、パニックブレーキ時にちゃんと止まるのかどうか心配になりました。アドベンチャースタイルのスクーターということで、未舗装路でも安心して握り込んでいけるブレーキになっているのかもしれません。
今回の試乗で驚かされたのは、その燃費性能の良さです。メーターに燃費が表示されるのですが、特に燃費を意識してスロットルを開けていたわけではないですが、リッターあたり47・で走っていました。カタログをチェックしてみたら、WMTCモードで42km/Lくらいですから、カタログデータよりも良い燃費成績を出していたわけです!
昨今の石油危機問題を考えると、この燃費性能の良さは素晴らしいですね。ADV160はアイドリングストップ機構を備えてますが、この連載で自分が走らせた大体のバイクはかなり燃費が落ちるくらい、スロットル開け開けで試してますので…(苦笑)。
まとめ:宮崎 健太郎/写真:南 孝幸 *当記事は月刊『オートバイ』(2026年10月号)の内容を編集・再構成したものです。
















