CLはホンダが60年代から70年代にかけて販売していたスクランブラーにつけられたモデル名です。
今回は、スクランブラーモデルCLの歴史とその中で最大排気量だった『CL450』についてご説明することにしましょう。
オフロードを走れるバイクはスクランブラーだけだった
本格的なストリート用オフロードモデルがなかった60年代は、オンロードバイクにオフロードの装備を装着したスクランブラーでダートを走るのが一般的でした。
ホンダは1962年に日本初のダブルアップマフラーを採用した250ccのスクランブラー、CL72をいち早く発売。
60年代後半から70年代にかけては原付からビックバイクまで様々な排気量のスクランブラーをラインアップします。
その中で最も排気量が大きかったのがCL450でした。
CL450のベースは最速を狙って開発された世界戦略車
CL450がどんなマシンなのかを説明する前に、ベースとなったCB450のことを紹介しておくことにしましょう。
CB450は1965年にホンダのフラッグシップモデルとして登場しました。
60年代前半、ホンダはミドルクラスのCB72やCB77をリリースして日本やアメリカで人気になっていましたが、ビックバイクを持っていませんでした。
世界に打って出るためには、高性能なビックバイクが必要なのは当然のこと。
そこで当時、市販車で最速を誇っていたヨーロッパ製650ccツインを超えるマシンを目指し、初の国際戦略ビックバイク、CB450の開発をスタートさせます。
排気量を敢えて450ccにしたのはホンダの自信とチャレンジスピリッツがあったから。
1959年のマン島TTレースはじめ、ロードレース世界GPにで上位に入賞していた技術力があれば、小さな排気量で650ccを超えることができると考えたのです。
高回転のパワーを追求するため、並列2気筒のエンジンには量産車初となるDOHCを採用。
偏心式のタペット(バルブ調整をする部品)やトーションバー式のバルブスプリング(金属を捻る力を利用したスプリング)、キャブレターにも量産車初となる負圧式のCVタイプを採用するなど、ホンダらしい独自のメカニズムが満載されていました。
この結果、出力、最高速共に国産車の中で最高スペックを実現。
外車勢を凌駕する性能を手に入れることができました。
つまりスクランブラーCL450のベースは、60年代中期に最高の性能を誇ったマシンなのです。
大排気量スクランブラーの魅力とは?
この当時の他のスクランブラー同様、CB450からの変更点はそれほど多くはありません。
外観から分かるのはマフラーをアップタイプにしてフロントタイヤを18インチから19インチに変更し、オフロード用のブリッジハンドルを装着していること。
エンジンの出力はCBの45ps/9000rpmから43ps/9000rpmと若干下げられ、代わりに低中速トルクを向上させていました。
車重は182kgで、現行のアフリカツインなどに比べると軽いように思うかもしれませんが、オンロード用サスペンションがそのまま使われていて性能があまり高くないことに加え、マスの集中化などが考慮されていなかった当時のバイクは数値以上に重く感じ、オフロードを本格的に走るとしたら相応の経験と体力が必要でした。
CL450は1968年から輸出専用としてアメリカなどで販売されることになりました。
広大なアメリカにはフラットなダートも数多くあり、CL450のパワーを引き出すことができたのです。
1970年には国内販売が開始されますが、さすがに日本の狭いオフロードでこのモンスター級のマシンを振り回す人はあまりいなかったようです。
しかし、低中速トルクが向上したエンジンと19インチフロントタイヤ、幅広のブリッジハンドルによって、タイトなワインディングではCB450よりも走りやすい感じるライダーも少なからずいました。
また、多少のオフロードなら気にせず走ることが出来たので、未舗装道路が多く残っていた当時、ツーリングなどではCB450より使いやすいという人もいました。
性格的には現代の大排気量アドベンチャーバイクやデュアルパーパスに近いものでした。
70年代中期になると、本格的オフロードバイクのMT250エルシノアなどが登場してきたため、CLシリーズは姿を消していきます。
しかし、その独特のスタイルとレトロな雰囲気に惹かれるライダーたちもいたことから、90年代後半にはCL50やCL400といったスクランブラーモデルがリリースされました。
今の時代だからこそスクランブラーは魅力的
ダートの走破性でいえば、スクランブラーは本格的なオフロードバイクにはかないません。
しかしオンロードバイクと同等の動力性能と快適さを持ち、オフロードも考慮されているので様々な使い方ができる自由なバイクです。
自然の中はもちろん、都会の風景にも似合うのでシチュエーションを選ばず、どんな場所でも自然に溶け込んでいきます。
だからこそライフスタイルを大きく広げられる可能性があります。
それこそが60年代から受け継がれたホンダ・スクランブラーのアイデンティティなのかもしれません。
【文/後藤武(外部ライター)】