HAWK 11はご存じの通り、ひとりのHondaの社員の提案からはじまり、それが現実となったバイクだ。
その発案者、内田さんが実際にHAWK 11を買ったというので自宅まで押しかけてみたのだが、そこに待っていたのは衝撃の事実だった……
その“洗練”は自分に相応しいのか?
アフリカツイン(CRF1000L Africa Twin)のエンジンの音を聞いた瞬間に「このエンジンでワインディングを思いきり楽しめるバイクがあったら楽しいだろうな……」と直感し、それを提案。本人も当初はそこまでは考えていなかったかもしれないが、ついに市販化まで至ったのがHAWK 11(ホーク11)というバイクが生まれた大まかな経緯だ。
そのストーリーは過去の記事を参考にして頂くとして、今回はその発案者たる内田さんが、実際にHAWK 11を購入し、納車されたというので話を聞いてみることにした。自分のイメージが現実のものとなったバイクに対し、どういう印象を抱いたのか?やっぱりそれは気になることだ。
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ところで今回は、内田さん自身のバイクということもあり、ご自宅まで伺って(押し掛けて)話を聞くことにしたのだが……
しかし、ここで驚くべき展開が待っていた。このHAWK 11スペシャルインタビューシリーズの中でも、ある意味、最大の衝撃だったかもしれない。
……なんと、ブラック(グラファイトブラック)だったのだ。ブルー(パールホークスアイブルー)ではなく。
これまでにも言ってきたことだけれど、HAWK 11の根底には『色んなバイクを乗り継いできた男が“半日の自由”の中でワインディングを楽しむため』というコンセプトがあり、そのイメージカラーとして自然の緑に溶け込むようなブルーのイメージが開発初期からあった。
しかし、発案者自身が選んだカラーは、自らがイメージし、提案もしたブルーではなかったのだ。
内田さん『自分の家でHAWK 11をイメージしている時は、自然の緑や空の写り込みを楽しんで欲しいと思っていました。だからHAWK 11は絶対にブルーがいいと思っていたし、シルバーとブルーのコンビネーションはこのバイクに似合ってる。自分にとっての最後の1台、“上がりのバイク”として欲しいと思った色でした。だから私も「ブルーをください」ってお店で言ったんです。それで正式に注文しました』
けれど事実として、ガレージに収まるのはブラックだ。ひょっとしてブルーは納車に時間がすごく掛かると言われたとか、そういう理由で仕方なくブラックを選んだのだろうか?
内田さん『それがですね……注文して家に帰ってから悩んじゃって。HAWK 11のブルーは朝の空気感や緑と調和、溶け込む色。つまり洗練されたブルーです。その色が自分に似合うのか? って思っちゃって。自分のライフスタイルや愛着のあるウェアやヘルメットに合うのか、と。対してブラックは私にとって“走る印象の色”だった。そこから3日くらい悩んで、お店に「すみませんブラックに変更できますか!?」って言ってしまったんです』
これは「デザイナーならではの感性」と言うべきだろうか。そして長く付き合うことになる愛車だからこそ、真剣に考えた結果に違いない。そうして悩みに悩んだ末、内田さんは自分らしいバイクライフを楽しむためブラックを選択したのだ。
ちなみに、この内田さんという人物。デザイナーという立場でありながら(さすがはHonda社員と言うべきか)バイクとの付き合いかたはかなり本気で走るタイプの人だ。なにせ乗る時はコレ!というお気に入りのウェアは上下ともにバリバリのレザー。その装いはお洒落ライダーと言うより、王道かつ、極めて正統派のライダーものだった。
そして、そんな「走る人」としての内田さんに、HAWK 11の印象について聞いてみた。
内田さん『まず、軽い。なにもかも。サイドスタンドを上げる時から、エンジンを切って押し引きする時も軽い。もちろん走っていてバイクさせる時もです。一度、仲間に誘われて群馬サイクルスポーツセンターというクローズドのコースを走りにいったんです。その時に強くそれを感じました』
群馬サイクルスポーツセンターというのは、実際に走るとかなりタイトでサーキットというよりもクローズド化された“峠”に近いようなテクニカルなコース。路面が荒れた部分もあれば、予想以上に回り込んだコーナーもあり、一筋縄ではいかない場所なのだが、そんなシチュエーションでHAWK 11はその性能を遺憾なく発揮させたようだ。
内田さん『それにライディングポジションの自由度には驚きました。特に前後の自由度です。本気で走る時のライディングフォームを取っても、まだすこしシート後端まで余裕があるんです。ハンドルの高さもいい。スポーティなフォームを取った時のフィット感が素晴らしいんです。そして、そこからさらに後ろに座ればベッタリと伏せることができる。走っていると、気分はもうグランプリレーサーですよ』
さらには内田さん、シートの完成度の高さにも感動していたようだ。
内田さん『シートポジションの自由度が高いから、一般道を普通に走っている時に座る位置をちょこちょこ変えられるんです。ずっと同じ位置に座っていないからお尻も痛くなりません。良いシートです。そしてもうひとつ思ったのが、このバイクは“一般道を走って楽しいバイク”だということでした』
内田さんがHAWK 11の前に所有していたバイクの中には120馬力オーバーのスーパーネイキッドがあったのだが、そのバイクはあまりにも鋭すぎて、一般道を走ることがなんとなく楽しめず、気づいてみればサーキットばかり走るようになってしまったのだとか。そこにきてHAWK 11は、公道を走ってこそ面白いと感じられる仕上がり。まさしくHondaが謳う「THE WINDING SPORT」ということなのだろう。
自分のアイデアが『現実のバイク』になるということ
内田さん『けれど実際に乗りはじめてみて「このバイクのDCT仕様があったらどうなんだろう?」と思ったりはしています。今のラインアップには純粋なオンロードスポーツでのDCT搭載車が無いですから、そこに興味があります。あとはそう……ナビが欲しいかもしれません。今までは地図派だったんですが、最近は細かい文字がちょっと……ね(笑)』
HAWK 11はロケットカウルのスタイルながら、その走りはワインディングをターゲットにしたピュアスポーツ。確かに最新のDCT機構を組み合わせたら、別世界が見えてくる可能性はあるだろう。あとはチェーンのメンテナンスのためにレーシングスタンドを掛けるフックが欲しいのだとか……洗車の際に愛車を愛でるために。
内田さん『だけど実際に買ってみてから思いましたが、これは人に自慢しちゃダメだな、なんて思うようになってます。だってバイクに乗る人間として、こんな贅沢ありませんよ。これ以上はないし、二度は無い経験でしょう。ありがたい限りで、自分の分身のように感じてます』
それはそうだろう。カスタムバイクとして1台を仕上げるのとは次元が違う。Hondaという世界最大のバイクメーカーが、その技術を結集して自分のアイデアをカタチにしているのだ。畏れ多い、といったような感情が芽生えても不思議はない。
そこでちょっと意地悪な質問をひとつ。もしもこの先、内田さんにとってHawk 11以上に理想的なバイクが発売されたりしたら買い換えたりしますか? と問うてみた。
内田さん『何事も無ければ(※壊したりしなければ)買い換えたりすることは無いと思います。だって、ここに私の理想としての「こうしたい」はもうすべて入ってるんです。しかも(自分がイメージしていたよりも)それ以上なんです。ずっと乗り続けます』
言ってから、愚問だったと気づいた。内田さんにとって、HAWK 11とは理想が現実となった夢のようなバイクなのだ。これ以上なんて、ある訳がない。
色んなバイクを乗り継いできたベテランライダーが、本当に欲しいと願った2気筒のオンロードスポーツ。HAWK 11は癖の強いバイクだけれど、それ故に、この感性に共鳴する人はきっといることだろう。
そして、その人にとってもHAWK 11は、バイク人生を彩る最良のパートナーになる可能性がある。
それにしても、だ。
ひとりのバイク乗りの『想い』をカタチにしたものを、製品として世に送り出すなんて……Hondaは、やっぱり他とは違う。
本当に夢のあるメーカーだな、と思う次第だ。
【文/北岡博樹(外部ライター)】