前編ではTRANSALPの歴史や特徴を紹介しましたが、後編ではHonda E-Clutchが採用された2026年モデル『XL750 TRANSALP E-Clutch』で、さまざまなシチュエーションを含んだ250㎞ほどのツーリングへ! Honda E-Clutchが導入されたことで、より『大型アドベンチャーツアラーを初めて選ぶのにもオススメできる』と感じました。この点を含め、トータルの乗り味をお伝えしたいと思います。
ライディングポジション・足つき・取りまわし・タンデムをチェック
ライダー:172㎝・68㎏
ライディングポジション|ゆったり構えて、遠くまで走れる

ライダーシートよりもタンデムシートが高い位置にあるため、乗降車時に足をタンデムシートやリアキャリヤにぶつけないように注意が必要です。またがると上体が起き前方の視認性もよく、腕を自然に伸ばした位置にハンドルがあり、リラックスした乗車姿勢をとることができます。シートも肉厚で座り心地がよく、今回の試乗中にお尻が痛くなることもなく、長距離も十分こなせるでしょう。なお、写真の状態でサイドスタンドをスムーズに出すことができました。
足つき|高さはあるがお尻をずらすなどの工夫で補える

シート高は850㎜と、XL750 TRANSALPは大型アドベンチャーツアラーの中では低い部類に入りますが、大型クラスのネイキッドモデルと比べ高いと言わざるを得ません。足をおろしやすいようライダーシート前端部の形状は工夫されていますが、身長172㎝で両足の場合はつま先が、片足の場合は母趾球が接地します。着座位置をずらせば、片足時の接地面は増えるので、路面の状況をすばやく判断して、片足・両足にするのか、片足で着座位置をずらすのかを判断しましょう。

着座位置が約30㎜低くなる『ローシート』が純正アクセサリーパーツで用意されています(37,026円・税込)。足つきに不安がある人は、こちらの導入をオススメします
取りまわし|動き出せば不安は少ない

ハンドル位置が高いこと、車重が216㎏あることから、押し出す際に力を込める必要があります。ただ、動き出せば問題はありません。大型アドベンチャーツアラーの中でXL750 TRANSALPの車重は軽い部類に入るので、腰まわりでガソリンタンクあたりを支えながら、取りまわすと不安を減らして取りまわせます。なお、倒立フロントフォークのため、ハンドル切れ角は大きいとは言えません。狭い路地などでは何回か切り返す必要がありました。
タンデム|二人で遠くへ行きたくなる

タンデムシートの位置が高いため、二人乗りする際には段差を利用するとまたがりやすいし、ライダーがバランスを崩して立ちゴケすることを防ぐことができます。パワーがあるので二人乗りでも発進時に気を遣わずに済みますし、タンデムシートが肉厚でリアキャリアがグラブバーも兼ねていて後ろに乗る方も姿勢保持をしやすいので、タンデムライドを考えている人にもピッタリのマシンと言えます。
街乗り編|街でも扱える冒険ツアラー

XL750 TRANSALPに搭載される並列2気筒エンジンは、回せば回すほど元気になっていきますが街乗りでは低い回転域でも十分! 車重は重めですが、走り出せば気になりませんし、低速で走ってもニーグリップをしっかりとすればフラつくこともありません。ただし、スポーツモードとグラベルモードではレスポンスがよくトルクフルのため、アクセルワークに気をつかいました。なので、街乗りではスタンダードモードか、レインモードの方がストレスなく走ることができます。
ストップ&ゴーを繰り返す街乗りでは、乗り始めたときには足つきに気をつかいました。ですが、慣れてくるとすばやく路面の状況を判断し、片足にするか、両足にするかを無意識のうちに選んでいました。
なお、Uターンのところでも触れますが、XL750 TRANSALPのホイールベースは1,560㎜。一方、同型エンジンを搭載するCB750HORNETは1,420㎜。CB750HORNETと比べると小回りが効きません。狭い路地などに入ったときには、降りて取りまわすことが何度かありました。これはXL750 TRANSALPに限らず、アドベンチャーツアラーの特性とも言える部分。
高速道路編|余裕ある走りで旅の距離が伸びる

アドベンチャーツアラーを相棒に選ぶライダーの多くは『ツーリングを楽しみたい』と思うことでしょう。XL750 TRANSALPも旅力に優れているマシンだと感じました。その理由はいくつかありますが、まず一点目は『防風性の高さ』です。大型スクリーンを装備するため、走行風による疲労が少ない。純正スクリーンでも気持ち前傾姿勢になることで、ヘルメット上部に当たる風もあまり感じません。リラックスした乗車姿勢を取れること、肉厚なシートも相まって疲れにくいのです。
二点目は直進安定性が高いこと。街乗りでは不利に働いたホイールベースの長さも、高速道路での走行ではプラスに働き、不安なく突き進んでいくことができるのです。2025年モデルでサスペンションのセッティングが見直されたことも影響し路面からの衝撃もほとんど気にすることなく、気持ちよく走ることができました。

三点目はパワフルなエンジン特性です。XL750 TRANSALPは6速100㎞/h巡行で3,800rpmほどで、振動も感じずに走れました。その状態からでもギアを2段ほど落としてアクセルを開ければ力強く加速してくれます。余裕があるので、高速道路を多用するツーリングスタイルにマッチするのもXL750 TRANSALPの魅力です。
ワインディング編|大径ホイールでも軽快に走る

フロント21インチ・リア18インチホイールを履くXL750 TRANSALPは、前後17インチホイールを履き、アドベンチャーツアラーよりもホイールベースが短いスーパースポーツやネイキッドのようにコーナー軽快に駆け抜けていく乗り味ではありません。しかし、アドベンチャーツアラーというカテゴリで見てみると、十分楽しめる潜在能力を秘めています。

一言でアドベンチャーツアラーと言っても、オンロード寄りのマシンもあれば、オフロード寄りのマシンもあります。XL750 TRANSALPはホイールサイズはオフロード寄りなのですが、2023年に初めて乗ったときはオンロードも十分楽しめるという印象を受けました。パワフルかつモードを選べるエンジン、オンロードでも十分効き、コントロール性の高いブレーキも相まって、ワインディングを走ってふとメーターを見てみると、車体の安定感が高く思った以上のペースで走っていたのです。2025年モデルでサスペンションの見直しを受けたこともプラスに働き、以前乗ったときよりも気持ちよくワインディングを駆け抜けることができました。
ダート編|ビギナーにも優しいオフ性能

今回試乗したXL750 TRANSALPはオンロードとオフロード両方を想定して作り込まれたマシンであるため、荒れた路面も走行してみました。250㏄トレールバイクでダート走行を楽しんでいますが、技術的には平均レベル。いわゆる大型アドベンチャーツアラーでのダート走行の経験はほとんどありません。今回は比較的にいいコンディションのいいダートを選択。それでも足をつこうとして『車両を支えきれずに立ちゴケする…』という不安がありましたが、結論としては杞憂でした。

多少、小ぶりの石が落ちているところもありましたが、走り抜けることができました。サスペンションとトラクションコントロールがしっかりと仕事をしてくれたこともあります。それに加えて個人的にあってよかったと思ったのがライディングモードを選択できること。ダートを速く走れる技術があればグラベルモードでガンガン走ることも楽しめるのでしょうが、トルクフルな特性であるがゆえにスロットル操作に気をつかい、筆者にはもてあましてしまう感が…。そこでレインモードにしたところトルクが穏やかになり、安心してスロットルを開けられるように。技術に応じて変更できる懐の広さもあり、オフロードビギナーも安心できるダート性能を備えていると感じました。

ただし、それでもオンロードと比べ転倒のリスクが高いのがオフロードそのため、車体にガードを装着したり、ライディングギアにこだわることをオススメします。
Uターン|無理せず曲がるのが正解

バイクで走っていると、道を間違えたりしてUターンする必要があることも。XL750 TRANSALPをはじめとするアドベンチャーツアラーはホイールベースが長いため、小回りが得意ではありません。
それでもXL750 TRANSALPは片側1車線であれば、ハンドルをフルロックさせ、リアブレーキをうまく組み合わせれば転回することはできました。ただそれ以下の道幅の場合は停止して、切り返すことも。また坂道など足つきに不安がある場合は、車両から降りて取りまわして方向転換するシーンもありました。
Honda E-clutchの実力|大型アドベンチャーを優しく変える

クラッチレバーを握らず、ニュートラルから1速に入れてもエンストせず、ギアチェンジの際もクラッチレバーを握る必要のないHonda E-Clutchのメリットは色々な場面で感じることができました。
まずストップ&ゴーを繰り返すシーンの多い街乗りでは、クラッチレバーを握らずに発進・停止ができるのは、疲労軽減に大きく結びつきます。アシスト&スリッパークラッチが導入されているXL750 TRANSALPはクラッチレバーを握る際の力が少なくて済むのですが、やはりクラッチレバーを操作しない恩恵は大きい。また、高速道路の渋滞でもその恩恵を感じられます。Uターンもクラッチ操作以外に意識を向けられるので、よりスムーズにできました。その一方で半クラッチを使ってUターンしたいという人もいるでしょう。それが可能なのもHonda E-Clutchの特徴です。

なお、XL750 TRANSALPはこれまでHonda E-Clutchが導入されたモデルと違う点があります。CB650R・CBR650RやRebel 250・CL250はワイヤーを介してフューエルインジェクションのスロットバルブの開閉を行ないますが、XL750 TRANSALPは電気信号に変換してスロットバルブの開閉を行なうスロットルバイワイヤシステム(TBW)を採用していること。
スロットルバイワイヤとHonda E-Clutchを組み合わせたのは、XL750 TRANSALPとCB750HORNETが初。従来はシフトダウン時のエンジン側とリアタイヤ側の回転差を半クラッチで吸収していましたが、スロットルバイワイヤと組み合わせたことで自動的にブリッピングを行なって回転差を合わせるように。ちなみにブリッピングとは、走行中にクラッチを切った状態でアクセルを一瞬開け、エンジン回転数を上げること。主にシフトダウン時に行ない、ギア比の差によるショックやエンジンブレーキをやわらげることに結びつきます。そのため、ワインディングなどでよりスポーティな走りを楽しめるようになっていました。それと従来のHonda E-Clutchやクイックシフター装着車の場合、1速から2速にギアを上げる時にショックを感じることもありましたが、XL750 TRANSALPではほとんど感じませんでした。
そして、シート高が高いXL750 TRANSALPだからこそ感じた魅力もありました。まず、街乗りで信号待ちする際、エンストの心配がないのは精神的疲労の軽減に結びついたこと。とくに発進時にエンストして転倒するというパターンを心配しなくていいのは頼もしい限り。
それに加えてニュートラルに入れなくても停止していられること。足つきが悪い、とくに片足しかつかないバイクでニュートラルに入れるのは面倒だったりします。そうせずに1速のままクラッチレバーを握り続けるのも、疲労が蓄積していきます。この心配をしなくてもいいのはありがたいことです。とくにダート走行で助けられました。Honda E-Clutchが導入されたことで、XL750 TRANSALPはより身近な存在になったと感じました。乗り始めこそ緊張しましたが、途中から気軽に乗り回せるようになっていたのです。
まとめ|Honda E-ClutchがXL750 TRANSALPの安心感をグンと高める

2026年モデルの『XL750 TRANSALP E-Clutch』は、アドベンチャーツアラーらしい長距離性能と、オン/オフ問わず楽しめる走破性を高いレベルで両立した1台でした。街乗りでは足つきや小回りに慣れが必要だと感じたところもありますが、一度感覚をつかめば扱いやすく、高速道路ではすぐれた防風性と直進安定性によって快適なクルージングを楽しめます。ワインディングでは想像以上に軽快な走りを見せ、ダートでもライダーの技量に合わせてモード選択によって得られる安心感がありました。

そして何より印象的だったのが、Honda E-Clutchの存在。発進・停止時の不安や疲労を大きく軽減し、街乗りや渋滞、高速道路、さらにはUターンやダート走行時にサポートしてくれること。大型アドベンチャーツアラーに対して「扱うのが難しそう」というイメージを持っている人でも、E-Clutchの恩恵によって気負わず楽しめるでしょう。ツーリング性能はもちろん“大型アドベンチャーをもっと身近にしてくれる存在”。それが、XL750 TRANSALP E-Clutchの最大の魅力だと感じました。
【文:吉田 朋(タンデムスタイル編集部)・写真:関野 温(外部スタッフ)】

















