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夢物語で終わらせない。製造の現場は誰よりも『リアル』にHAWK 11(ホーク11)をジャッジする【HAWK 11を、知る /製造 編】

いかに理想が高くとも実現できなければ意味が無い。HAWK 11という『特殊なバイク』を現実のものとするために判断を下す。そんな人たちにとってもHAWK 11は他とは違うバイクだった。

製造の現場は理想論だけでは動かない

HAWK 11(ホーク11)というバイクは、その大きな特徴としてFRP(繊維強化プラスチック)製のロケットカウルを採用している。そして我々ユーザーはそれを『こだわり』として捉えている。だけど製造の現場にとって、話はそう簡単じゃない……

製造の現場は、今ある技術や設備でそれを「現実問題」として、作れるかどうかの判断をし、実行しなければならないからだ。

今回はHAWK 11の生産を行う熊本製作所で、製造の現場を指揮したEPL(Engineering Project Leader )の古賀さんと、その補佐を務めた木村さんに、HAWK 11というバイクについて「現場の視点」から話を伺ってみた。

古賀貴大さん(EPL)

古賀さん『HAWK 11は特殊なバイクだと思います。FRPっていうのは(製造の現場としては)思った通りの形にしにくい素材なんです。普通にやればピンホールや欠けができてしまうので量産に向いているとは言えません。そのデメリットをどうするか? そもそもFRPがベストなのかどうか?をまず判断する必要がありました。コストの問題も含めて、FRPでいくなら品質も高めなければいけないので』

そう切り出したEPLの古賀さんは、かなりクレバーな視点でHAWK 11を語りはじめた。だけど面白いもので、その補佐を務める木村さんは古賀さんとはちょっと違うキャラクター。古賀さんの言葉を柔らかく受け止め、補完する。

木村さん『品質を高めるっていうのは、品質目標をどうするか? っていうことなんですけど、まずこのHAWK 11って日本限定じゃないですか。日本の人に向けてこういうバイクを造れるっていうのは前提として嬉しいことなんです。そのための品質。今は世界基準世界基準がスタンダードだけど、日本を忘れた訳じゃないっていうか』

木村義彰さん(EPL代行)

第一印象でこんなことを言っていいものかどうか迷うけれど、どうもこの2人、ハタから見る限りは凸凹コンビ的な雰囲気……だけどウマは合うようで、見方は違えど、何でも話せる間柄のようだった。

そんな2人が最も注力したのは、やっぱりHAWK 11のロケットカウル。一品モノじゃない、特殊な素材となるFRPでの「量産」を現実のものにしなければならないからだ。

古賀さん『品質向上のためにロケットカウルにかけた時間と手間は他とは比べ物になりません。めちゃくちゃ時間がかかりました。気分的には我々、製造領域における開発期間の半分くらいをロケットカウルに費やしたように思えています。ただこのバイクは営業部門や、その他とのつながりが濃くて“チームとしての一体感”みたいなものがすごく強かった。やってるときは必死で何も考えられないほどでしたが、いま思えばとても有意義で“良い経験”だったと感じています』

木村さん『本当に、寝ても覚めてもHAWK 11っていうくらい、怒涛のように過ぎ去った日々でしたからね。一部品に対してこんなに時間をかけたのは初めてかも。だけど振り返ってみれば、楽しかった。(開発に携わる)メンバーが良かったんでしょうね。HAWK 11は朝霞研究所で開発が行われたバイクだけど、朝霞との距離もすごく近くに感じてました。それにLPL(総指揮を執る役職/Large Project Leader)がすごくロジカルで、理にかなった説明をしてくれる人でしたから』

そうして2人が口を揃えるのはHAWK 11を手掛けたことによる意識の変化。製造の現場と統率する立場にあって「自分を見直す機会」にもなったようだ。

木村さん『だってね!? LPLが作業工程まで全部チェックするんですよ? 普通そんなことはありません。でもそのおかげでかなり意識は高かった。自覚させてくれた、と言うべきかもしれません』

古賀さん『いや本当に……よくやれたな、って思ってます。開発期間も短かったですし、はじめはやりきれるか不安でしたから。通常と違いすぎてHAWK 11はちょっと怖かったくらいです。きちんとラインが流れるかなって、生産が実際に始まるまでドキドキでした。いまはもう“ホッと安心感”です』

木村さん『ボクはねぇ、HAWK 11が発売日を迎えて、むしろこのバイクの行く末を心配してる。次はどうなるんだろう? モデルチェンジとかしたら次もちゃんと組めるかな?ってね』

どうもこの2人と話していると「あるイメージ」が湧いてくるのを止められない。なのでここは、正直に言っておこうと思う。

先に第一印象として凸凹コンビと言ったけれど、撤回する。なんだかこの2人……両親、みたいな感じなのだ。古賀さんがお母さんで、木村さんがお父さん。実際、インタビューの途中から「手のかかった自慢の息子」あるいは「手塩にかけた箱入り娘」の話を聞いているような気分だったことを、今回のインタビューの特記事項としておきたい。

ちょっと違うかもしれないけど、発案者や開発者が生みの親であるならば、この2人は育ての親とでも言ったところか。シビアなはずの製造の現場で、こんなにもほっこりした気分にさせられるとは予想外だったけど、この2人の掛け合いを聞いているだけで「HAWK 11ってなんだかいいナァ」って改めて感じたことも事実だった。

HAWK 11はバイクで、工業製品で、機械だ。

でも、ひょっとしてはHAWK 11っていうのは、近年まれに見るほど色んな人の愛情がたくさん詰まった“あったかいバイク”なんじゃないか? って思ってしまうのは私だけでしょうか?

現場からは、以上です!

【文/北岡博樹(外部ライター)】

 

 

 

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