HONDA

HAWK 11 (ホーク 11)開発の中心的人物がこだわった『意外なもの』とは?【HAWK 11を、知る / 開発インタビュー② こだわり編】

開発の総指揮を執るLPL(Large Project Leader)の直下で各部門のスタッフを取り纏めたアシスタントチーフエンジニアの吉田さん。その人物がこだわったのは意外にも……

ロードスポーツとして成立するかどうか、すら分からなかった

ものづくり統括部 完成車開発部 アシスタントチーフエンジニア 吉田昌弘さん

 

アドベンチャーバイクのアフリカツイン(CRF1100L Africa Twin)のエンジンは、排気量1082ccの大排気量直列2気筒。そのエンジンとフレームを活かしてワインディングを楽しめるロードスポーツを作ってみたい。そんな気持ちからスタートしたHAWK 11は、誕生のいきさつだけではなく、開発過程も手探りだったと言います。

 

それもそのはず、ベースとなるアフリカツインは本格的なオフロード走行も想定された冒険ツーリングバイクであって、ワインディングを楽しむロードスポーツとは方向性がまるで違う。だから、まずは作ってみる。HAWK 11というバイクの開発は、緻密な計算より前に「体当たりで始まった」というほうが正しいのかもしれません。

 

 

吉田さん:『HAWK 11のこだわった部分ですか? もちろん、まずはロケットカウルありき、です。このカウル、よく出来ていると思いませんか? カッコいいでしょ? まずバイクはカッコよくないとダメ。見た目が悪かったら受け入れてもらえないですから』

 

吉田さんは開発の総責任者となるLPL(Large Project Leader)の直下で開発に携わったアシスタントチーフエンジニア。言わば「開発における中心人物のひとり」と言ってもいい。

 

吉田さん:『このバイクに人が跨って、正面から走ってくる姿が好きなんですよ。だけど……実をいうと、私が(ひとりのエンジニアとして)いちばんこだわった部分は“ライディングポジション”なんです』

 

 

この発言には実のところ、ちょっと意表をつかれた。

 

見た目のインパクトが強いバイクだし、ロケットカウルの美しさとか、アフリカツイン由来のエンジンフィーリングや走行フィーリングにこそ重きを置いているかと予想していたのだけれど、こだわったポイントはまさかの乗車姿勢だと言うのだ。

 

吉田さん:『そもそも最初の段階ではロードスポーツとして成立するかどうかすらわからない訳です。だから、まずは試作車を作ってみた。そうしたら「これはイケるな」って思ったんですが、その時のライディングポジションがすごく良かったんです』

 

ちなみに付け加えておくと最初の試作車というのは、言ってしまえば「何でもアリ」な状態で、ひたすらエンジニアの「こうしたい」というイメージで組み上げられるもの。けれどその先、Hondaのプロダクトとして作り上げられていく過程では、操縦安定性や安全性、法規なども含めてアジャストしていかなければなりません。試作車がどんなに理想的であったとしても『製品』としての要件を満たさなければ世に送り出すことは敵わない。それはエンジニアに課せられた至上命題のひとつです。

 

 

吉田さん:『だから試作車のライディングポジションを量産車でいかに再現するか、に徹底的にこだわりました』

 

今回、こうして話を聞く前に乗ったHAWK 11のライディングポジションは確かに秀逸。

 

実を言うと、私(北岡)が最初に跨った時は「お、けっこう前傾がキツいバイクだな。これは走りをかなり重視しているに違いない」なんてことを感じていて、ワインディングで初めてその走りを体感した時の“コーナリング中のおさまりの良さ”からHAWK 11はスポーティーさ優先のバイクだと思っていました。

 

 

その考えが一転したのはワインディングを走り終えた後の高速道路。

 

一定速度でクルージングしている時、ふと『あれ? けっこうラクかも?』なんて思ったんです。そして、それは一般道をツーリングペースで流す時にも変わることがありませんでした。

 

 

けっこうな前傾姿勢のはずなのに、自然に腕の力を抜くことができる。シート上でライダーが座る位置によっては、ハンドルに体重を乗せてしまうようなこともなく快適に走れてしまうんです。なのに、ワインディングで走る時にはしっくりくる。ちょっと不思議な、魔法のような前傾姿勢。

 

そんな経緯で「このライディングポジション、すごいな」と思っていたこともあり、吉田さんのこだわりは、私にとって腑に落ちるものでした。

 

 

吉田さん:『開発のいきさつの中でも話したことですが、リーダーが厳しい人でしたし、妥協は一切ありません。今のHAWK 11はあえてシンプルにまとめていますから、電子制御を含め、まだできることはあります。だけと今はこれでいい。この状態、このパッケージがいいんです』

 

技術は色々とある。だけど、それらを何でもかんでも投入すればいいという訳じゃない。

HAWK 11というバイクが目指した理想のひとつには「大人のライダーが半日の自由を楽しむため」というものがあるんだけれど、そのために必要なものを厳選した、ということなのだろう。

 

吉田さんの顔に溢れる優しい笑顔。そこからも、その言葉に嘘がないことはわかる。

 

 

吉田さん:『HAWK 11はライダーがドラマを作りやすい、人が主体のバイクだと考えています。走った後の充足感とか、パーソナルな心情を満たしてくれる。先にも言ったことですが、まずはこの“今までのHondaとは違う”HAWK 11というバイクを、こういうカタチで実現することができて良かった。そう思っています』

 

中心に人ありき。だから“乗り手のこと”を考えてライディングポジションを追求した。その方向性に一切のブレはありません。

 

すべては「大人の、つかの間の至福」のために。

 

いまHAWK 11のことを少しでも気になっている人が、もし実車に触れる機会があったら、その時は眺めるだけじゃなく実際に触れてみてください。

このバイクには、跨るだけでも伝わってくるものがある。そして、それこそが「エンジニアのこだわり」なのですから。

 

【文/北岡博樹(外部ライター)】

一覧へ戻る

関連記事

    PICKUP