ワインディングで走らせれば限りなくスポーティ! けれど普通に流せば快適ですらあるHAWK 11。
その万能の足まわりには、ダカール・ラリーの経験が活かされているのかもしれない。
エンジンを活かすも殺すも車体次第
個人的な感覚になるけれど、バイクの面白さの中核っていうのは、やっぱり『エンジン』にあると思う。
けれど色んなバイクを乗り継いでくると、どんなに名機エンジンであろうと、それを安心して楽しめる土台がなければ成立しないということも何となくわかってくる。このあたり、長くバイクを乗ってきたご同輩がたには釈迦に説法と言うものだろう。
そして、バイクにおける『土台』といえばフレームをはじめとした車体、そして前後サスペンションやブレーキシステムを中心とした『足まわり』だ。
HAWK 11の場合、フレームはエンジン同様にCRF1100L Africa Twinシリーズ、あるいはNT1100と共用となっているので、焦点はおのずと足まわりに集中してくるんだけれど、今回、ずっと『謎』だった部分がひとつ解明されたような話を聞くことができたのでお伝えしておきたい。
まずその『謎』というのは、HAWK 11の走りがあまりにも万能だということ。
特に前後サスペンションなんだけれど、ワインディングを走れば抜群の安定感を発揮するにも関わらず、街乗りや高速道路では快適だとすら感じる。スポーティなバイクといえばガチガチに締め上げられた固い乗り心地を想像しがちだけど、HAWK 11にそれは当てはまらない。
ダカールラリーの経験が活かされている?
その魔法のような足まわりを担当した人物こそがシャーシ開発の戸村さん。足まわり設計をまとめあげたPL(Project Leader)だ。
戸村さん『自分は2010年からダカール・ラリーを担当していました。2016年からはレースにずっと帯同もしてます』
この経歴を聞いた瞬間、謎が一気に氷解した。
ラリーレイドという競技に詳しくなくても、それが砂漠などの悪路から(日本のような道でないとしても)舗装された道まで、あらゆる道を走破するレースだということは容易に想像がつくと思う。
その経験を持ったエンジニアがHAWK11の足まわり設計のリーダーを務めている。それだけでも魔法のようにしなやかに動き、かつ必要な時はきちんと踏ん張る前後サスペンションを実現したことに関して、十分以上の説得力だ。
戸村さん『フレームが十分な剛性や強度を持っていることはわかっていましたし、最初の試作車の段階ではNT1100の足まわりを使用していたんですが、NT1100も前後17インチホイールですし、その時点である程度の下地はもうありました。そこからオンロードスポーツとしてヒラヒラ感を出したくてキャスター角を25度にしています。25度っていうとCB1300シリーズがそうですが、HAWK 11は軽いですから』
続く言葉にも納得しかない。
Hondaの大型ロードスポーツを代表するCB1300シリーズはネイキッドのCB1300 SUPER FOURですら車両重量は266kg。しかしながら走り出せば信じられないほど軽快に動いてくれるバイクだ。そこから重量にして50kg以上も軽いとなれば、HAWK 11の動きの軽さにも納得がいく。
戸村さん『スイングアームをどうするかは最初は決まっていませんでしたけど、最終的にはNT1100のものを使う事にしました。それをベースにアクスル位置などを加工してホイールベースを短くしたり。けっこう細かいことをやってたりします。ディメンション(バイクの操安性に影響する各部のサイズや配置)を死守することが大前提でしたし、前傾姿勢のバイクとはいえ、乗る人を疲れさせたくない。なるべくラクにしてあげたいと思っていました』
ライダーの疲労度にまで考えが及ぶのは、さすがにダカール・ラリーのエンジニアといったところか。こう聞いていると、順風満帆に開発が進んでいったように思えるが、バイクの開発というのはやはり一筋縄ではいかないものらしい……
技術力だけでなく、こだわりも強い
戸村さん『でも前後サスペンションは、一旦はOKを出したんですが、その後にどうも(オンロードスポーツとしては)フロントが大回りする、という問題が出てきちゃって……その時にはあらかじめ決められていたスケジュールの期限を踏み越えちゃってたんですけど「もう少しやらせてくれ!」って頭を下げにいったりもしてたんです(笑)あとはフロントブレーキをラジアルポンプ化できたことでしょうか。最初は流石に怒られるだろうと思いつつ提案したんですが……』
そう、HAWK 11の特徴のひとつとして忘れてはいけないのがフロントブレーキの扱いやすさ。これも前後サスペンション同様に魔法のようなフィーリングが味わえて、突然、自分のブレーキングスキルが上がったように錯覚するほどにコントローラブルだ。
戸村さん『やっぱりコスト的には高いですし、それが(車両価格に反映されて)お客さんの負担になっちゃいけないし。でも大前提がディメンション、ライディングポジションを崩さないことで、ラジアルポンプ化すればスペースの問題も解決できた。それに加えて性能を出せる。扱いやすさとダイレクト感が出せるんです。このブレーキが使えなければハンドル位置も変えざるを得ないので意を決して相談したんですけど、あっさり採用されて逆に驚きました』
HAWK 11の開発総責任者LPL(Large Project Leader)は、その提案が理にかなっていて、理解してもらえればまっすぐに進ませてくれる人物。ブレーキにラジアルポンプのマスターシリンダーを採用することができたおかげで、HAWK 11は絶妙のライディングポジションと同時に自由自在のブレーキング性能を手に入れているのだ。
戸村さん『あとは……これです。見てください』
取り出したるはトップブリッジ。嬉々としてトップブリッジを差し出してきた戸村さんに対し、一瞬『なぜ?』と思ってしまったことをここで白状しておきたい。
戸村さん『これは試作品なんですが、HAWK 11はトップブリッジを鍛造化しているんです。強度もあるからハンドリングも軽くなります』
正直に言うけれど、インタビューの現場で突然それを見せられた時、それが鋳造か鍛造かということにまで頭が回らなかった。言われてみれば確かに……といったところだが、戸村さんとしてはそれだけじゃないようだ。
戸村さん『トップブリッジはけっこう作り込んでいるんです。見えないけど裏側までこだわってます。足まわりって、走っている時は基本的に見えないでしょう? 唯一、ライダーから目に見えるのがトップブリッジ。だからここは足まわり設計の“見せ場”なんです。この割り締め(フロントフォークをボルトで留める部分)の位置とか角度、いいでしょう? カッコいいと思いませんか!?』
嬉々として語り出す戸村さん。
ああ……うん。この人、ものすごく「エンジニア」だ。それも愛すべきタイプの。
仮にHAWK 11のオーナーとなる人たちでも、この熱意、あるいは情熱は少々伝わりにくいかもしれない。だからこそ、ここで言っておく。HAWK 11の足まわりはダカール・ラリーの経験を持った凄腕が担当しているということ。
そして、その人物は……バイクの足まわりというものに対する『愛』を感じさせる人物だということを!
【文/北岡博樹(外部ライター)】