新井さんは旧車のバイクレースで様々なチャレンジをしてきたライダーです。その挑戦は多くのバイク雑誌で紹介されてきました。
そんな新井さんが最近購入したのがダックス125だと言います。
しかもこれが最近1番のお気に入りなんだとか。
バイクを知り尽くしたベテランがなぜダックス125に乗るようになったのか。そしてどのように楽しんでいるのかをご紹介することにしましょう。
海外の旧車バイクレースで活躍
新井さんがバイクに乗り始めたのは16歳でした。
何台かのバイクを乗り継いでから大型2輪免許を取得。ビックバイクに乗るようになります。
2000年くらいに友人である岩野さんがブルーサンダースというチューニングショップを立ち上げてからは旧車のレースで有名な「テイスト・オブ・ツクバ」に参戦。
ブルーサンダースでチューニングされたマシンを駆り、実力を発揮していくことになります。
国内のレースで上位を走るようになった頃に持ち上がったのが海外遠征の話。
「雑誌を読んでいたらアメリカのデイトナ(フロリダにある国際的レースコース)で旧車が参加できるレースがあると書いてありました。出てみたいなと思ってなにげなく話したら周囲の仲間が『オレも行く』と言い出してしまって。皆の声にも後押しされて出場することにしました。」
アメリカ入国から上がっていたテンションが最高潮に達したのは、サーキットのインフィールドに入ったときです。
「トンネルをくぐってサーキットの中に入ったとき、振り返ったらデイトナ名物のバンクが壁のようにそびえ立っていました。そこを『カーン』と音を立ててバイクが走っている。『うわ、なんだこれは』って圧倒されました。何から何まで感動の連続です。」
デイトナのバンクはすり鉢状になったコーナーで31度の角度がついています。
これが外から見ると本当に壁のよう。
最高速で走ってきたバイクは減速せずバンクに飛び込んで曲がっていくときは恐怖との戦いです。
「最初は様子見でユックリ走りました。そうしたらバンクの下の方にズルズル落ちてしまった。全開でいかなきゃダメだと思ったけど最初は怖かったですね。色々とトライして走り方が分かってからはすごく楽しくなりました。」
2008年の参戦で表彰台を獲得した新井さんは2009年も参戦して優勝を飾り、2013年のレースでも優勝します。
デイトナは何度訪れても夢のような場所でした。
コロラドのヒルクライムに挑戦
デイトナの参戦を終えた新井さんは、しばらくの間燃え尽き症候群のような状態になったといいます。国内のレースに対してもモチベーションが今ひとつ上がりませんでした。
そんなときブルーサンダースの岩野さんから突然連絡がはいります。
「岩野くんから『バイクスピークに行きましょう』と言われたんです。これで人生が突然バラ色になったような感じがしました。」
パイクスピークはコロラドにある山の名前。
頂上までのタイムを競うヒルクライムが開催され、世界中から2輪、4輪のレーサーが集まってきます。
標高約2,600メートルからスタートしてゴールは4,301メートル。参加中のエントラントが高山病になってしまうことも少なくないという過酷なレースです。
「最高でした。景色もすごいし2輪と4輪が一緒でアマチュアレーサーもいればメーカーのワークスもいる。壮大な乗り物のお祭りみたいな感じでした。」
新井さんは初参加でクラス2位。
その後、合計4回パイクスピークへ参戦し、クラス優勝も果たします。
ダックス125との出会い
海外のレースが一段落してしばらくしたとき、ホンダからダックス125が発売されました。
ダックスは昔から好きなバイク。
気になってはいましたが、実際に買っても乗らないままになるのではないかと考えて、しばらくは我慢していたそうです。
ちょうどその頃、体を酷使したことなどから入院することになり、参戦し続けていた国内のレースから引退を決意。
考え方が少し変わることになりました。
「人間いつ死んでしまうかわからないし、それだったらやっぱり欲しいもんは買った方がいい。そう思って近くのバイク屋さんにダックス125を見に行きました。現車を見て即購入を決めました。」
ダックス125は新井さんに新しい喜びを与えてくれました。
「納車された日、自走して家まで帰ったんです。そうしたら自然に笑っちゃうんですよ。 すごく楽しくて。『バイクにはこういう楽しさがあるんだな』って思いました。」
自分では気が付かないうちにビックバイクで走るときは張り詰めたような緊張感が生まれていたようです。
それがダックス125にはまったくありませんでした。
「ダックス125に乗っていると『本当に自由なんだな』って感じます。知らない道にも入っていくことができるし、静かだから周囲に迷惑をかけることもない。」
これまでチューニングやカスタムは色々やってきましたが、ダックス125はノーマルの雰囲気が好きなので大きな変更はしていません。
ヘッドライトガードやフロントのフェンダーをオフロード風に変更した程度。
オフロードを走ることも好きなので、今後はMonkey125用の純正タイヤを装着する予定です。
ダックス125はどんなバイクだったのか
「ダックス125はすごく気に入っています。こんなに夢中になるなんて自分でも予想していなかったくらい。パワー不足も感じません。排気量が125ccだからビックバイクみたいなパワーはないけど、このバイクならこれで十分です。クラッチ操作しなくてよいところも気に入っています。」
「ハンドリングもいいんですよ。すごくシッカリした感じです。小径タイヤなのに安定していて路面の縦溝があってもふらついたりしない。ホイールベースが少し長めになっているところが良いのかもしれないですね。ブレーキも良く効きます。」
出かけた先で面白そうな道を見つけると必ず寄り道。あぜ道など、ちょっとしたオフロードでも走れるのもダックス125の良いところ。
「ダックス125でオフロードを走ると、子どもの頃に自転車で遊び回っていたことを思い出します。」
「燃費もいいですよ。リッター65kmくらい走りました。タンク容量が3.8なので満タンにすると200km以上走れます。近所だけを走っているとガソリンをいつ入れたか忘れてしまうくらいです。」
「気になるところはないですね。強いて言えばオフロードでスタンディング(ステップの上に立つこと)するとエアクリーナー風の電装品ボックスがフクラハギに当たって足が外れそうになるくらいかな。」
でも対策することはしないそうです。
細かな部分なんて気にしないで、今ある姿で楽しめばいい。ダックス125に乗っているとそんな気持ちになるのだそうです。
ダックス125が喜びを教えてくれた
ダックス125が手元に来てから、近所に出かけるときに使うのはこればかり。
クルマやビックバイクに乗る機会がメッキリ減りました。
「近所に買い物に行くときはほとんどダックス125です。妻と2人乗りで出かけることも良くあります。タンデムで走ってもパワー不足は感じません。」
「長距離はあまり行ったことがないけど夏に奥多摩まで行きました。ビックバイクで散々走ってきた道なのに今まで知らなかった景色が見えて『奥多摩ってこんなところだったんだ』って思いました。
これまで参加してきたレースは引退しましたが、自宅近くにあるブルーサンダースには今でも良く出かけていきます。
岩野さんは新井さんのマシンのチューナーであり、メカニック。そして良き理解者であり友人です。
新井さんがレースの進退を考えたときも、新井さんの体を心配して引退を進めてくれました。
ただ、長年続けていたレースをやめてしまったことで生活にハリがなくなってしまったことも事実です。
「なんか物足りない。 心のなかで寒い風が吹いているような感じがします。 これから何をしようか考えているところです。」
そんな新井さん、最近はダックス125でのロングツーリングを計画中。
「友達がスーパーカブ C125に乗っているので、カブとダックス125を積んで四国とかしまなみ海道の方に行ってみようかと話しをしているところです。クルマの運転は嫌いなんだけど四国だったらフェリーで行ける。天橋立も行ってみたいですね。125ccだったら走れるということなので。」
新井さんの心に空いた穴をダックス125は優しく埋めてくれているのかもしれません。
【文/後藤武(外部ライター)】