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エンジンから見えるHAWK 11(ホーク 11)の地平線【HAWK 11を、知る / 開発インタビュー④ エンジン編】

アフリカツイン(CRF1100L Africa Twin)に搭載されているエンジンでワインディングを楽しめるバイクを作る。HAWK 11が生まれることになったその原点は、エンジン設計の担当者にとって『すべてに勝る』ものだったんです。

ネガティブじゃない。最高のエンジンだからこそ!

ちょっとバイクに詳しい人が『エンジンを流用して別のバイクを作る』と聞くと、つまり派生モデルっていうことかな? と思うかもしれません。

実のところ、エンジン設計のPL(プロジェクトリーダー)に話を聞くまでは、これを書いている私(北岡)もそういう感覚をすこし持っていたことを先に白状しておきます。だけど、それは大間違いでした。HAWK 11は断じて『エンジン流用の派生モデル』では無かったのです……。

若狭さん『HAWK 11はまずはじめにエンジンありき、で始まりました。でもエンジン流用っていうと、有りモノを使うみたいで、あまり良いイメージに聞こえないじゃないですか?だけど、それ違うんですよ。ボクたちチーム原動機(※エンジン担当チームのこと)はたぶん、誰一人そういうネガティブな印象は持ってなかったんじゃないでしょうか。』

今回、インタビューをさせてもらったのはエンジン設計のPLを務めた若狭秀智さん。こちらが何かを問う前からいきなり核心というか、気になっていたところから話が始まりました。

若狭さん『本当にシンプルに「最高のエンジンだから」としか考えていなかったんです。だから、その性能をフルスペックで世に送り出す。それが役割だと思っていました。LPL(Large Project Leader)とも「エンジンの良さをスポイルするのは一切無し、馬力を下げるなんてもってのほか」って話を最初にしていましたしね。』

二輪レース部 開発室第二開発ブロック(HAWK 11開発中はものづくり統括部に所属) 若狭 秀智さん

Honda社内でも"ものづくりに一切の妥協を許さない人”として、ある意味、恐れられていた後藤悌四郎さん(※現在はHAWK 11を最期に定年・勇退している)が総責任者を務めたHAWK 11。その人物と交わされた至上命題はシンプルに、それだったと言います。

若狭さん『だけど、簡単なことじゃないんです。車体がコンパクトなHAWK 11はアフリカツイン(CRF1100L AfricaTwin)やNT1100のような大容量のエアクリーナーボックスを搭載することはできないし、ラジエターだって小さくしなきゃいけないから熱の問題が出てくる。それにHAWK 11は車体設計との兼ね合いでNT1100よりもエンジンがすこし前傾して搭載されているんです。そうしたらエンジンオイルの油面の角度だって変わっちゃいますからね。』

軽い口調でこともなげに若狭さんは言うけれど、実のところ、それはけっこう無理難題に等しい要求。つまるところ、エンジンが欲する空気を送り込めず、熱やオイルの管理も難しくなるということに等しい。だからといって、エンジンの持つ魅力を下げることは、一切考えていなかったという。

『吸排気の担当者は別にいるんですが、もう空気抵抗から見直してましたから。いちばん苦労したのは彼じゃないかな? こだわったのは常用域、低中速です。トルクが豊かで鼓動感もある270度クランクの1082ccパラレルツイン。それを「リッタークラスのオンロードスポーツ」として楽しいバイクにする。低中速のトルク、4000回転あたりまでの力強さなんてNT1100よりもアップしているんですよ?』

だけどそれらはすべて“優秀なエンジン”という土台が無ければ成立しないもの。優れたエンジンだったからこそ、HAWK 11のエンジンはフルスペックで世に出ることが叶ったのだという。

若狭さん『良いエンジンだから、高回転域は元を活かせばよかった。だから低中速域に“HAWKらしさ”を出しています。(加速時の)路面を蹴り出す感覚とかゆっくり走っている時でもリッターバイクを駆る満足感が感じられるように、って。あとは、実は「強すぎる加速感」をすこし抑えていたりもするんです。』

この話は、聞いていて個人的にすこし嬉しくなった部分。最高出力102馬力のエンジンというのは、我々のような普通のライダーにとっては“速すぎる”と感じるほどの大パワーで、モノによっては『エンジンに急かされる』という感覚を抱くことも少なくない。

けれどHAWK 11の走りは、ゆったり流すぶんには極めてテイスティ。その走りは、まさにエンジン設計者の狙いそのものだったんです。

エンジン設計者にとっての『HAWK 11』はエンジンそのもの

若狭さん『HAWK 11のコンセプトに「速くない、でもすこし速い」っていうコンセプトがあるじゃないですか。あれはかなり初期から決まっていたことでして、ボクはそれを見た時にイメージがストンと腹に落ちたんです。だから全然迷わなかった。楽しく走るために、すこし速い。最後まで、そこはまったくブレませんでした。』

HAWK 11というバイクについて、その開発に携わったエンジニア、そしてデザイナーの人たちはみんな、まるで示し合わせでもしているかのように『最初から最後までブレなかった』と口を揃える。もちろんそれは口裏合わせなんかではなく、本当にそう感じているのだということは、彼らの話しぶりからもありありと伝わってくる。

若狭さん『自分から見える風景としてのHAWK 11の姿は、どこまでもエンジンありき、でした。アフリカツインのエンジンでワインディングを走ったら楽しいんじゃないか? そして「速くない、でもすこし速い」のイメージ。このバイクに求められるものはハッキリしていて、引き算はしない。HAWK11のエンジンに、マイナスはひとつもありません。』

そう言い切るエンジン設計の中心人物。彼にとってのHAWK 11は優れたエンジンの存在がすべての土台だった。そしてその仕事により、魅力は余すことなくHAWK 11に搭載されている。

そんな若狭さんから、最後にひとこと。

若狭さん『でもHAWK 11ね、すこし速いっていうか……本気出すと“けっこう速い”んですよ?』

笑ってそう付け加える若狭さんの顔は『乗ってみてくれよ!』と言わんばかりの自信に満ち溢れていた。

【文/北岡博樹(外部ライター)】

 

 

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